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第十話 ラファエルの反転

ラファエルがその唇をルウから離した、瞬間、ルウの黒鳥のような大羽に刺さっていた六尺槍が、腐って朽ち落ちた。 ラファエルの体から湧き出るドス黒い煤煙が、彼に幾重にも纏わり付き、黒い薔薇の花弁を思わせる艶やかなフリルのドレスとなる。 輝く白磁のような肌と長い銀の髪はそのままに、天界一を誇った純白の羽根が、光を呑み込む深淵な影の色へと染まってゆく。 ラファエルの頭上のかつての光輪は、黒い茨の冠へと変わった。自らの顔を覆い隠すように差し上げられた白い手には、女のように細く赤い爪が長く伸びていた。 ギロリ、とラファエルが妖艶な眼差しを向ける。 堕落――などではない。 神の規範という冷たい枷を投げ捨て、自らの意志で手に入れた、美の解放だった。 槍を構えて駆けつけていた天使たちが、誰一人として動けなくなった。 威圧感だけではない。ラファエルから放たれる凄絶なまでの色香とカリスマに、理性を狂わされ、恐怖と恍惚の中で次々と膝をつき、手にしていた槍を床へ落としていく。 護られたはずのルウでさえも、その完全なる美の前に恐怖を感じた。 厳戒牢を埋め尽くすほどの巨大な怪鳥となったルウは、息を呑み、己の胸の中のラファエルの姿に見惚れていた。 「ルウ」 ラファエルが囁いた。その声は、かつて祈りの塔の頂上で聖歌を歌っていたよりも美しく、甘い毒のように鼓膜を痺れさせる。 ラファエルは重いドレスの裾を静かにに揺らし、華奢な白い指先で、ルウを捕らえていた厳戒牢の鉄の柱にそっと触れた。それはまるで腐った木切れのように黒く崩れ去り、一筋のチリとなって消えていく。 「さあ、行こうか」 ラファエルは、呆然とするルウに向かって両手を差しのべ、毒花のような笑みを浮かべた。 「もう誰にも、私たちの邪魔はさせない」

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