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第3話 本気で可愛がってやる

客間の扉には、今日も大きく、 牢屋♡ と貼られていた。 札は王妃によって一度剥がされた。 フィルが貼り直した。 二度目は王妃が破いた。 フィルが、前より厚い紙で書き直した。 三度目には、扉へ直接文字を書くと言い出したため、王妃が諦めた。 「王家の客間へ落書きをするつもりですか!」 「母上が札を剥がすからです」 「そもそも、ここは牢ではありません!」 「兵が見張っています」 「あなたが毎晩入っているでしょう!」 「事情聴取です」 「朝まで?」 「複雑な事件なので」 王妃は何か言いかけた。 扉の前に立つ兵士たちは、誰一人として目を合わせなかった。 **** 客間牢が誕生してから、五日。 フィルは毎晩、事情聴取へ訪れていた。 一日目は、シンの好物について。 二日目は、姉二人の幼い頃について。 三日目は、シンが騎士を目指していた理由について。 四日目は、ただ隣で眠った。 最後の夜だけ、事情聴取ではないのではと兵士から指摘が入った。 フィルは、 「シンの寝相を調べていました」 と押し切った。 その夜から、兵士たちはフィルが来る前に、朝食を二人分頼むようになった。 **** 「ずいぶん、いい牢ね」 面会に来た次姉が、室内を見回した。 長姉も、大きな寝台と暖炉を交互に見る。 「私たちの家より広いわ」 「俺もそう言った」 シンは長椅子へ座り、出された茶を飲んでいた。 囚人らしさは、扉の外に兵が立っていることくらいしかない。 食事は毎回豪華。 風呂も使える。 衣服も用意される。 城内の図書室から、本まで運ばれてきた。 「本当に帰ってこないつもり?」 「出してもらえないんだよ」 「脱走できそうだけど」 長姉が窓を見る。 「三階だが、降りられない高さじゃない」 「帰る気がないのね」 「事情が終わってないらしい」 次姉が扉の札を指差す。 「夜の?」 「何の話だ」 「兵士さんたちが、何も聞いてないのに『昨夜も長い事情聴取でした』って教えてくれたわ」 シンは茶を飲んだ。 長姉は頬を赤くし、次姉はにやにやしている。 「王子様とは、どういう関係なの?」 「会って一週間も経ってない」 「答えになってないわ」 そのとき、扉が開いた。 フィルが菓子を載せた盆を持って入ってくる。 「お待たせしました」 姉二人が立ち上がった。 「殿下」 「座っていてください。今日は、王都で人気の菓子を用意しました」 フィルは自ら茶を注ぎ、姉たちへ菓子を勧めた。 王子に給仕され、長姉は落ち着かない。 「私たちのような者に、そこまでしていただかなくても」 「シンの大切なご家族ですから」 フィルは当然のように答えた。 「長姉上は、甘いものがお好きだと聞きました」 「姉上?」 「シンのお姉様なので」 「王子様に姉上と呼ばれる日が来るとは思わなかったわ」 次姉が菓子をつまむ。 「私の好みも聞いているの?」 「服飾に興味がおありだと」 フィルは卓上へ一冊の本を置いた。 王都の仕立屋や布地商をまとめた名鑑だった。 次姉の目が輝く。 「これ、見てもいいの?」 「もちろんです。城下には、働き手を探している仕立屋も多いので」 「私が働くの?」 「望まれるのであれば。王都へ来ることを強いるつもりはありません」 フィルは柔らかく微笑んだ。 「ただ、選択肢は多い方がよいと思いました」 次姉がシンを見る。 シンは黙っていた。 長姉が遠慮がちに尋ねる。 「どうして、そこまで私たちへ?」 フィルは少し考えた。 「シンが、あなた方のために騎士になる夢を諦めたと聞きました」 シンが眉を上げる。 「誰に聞いた」 「シンに」 「俺、言ったか?」 「三日目の事情聴取で」 「話した気がするな」 フィルは姉たちへ向き直った。 「シンが大切にしてきた方々なら、僕も大切にしたいです」 長姉と次姉が顔を見合わせた。 次姉が、にやりと笑う。 「シン」 「何だ」 「この王子様、逃がさない方がいいわよ」 フィルが真っ赤になる。 「まだ、逃げるとも捕まえるとも言ってない」 「客間へ閉じ込められてるのは、あなたの方だけどね」 姉二人は、夕方までフィルと話して帰っていった。 扉の前で、次姉がフィルへ小声で何かを言う。 フィルの顔がさらに赤くなる。 シンが尋ねた。 「何を言われた」 「内緒です」 「姉貴に何を吹き込まれた」 「今夜も頑張って、と」 フィルは両手で顔を隠した。 シンは、しばらく黙ったあと笑った。 **** その夜。 フィルは、いつもより遅く客間牢へ来た。 手には小さな包みを持っている。 「今日は何だ」 「焼き菓子です」 「夕方も食った」 「これはシンの分です」 「そうか」 包みを受け取り、卓へ置く。 フィルは帰らない。 寝台の近くへ立ち、何か言いたそうにしている。 シンは長椅子へ座ったまま、その様子を眺めた。 「他に用があるんだろ」 「ありません」 「じゃあ、帰るか?」 フィルの肩が揺れる。 「……帰った方がいいですか」 「質問に質問で返すな」 「明日は朝から公務があります」 「なら寝ろ」 「はい」 フィルは扉へ向かった。 三歩進む。 止まる。 振り返る。 「シン」 「何だ」 「僕が帰ったら、寂しいですか」 「五日前まで、お前はいなかったぞ」 フィルの頬が少し膨らむ。 「そういう答えではなくて」 「王子は難しいな」 「シンが意地悪なんです」 「まだ何もしてない」 「これからするつもりですか」 言った直後、フィルは自分の言葉に気づき、耳まで赤くなった。 シンは口元を上げる。 「何を期待してるんだ」 「期待していません」 「じゃあ帰るか」 「……帰りません」 フィルは服の裾を握った。 視線を落とし、それでもシンの前へ戻ってくる。 「今夜も」 小さな声。 「今夜も、抱いてほしいです」 シンは、すぐには答えなかった。 フィルが不安そうに顔を上げる。 「毎晩来てるのに、まだ恥ずかしいのか」 「毎晩、抱かれているわけではありません」 「昨日は抱きついて寝ただろ」 「それは数に入りません」 「王子の基準は甘いな」 フィルの頬が、またぷーっと膨らんだ。 「もういいです」 背を向けようとした腰を、シンが引き寄せる。 フィルが声を上げた。 「わっ」 そのままシンの膝へ乗せられる。 「帰るのか?」 「帰ろうと思いました」 「本当に?」 「……少し止めてほしいとは思いました」 「素直じゃないな」 「シンが言わせるんです」 シンはフィルの顎を持ち上げた。 赤い頬。 揺れる瞳。 欲しいと言ったくせに、口づけられる直前になると息を止めている。 「目を閉じるな」 「恥ずかしいです」 「俺を見ろ」 フィルはためらいながら、シンを見た。 口づける。 前回より深く、最初から逃がさない。 フィルはすぐにシンの肩へ手を置いた。 「んっ……♡」 唇が離れる。 「もう声が出たな」 「急だったからです」 「今夜も抱けって言ったのはお前だろ」 「言いましたけど、心の準備が」 「五日間、何を準備してたんだ」 「シンのことを考えていました」 シンの眉が動く。 フィルは自分の返事が恥ずかしかったのか、顔をそらした。 「そういうことを平気で言うな」 「平気ではありません」 「顔は真っ赤だな」 「見ないでください」 「抱いてほしいのに、見るな?」 「顔だけです」 「面倒な王子だ」 そう言いながら、シンは笑っていた。 フィルの衣服を乱し、肌へ触れる。 フィルは恥ずかしそうに身をよじるが、離れようとはしない。 触れられるたび、小さな声が漏れる。 「んっ♡ シン……」 「前より感じるのが早いな」 「触られるのを、覚えたからかもしれません……♡」 「誰に覚えさせられた」 「シンです……もう、分かってるでしょう」 恥じらいながらも答える。 シンは、その素直さが可愛くて、丁寧にほぐしていった。 「そこ……♡」 「ここが好きだったな」 「覚えていたんですか」 「お前が分かりやすすぎる」 「分かりやすくありません」 「じゃあ、今の声は何だ」 「声は、勝手に……あっ♡」 同じ場所へ触れる。 フィルの腰が跳ねた。 「ほら」 「意地悪……♡」 「まだ優しくしてるぞ」 フィルがシンを見る。 その目に、少し期待が混じっていた。 シンは気づいた。 前回のように優しく抱かれることを望んでいるだけではない。 もっと強く求められるのを待っている。 それなのに、自分からは言えず、恥ずかしそうに視線を泳がせている。 (やばい) シンはフィルの頬へ触れた。 (可愛すぎるだろ、こいつ) フィルが首を傾げる。 「どうしました?」 「いや」 シンは少し考えた。 優しく抱くつもりだった。 前回のように、王子の呼吸へ合わせ、ゆっくり満たしてやればいいと思っていた。 だが、褒められるたびに嬉しそうに蕩ける顔。 可愛いと言われてむくれるくせに、もっと言ってほしそうな目。 恥ずかしいのに、自分から二度目を求めに来た一生懸命さ。 もっと乱したら、どんな顔をするのか。 見たくなった。 シンはフィルの腰を抱き、寝台へ下ろした。 「シン?」 いつもと違う空気を感じたのか、フィルが見上げる。 シンはその前に立った。 「そこに手をつけ」 フィルの目が見開かれる。 「え?」 「聞こえただろ」 声を低くする。 フィルは一瞬、戸惑った。 だが、嫌がる様子はない。 むしろ頬へ熱が広がっていく。 「今夜は俺が、本気で可愛がってやる」 フィルの喉が動いた。 「本気のシン……」 フィルは寝台へ手をついた。 言われた通りの姿勢になりながら、顔だけを振り返る。 嬉しさを隠しきれない目だった。 「嬉しくて……♡」 その一言で、シンの中の何かが完全に切り替わった。 「あとで泣いても知らないぞ」 「泣いても、やめないでください」 「言ったな」 **** つながった直後、フィルは大きく息を吐いた。 「シン……深い……っ♡」 「前より上手に受け止めてるな」 「本当ですか」 「ああ。男らしいぞ」 フィルの顔が嬉しそうに緩む。 その瞬間、シンは腰を引き、ゆっくりと擦った。 「あっ♡」 「褒められただけで、こんなに感じるのか」 「違います……今、動いたから……♡」 「そうか?」 もう一度、同じ場所を擦る。 フィルの腕が震えた。 「んぅっ♡」 「ほら、また嬉しそうな声が出た」 「嬉しそうでは……」 「嫌じゃない声だな」 「嫌じゃありません……っ♡」 「素直じゃないな」 シンは浅く、何度も同じところへ当てた。 フィルは次第に息を乱し、寝台の布を握りしめる。 「シン……そこばかり……♡」 「好きなんだろ」 「好きですけど……♡」 「なら喜べ」 「そんな言い方……ずるいです……♡」 フィルの声が甘く崩れていく。 それでも、どこか男らしく耐えようとしていた。 シンは気づいている。 「我慢してるのか」 「していません」 「王子は嘘が下手だな」 「僕だって、少しくらい男らしく……っ♡」 シンは動きを止めた。 フィルが息を呑む。 「そうか。男らしく我慢するのか」 「え」 「なら、このまま待てるな」 シンは深くつながったまま、動かない。 フィルの体は、次を待って小さく震えている。 「シン」 「何だ」 「少しだけ、動いてください」 「男らしく我慢するんだろ」 「さっきのは、そういう意味では」 「じゃあ、どういう意味だ」 フィルは答えられない。 シンは腰へ手を回し、自分から動けないように押さえた。 「勝手に動くなよ」 「でも……」 「王子なら命令を守れるだろ」 フィルは唇を噛み、頷いた。 「はい」 健気に待とうとする。 だが、深くつながった熱が消えるわけではない。 呼吸は速くなり、細い腰が耐えるように震えている。 シンはわざと、ほんの少しだけ内側を擦った。 「あっ……♡」 「今のは何だ」 「シンが動いたからです」 「俺はほとんど動いてない」 「少しでも分かるんです……♡」 「敏感だな」 「言わないでください」 「男らしい王子が、少し擦られただけで震えてるぞ」 「見ないで……♡」 「見せてるのはお前だろ」 フィルの頬が膨らむ。 「シンは意地悪です」 「そのわりに、離れようとしないな」 「好きだからです……っ♡」 即答。 シンの胸が熱くなる。 「そういうことを、今言うのか」 「本当ですから」 シンは深く突き上げた。 「あぁっ♡♡」 フィルの体が大きく揺れる。 「急に……奥まで……っ♡」 「むくれる余裕があったからな」 「それとこれは別です……♡」 「まだ口が回るな」 もう一度、深く。 フィルの抗議が途切れる。 「んぁっ♡ シン……そこ……♡」 「さっきから、そこが好きだって顔してるぞ」 「顔で決めないでください……っ♡」 「顔も声も、全部そう言ってる」 「違わな……あっ♡ 好きです……♡」 「素直で可愛いな」 フィルがぷーっと頬を膨らませた。 「また可愛いって言いました」 「可愛いからな」 「僕は男らしく」 強く突き上げる。 「あぁっ♡」 「こんなに感じても、俺を離さない。男らしいぞ」 フィルの表情が一気に緩む。 「なら、もう一度……言って……♡」 「男らしい」 ゆっくり擦る。 「んっ♡」 「だが、最高に可愛い」 「両方言うの、ずるい……っ♡」 シンは笑った。 煽れば煽るほど、フィルは恥ずかしがる。 恥ずかしがるくせに、褒められれば嬉しそうに体を預ける。 (まずいな) シンはフィルの腰を抱き寄せた。 (もっと見たくなる) 動きを深くする。 フィルの声が、客間へ甘く響いた。 「シン……っ♡ もう、僕……♡」 「もう何だ」 「いきそうです……♡」 「早いな」 「シンが、ずっと同じところを……っ♡」 シンは、ぴたりと動きを止めた。 フィルの目が大きくなる。 「え」 「限界なんだろ。休ませてやる」 「違います」 「何が」 「止めてほしいとは言ってません」 「いきそうだと言っただけか」 「はい」 「じゃあ、このまま待て」 フィルが困ったように振り返る。 体は限界の手前で震えている。 「シン」 「何だ」 「意地悪です」 「知ってる」 「僕、一生懸命お願いしているのに」 「それがお願いか?」 「……動いてください」 「足りないな」 フィルは目を伏せた。 恥ずかしさで、耳まで赤い。 それでも、自分から求めようとしている。 「もっと、深くしてください……♡」 「まだ足りない」 「もう……」 シンは何もせず待つ。 フィルの体が、次を求めて震えている。 「男らしく言えるだろ」 フィルが息を吸う。 シンを見る。 恥ずかしくても、逃げない。 「シンが欲しいです」 声は震えていた。 「最後まで、してください……♡」 シンの目が細くなる。 「よく言えた」 「もう焦らさないで」 「王子の命令か?」 「フィルからのお願いです……♡」 シンは腰を強く引き寄せた。 「なら、叶えてやる」 寸止めを解く。 フィルが求めた場所へ、深く、何度も届かせる。 「あぁっ♡ それ……っ♡」 「これが欲しかったんだろ」 「欲しかった……♡ もっと……っ♡」 「我慢するな」 「シン……好き……っ♡」 「俺を見ろ」 フィルが顔を上げる。 涙で潤んだ目が、まっすぐシンを見た。 「男らしいな」 「嬉しい……っ♡」 「可愛いぞ」 「もう……っ♡」 「いけ、フィル」 「はい……シン、いく……っ♡ いっちゃう……っ♡♡」 フィルの体が大きく震えた。 声を隠すこともできず、シンの名を何度も呼ぶ。 シンは最後まで抱き込み、そのすべてを受け止めた。 **** フィルは、力の抜けた体をシンへ預けていた。 寝台へ横になっても、離れない。 シンの胸へ頬を寄せ、満足そうに息をついている。 「今日のシン」 「何だ」 「すごかったです」 「怖かったか」 フィルは首を横へ振った。 「とても嬉しかったです」 シンは黙った。 フィルは眠そうな目で、シンを見上げる。 「本気で欲しがってもらえた気がしました」 「前も欲しかったぞ」 「今日は、もっと」 フィルは少し恥ずかしそうに笑う。 「シンが余裕をなくしてくれるの、嬉しいです」 シンは額を押さえた。 「そういうことを素直に言うな」 「どうして?」 「またやりたくなる」 フィルの顔が赤くなる。 それでも、逃げるどころか、さらに胸へ寄った。 「では、またしてください」 「お前、少し前まで恥ずかしがってたよな」 「今も恥ずかしいです」 「そう見えないぞ」 「シンの胸に顔を隠しているからです」 確かに、耳は赤い。 シンはその髪を撫でた。 一生懸命で。 素直で。 煽れば可愛くむくれ、褒めれば心から喜ぶ。 本気で求めれば、それ以上の喜びを返してくる。 (まずいな) シンは、フィルの額へ口づけた。 (俺、こいつに沼り始めてる) 扉の外。 兵士たちは、事情聴取が終わったらしい静けさに安心した。 一人の兵が、もう一人へ小声で尋ねる。 「今夜も朝食は二人分か」 「聞くまでもないだろ」 「殿下の公務は?」 「明日は午後からだ」 二人は頷いた。 客間牢の運用にも、すっかり慣れていた。

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