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第4話 姉貴たちを幸せにしろ

その日の朝、客間牢へ大量の書類が運び込まれた。 一冊目。 王都貴族名鑑。 二冊目。 地方領主名鑑。 三冊目。 未婚貴族一覧。 四冊目。 過去十年の婚姻、離縁、不貞、相続争いに関する調査資料。 さらに、酒癖、借金、愛人の有無、使用人への態度まで記された極秘資料が続く。 卓上では収まらず、長椅子にも積まれた。 シンは一番上の本を手に取った。 「何だ、これ」 書類を抱えてきたフィルが答える。 「姉上方の将来について調べました」 「昨日会ったばかりだろ」 「はい」 「いつ調べた」 「昨夜です」 シンは窓の外を見た。 朝日が昇ったばかりだった。 「昨夜は公務があるから来なかったんじゃなかったか」 「これも公務です」 「王子が勝手に増やした公務だろ」 「最優先です」 フィルは真剣だった。 その後ろでは、書類運びを手伝った兵士たちが眠そうに立っている。 シンは未婚貴族一覧を開いた。 細かな文字がびっしりと並んでいる。 「何人調べた」 「最初は二百十二名です」 「最初は?」 「条件に合わない者を除き、四十七名まで絞りました」 「多い」 「これ以上は、姉上方のお好みを伺わなければ」 シンは本を閉じた。 「姉貴たちを嫁に出すつもりか?」 フィルが目を瞬く。 「いいえ。お二人が選べる将来を調べています」 「結婚相手だけじゃないのか」 「結婚するかどうかも、お二人が決めることです」 「何でそこまでする」 フィルは少し困ったように笑った。 「シンが大切にしている方々だからです」 それだけ言い、また書類を整え始める。 「この方は領地も安定していますが、酒量が多いので除外しました」 「そこまで見たのか」 「酒に酔って家族へ迷惑を掛ける方では困ります」 「こっちは?」 「愛人が三人います」 「却下だな」 「既に赤い印を付けました」 フィルは頁をめくった。 「こちらの方は穏やかですが、ご母堂が少々厳しいようです」 「どのくらい」 「嫁の起床時刻を日の出前に定めています」 「却下」 「僕もそう思います」 二人は並んで、名鑑を眺めた。 シンが条件を言うたび、フィルは真面目に書き留める。 「金目当ては駄目だ」 「はい」 「女に手を上げる男も」 「当然です」 「姉貴たちの仕事を馬鹿にするやつも駄目だ」 「はい」 「本人たちが嫌がったら、どれだけ条件が良くてもなしだ」 「もちろんです」 フィルはペンを置いた。 「幸せの形は、本人たちが決めるものだと思います」 シンは、その横顔を見た。 数日前。 この王子は、母親に女性を選べと言われ、何も言えずに困っていた。 今は、自分の姉たちについて、驚くほど真剣に考えている。 しかも、シンへ好かれたいから適当なことを言っている顔ではない。 会ったことのない男たちを二百人以上調べ、夜を徹して四十七人まで絞った。 一生懸命にも、限度がある。 「フィル」 「はい」 「少し休め」 「まだ半分しか」 「目の下に隈がある」 フィルは自分の目元へ触れた。 「見えますか」 「見える」 「格好悪いでしょうか」 「何でそうなる」 「王子が寝不足の顔を見せるのは、男らしくないと母上が」 シンはフィルの額を指で弾いた。 「痛いです」 「くだらないこと考えるな」 「でも」 「姉貴たちのために一晩中調べたんだろ」 「はい」 「十分、男らしい」 フィルの顔が明るくなる。 「本当に?」 「ああ」 「可愛いとも思っていますか」 「それもな」 「やっぱり」 フィルは少しむくれた。 だが、すぐに嬉しそうな顔へ戻る。 その変化を見て、シンは思った。 (分かりやすいな) そして、その分かりやすさが、もう可愛くて仕方なかった。 **** 昼過ぎ、姉二人が再び面会へ来た。 卓上の書類を見た次姉が、入って早々に足を止めた。 「何、これ」 「二人の将来の候補です」 フィルが答える。 「将来が四十七人もいるの?」 「二百十二名から絞りました」 「誰が頼んだの」 「僕です」 「王子様、寝てる?」 「今夜寝ます」 長姉は名鑑を開き、数頁眺めたあと、そっと閉じた。 「ありがたいけれど、私たちのことは自分たちで決めたいわ」 「もちろんです」 フィルは即座に頷いた。 「これは選択肢です。お断りいただいても構いません」 次姉が赤い印だらけの頁を見る。 「この人は、どうして赤いの?」 「仕立屋へ代金を払わなかったことがあります」 「最低ね」 「はい。除外しました」 「こっちは?」 「妻に仕事を辞めさせた前歴があります」 「除外」 「既に」 次姉は少しずつ名鑑へ興味を持ち始めた。 長姉はフィルをじっと見た。 「殿下」 「フィルとお呼びください」 「では、フィル様」 「様もなくて大丈夫です」 「それは無理です」 長姉は穏やかに笑った。 「シンのために、ここまでしてくださったの?」 「シンのためでもありますが、お二人のためです」 フィルは真っすぐ答えた。 「誰かの家族だから幸せにするのではなく、お二人が幸せになれるように、お手伝いしたいです」 シンは壁際で、その言葉を聞いていた。 胸の奥に、静かに熱が灯る。 これまで、自分が姉たちを守るのは当然だと思っていた。 両親がいない。 自分が男だ。 自分が働ける。 だから守る。 他人に頼るつもりはなかった。 だが、フィルは自分の家族を負担とも、結婚の付属物とも考えていない。 同じように大切にしようとしている。 次姉がシンへ視線を向けた。 「シン」 「何だ」 「この王子様、本当に逃がさない方がいいわよ」 「この前も聞いた」 「まだ捕まえてないの?」 「捕まってるのは俺だ」 扉の外には、今日も牢屋の札がある。 長姉まで笑った。 フィルは赤くなりながら、シンを見た。 「僕は、逃げません」 「誰も聞いてないぞ」 「念のためです」 「そうか」 シンは短く答えた。 だが、目はフィルから離れなかった。 **** 姉二人が帰ったあと、客間牢は急に静かになった。 夕食を終え、日が落ちる。 フィルは帰ろうとしなかった。 いつものことだった。 だが今日は寝台へ近づかず、窓辺に立っている。 シンは長椅子から、その背中を眺めた。 「フィル」 「はい」 「何か言いたいんだろ」 肩が少し揺れた。 フィルは振り返る。 「どうして分かるんですか」 「お前は分かりやすい」 「分かりやすくありません」 「今日はずっと、同じところを触ってる」 フィルは自分の指を見る。 右手の親指で、左手の指輪のない薬指を撫でていた。 気づいて、慌てて手を下ろす。 「これは」 「違うのか」 「違わないです」 フィルは深く息を吸った。 少しずつ、シンへ近づいてくる。 前回のように寝台の前で止まり、今度は逃げずにシンを見つめた。 「シン」 「ああ」 「僕と結婚してくれませんか」 シンは瞬きをした。 あまりに直球だった。 「急だな」 「ずっと考えていました」 「俺が城に来てから、何日だ」 「日にちは関係ありません」 「関係あるだろ」 「僕にとっては十分です」 フィルは胸の前で手を握った。 緊張している。 声も少し震えている。 それでも、目はそらさなかった。 「女性の姿のシンを見て、好きになりました」 「ああ」 「男の姿へ戻ったシンを見て、もっと好きになりました」 「それも聞いた」 「靴を責めなかったシンも。お姉様方を守るシンも。僕を男らしいと言ってくれるシンも。全部好きです」 シンは黙って聞いた。 「僕は、これからもずっと、シンと一緒にいたいです」 フィルの顔が赤くなる。 「だから、僕の夫になってください」 「俺が夫か」 「嫌ですか」 「そこじゃない」 シンは腕を組んだ。 「俺は平民だ」 「知っています」 「城の礼儀も政治も分からない」 「僕が教えます」 「騎士にもなれてない」 「なればいいです。シンなら、すぐになれます」 「姉貴たちがいる」 「はい」 フィルは一歩近づいた。 「お二人の希望を聞きます」 「俺の家族だからじゃなく、あいつら自身の望みを聞けるか」 「もちろんです」 フィルは迷わず答えた。 「僕が将来を決めるのではなく、お二人が選んだ道を支えます」 シンは、さらに言った。 「姉貴たちは、器量ならそこそこだ」 「本人の前では言わない方がよいと思います」 「だが、いい女だ」 「知っています」 「会って二回だろ」 「シンを育てた方々です」 フィルは笑った。 「いい方に決まっています」 シンの中で、最後の何かが落ちた。 これまで、自分一人で家族を支えてきた。 守ってきた。 その重みを、フィルは奪おうとしない。 ただ、隣で一緒に持とうとしている。 「何でもする、なんて言うなよ」 「言いません」 「言わないのか」 「シンに、軽く言うなと教わりました」 フィルは少し照れながら続ける。 「できることを、一つずつします」 シンは立ち上がった。 フィルの前へ立つ。 「姉貴たちを幸せにしろ」 「はい」 「違うな」 シンは言い直した。 「姉貴たちが幸せになるのを、手伝え」 フィルの顔がほころぶ。 「はい」 「泣かせるような男は、俺が殴る」 「その前に僕が王家から追放します」 「怖い王子だな」 「シンの家族ですから」 シンは、フィルの頬へ手を添えた。 「なら、結婚してやる」 フィルが固まった。 「……本当に?」 「何度も言わせるな」 「本当に、僕と?」 「他に誰がいる」 フィルの目がみるみる潤んだ。 「泣くなよ」 「嬉しいんです」 「まだ結婚式もしてないぞ」 「もう嬉しいです」 シンは笑った。 「ほんと、一生懸命な男だな」 フィルが涙を拭う。 「男らしいですか」 「ああ」 「可愛いとも?」 「最高にな」 フィルがぷーっと頬を膨らませる。 「今は男らしいだけでよかったです」 「欲張るな」 「シンに言われたくありません」 「俺が何を欲張った」 「僕を全部欲しがっています」 シンの目が細くなる。 「よく分かったな」 「え?」 シンはフィルの腰を抱き寄せた。 驚いた体が胸へぶつかる。 「結婚したら、どうしたい」 フィルが目を瞬く。 「どう、とは?」 「姉貴たちのことは、もう分かった。俺とお前の話だ」 シンは腰を抱いたまま、フィルの顔を見る。 「王子と平民が結婚するんだ。公務もある。城の仕事もある。それでも、お前は何をしたい」 フィルは少し考えた。 また薬指へ触れようとして、今度はシンの胸元をつかむ。 「朝、同じ部屋で目を覚ましたいです」 「それだけか」 「一緒に朝食を食べたいです」 「王子の朝食は忙しそうだな」 「シンが隣にいてくれれば、頑張れます」 フィルは一つ口にすると、次々に言葉が出てきた。 「公務が終わったら、今日あったことを話したいです。シンの話も聞きたいです」 「ああ」 「疲れていたら、抱きしめてほしいです」 「それくらいなら、今でもしてる」 「結婚したら、毎日していいでしょう?」 「毎日?」 「駄目ですか」 「いや」 シンは、思っていたより甘い話になってきたことに少し驚いた。 フィルは真剣だった。 「お休みの日は、二人で市場へ行きたいです。シンが育った村にも行きたい。お姉様方と食事をして、ヴィオラ様にもご挨拶をして」 「あの婆さんは、お前をからかうぞ」 「頑張ります」 「何をだ」 「シンの夫として、認めてもらえるように」 「もう靴を貸した時点で、大体認めてるだろ」 「それでも、きちんとしたいです」 フィルはシンを見上げた。 「眠る前には、今日も好きだと言いたいです」 「毎日か」 「毎日です」 「忘れたら?」 「僕が言います」 「俺が先に寝たら」 「起こします」 「そこは寝かせろ」 フィルが小さく笑った。 「喧嘩をしても、一緒の寝台で眠りたいです」 「何で喧嘩する前提なんだ」 「ずっと一緒にいれば、するかもしれません」 「そのときは?」 「背中を向けても、手だけはつないでいたいです」 シンは黙った。 思いのほか甘い。 甘すぎる。 王子との結婚生活など、もっと堅苦しいものだと思っていた。 朝から晩まで公務に追われ、晩餐では大勢に囲まれ、夫婦の時間などたまにしか取れない。 少なくとも、フィルの口から出るような、毎朝隣で目覚め、毎晩好きだと言い合う暮らしは想像していなかった。 「それから」 「まだあるのか」 「シンが騎士になったら、帰りを待っています」 フィルは恥ずかしそうに笑う。 「無事に帰ってきたら、僕が最初にお帰りなさいと言いたいです」 「俺が怪我したら?」 「治療させます。それから怒ります」 「怖いな」 「心配させた罰です」 「お前が疲れて帰ってきたら?」 フィルは少しだけ頬を赤くした。 「シンに甘えます」 「どうやって」 「抱きしめてもらって、頭を撫でてもらって……好きだと言ってもらいます」 「ずいぶん具体的だな」 「ずっと考えていたので」 「求婚より先に、そこまで考えたのか」 「はい」 フィルはますます赤くなった。 「シンと結婚できたら、毎日とても幸せだろうなって」 健気で。 いじらしくて。 これまで欲しいものを選べずにいた男が、二人の暮らしを一つずつ思い描いている。 朝食。 市場。 帰宅。 抱擁。 眠る前の言葉。 驚くほど小さく、甘く、当たり前の願いばかりだ。 シンは、急にフィルを抱きしめたくなった。 実際に、強く抱き込む。 「シン?」 「お前、本当に可愛いな」 「また可愛いですか」 「仕方ないだろ」 フィルの頭へ手を置く。 柔らかな金髪を、何度もゆっくり撫でた。 「毎日、俺と一緒にいたいんだな」 「はい」 「喧嘩しても手をつないで寝たい」 「はい」 「帰りを待って、最初に迎えたい」 「はい」 「健気すぎるだろ」 フィルが、シンの胸へ頬を寄せる。 「嫌ですか」 「ほっとけない」 さらに頭を撫でる。 「抱きしめたくなるくらい可愛い」 フィルの頬が、少し膨らんだ。 シンは笑い、額へ口づけた。 「でも、男らしいな」 膨らんでいた頬から、すぐに空気が抜けた。 「本当に?」 「ああ。俺と生きたいって、ちゃんと口にした」 シンは、もう一度頭を撫でる。 「欲しい暮らしを自分で選んだ。男らしいよ、フィル」 フィルの目が潤む。 今度は悲しさではない。 撫でられるたび、嬉しさが溢れそうになっている。 「シン」 「何だ」 「大好きです」 「知ってる」 「言わせてください」 「何度でも言え」 「シンが好きです。ずっと一緒にいたいです」 「ああ」 「毎日、好きだと言います」 「俺も言ってやる」 「毎日?」 「お前が忘れないようにな」 フィルが笑う。 その笑顔を見た瞬間、シンはもう我慢できなかった。 頬を包み、深く口づける。 フィルは驚きながらも、すぐにシンの首へ腕を回した。 唇が離れる。 「今夜は俺が、お前を欲しい」 フィルの顔に、じわじわと喜びが広がる。 これまではフィルが訪ね、フィルが求めた。 今日は違う。 シン自身が、フィルを抱きたい。 「はい……♡」 **** シンは、もうフィルの反応を知っていた。 耳元へ触れれば肩が揺れる。 首筋へ唇を寄せれば甘い息が漏れる。 可愛いと言えばむくれる。 男らしいと言えば、隠しきれないほど嬉しそうにする。 恥ずかしがって顔をそらしても、手はシンから離れない。 「顔を隠すなよ」 「だって、シンがずっと見てるから……♡」 「見たいんだ」 「そんなに、まっすぐ言わないでください……♡」 「俺の男を見るのに、遠慮する理由がない」 フィルの頬が熱を増す。 シンは、その顔を自分へ向けた。 「恥ずかしくても、俺から逃げない。男らしいな」 「本当に?」 「ああ。しかも、最高に可愛い」 「結局、それも言うんですね……♡」 「嬉しいくせに」 フィルは否定しようとする。 シンは答えを待たなかった。 「ほら。また嬉しそうな顔した」 「シンが、そういう言い方をするから……」 「俺には分かるよ」 低く笑う。 「お前、こういうのが好きだろ」 フィルの指がシンの背へ食い込む。 「決めつけないでください……♡」 「違わない」 触れられるたび、フィルの息が甘くなる。 シンはゆっくりと熱を高め、十分に受け入れられるところまで可愛がった。 フィルの体から力が抜け、寝台へ身を預ける。 それでも目だけはシンを追っていた。 「もっと可愛い顔を見せてごらん」 「もう、十分見ているでしょう……♡」 「まだ足りない」 「欲張りです」 「お前の夫になる男だからな」 その言葉に、フィルの顔が幸せそうに緩んだ。 シンは見逃さない。 「ほら、今の顔」 「だって、夫って……♡」 「嬉しいんだろ」 「はい……♡」 「うん。素直で、えっちで可愛い」 「そんな褒め方……♡」 「今日は、いくらでも褒めてやる」 フィルの呼吸が震える。 「そんなに言われたら、僕……」 「もっと欲しくなる」 問いではなかった。 シンには分かっている。 フィルも否定せず、赤い顔でシンへ腕を伸ばした。 「来てください……♡」 「分かってる」 シンは、その願いへ応えた。 ゆっくりと体を重ねる。 フィルの体へ熱が入っていくたび、細い息が長く漏れた。 「シン……っ♡」 「俺を見ろ」 「はい……♡」 少しずつ深くなる。 フィルは唇を開き、シンの肩へ指を食い込ませた。 「奥まで、来る……っ♡」 「よく迎えてる」 「全部……入れて……♡」 最後まで深くつながった瞬間、フィルの背が大きく反った。 「あぁっ♡」 シンはすぐには動かなかった。 奥まで満たしたまま、フィルの乱れた呼吸を見つめる。 「ほら。また震えた」 「だって、深くて……♡」 「好きだろ。奥まで俺がいるの」 フィルの瞳が潤む。 「はい……♡」 「いい子だ」 シンは腰を引き、浅く動いた。 内側をゆっくり擦る。 フィルの声が、すぐに甘く崩れた。 「んっ♡ そこ……」 「ここが好きなのも知ってる」 「全部、分かってるみたいに……♡」 「分かってるよ」 同じ場所を、丁寧に擦る。 フィルの腰が震える。 逃げようとするのではなく、もっと触れてほしいと追いかけてくる。 「ほら。自分から寄ってきた」 「言わないで……♡」 「隠さなくていい」 もう一度、ゆっくり擦る。 「俺に分かってもらうの、嬉しいんだろ」 「恥ずかしいのに……嬉しいです……♡」 「知ってる」 シンは甘く言った。 「だから全部見せろ」 フィルの目から、余計な力が抜ける。 シンに知られている。 欲しい場所も。 弱いところも。 可愛いと言われるとむくれることも、男らしいと言われれば胸の奥まで満たされることも。 何も隠す必要がない。 シンは浅く擦る動きを少しずつ深くした。 奥へ届くたび、フィルの声が高くなる。 「あっ♡ シン……そこ……奥……っ♡」 「ここまで欲しかったんだな」 「欲しかった……♡」 「素直でいい」 深く突き上げる。 「あぁっ♡♡」 フィルの体が跳ねた。 もう一度。 さらに深く。 言葉を続ける隙もないほど、奥へ熱が届く。 「シン……っ♡ 待って、すごい……♡」 「待たない」 「もう、体が……っ♡」 「俺を離してないだろ」 フィルの腕は、シンの首へ強く回っている。 「離せません……♡」 「離したくない、だろ」 「はい……っ♡」 答えた瞬間、シンがまた突き上げる。 フィルの声が大きく弾けた。 「あぁっ♡ そこ、だめ……っ♡」 「だめじゃない」 「もう、すぐ……♡」 「限界だな」 フィルは何度も頷いた。 言葉にしようとしても、突き上げられるたびに声が割れる。 「シン、僕……っ♡ もう、いき……あぁっ♡」 「言えなくなってきたな」 「だって、シンが……奥ばかり……っ♡」 「好きなところだろ」 「好き……好きです……っ♡」 シンは動きを止めない。 ゆっくり擦って高め、深く突き上げて崩す。 フィルは耐えようとしてシンの肩へ顔を押しつけるが、次の衝撃でまた顔を上げた。 「隠すな」 「無理です……もう、顔も、声も……っ♡」 「無理でいい」 シンはフィルの頬へ手を添えた。 「我慢しなくていい。俺が全部見てる」 「シン……♡」 「お前がどれだけ俺を好きか、体で全部分かる」 フィルの瞳が揺れる。 言葉でも、体でも、隠す場所がなくなる。 「僕、シンが好き……っ♡」 「ああ」 「大好きです……♡ ずっと一緒にいたい……っ♡」 「俺もだ」 「毎日、好きって……言って……っ♡」 「言ってやる」 深く突き上げる。 「あぁっ♡♡」 「毎朝、一緒に起きる」 もう一度。 「はい……っ♡」 「帰ったら、お前が迎えろ」 「迎えます……っ♡」 「眠る前には、抱きしめてやる」 「嬉しい……っ♡」 「喧嘩しても、手は離さない」 フィルの顔が、幸福と快感で完全に崩れた。 「シン……好き……っ♡ もう、我慢できない……っ♡」 「我慢する必要はない」 シンの動きも余裕を失い始める。 フィルの言葉が一つ届くたび、もっと深く欲しくなる。 愛している。 一緒に暮らしたい。 毎日好きだと言いたい。 そんな健気な願いを口にしながら、腕の中で蕩け、シンだけを求めている。 (最高かよ) 今度は、口に出す余裕もなかった。 「フィル」 名前を呼ぶ声が荒くなる。 「はい……っ♡」 「可愛い顔、全部俺に見せろ」 「見て……ください……っ♡」 「俺の王子は、男らしくて、えっちで、世界一可愛い」 「嬉しい……っ♡ シン、もっと……♡」 「もう十分限界だろ」 「それでも……もっと、欲しい……っ♡」 その言葉で、シンの中の最後の余裕が切れた。 フィルの体を強く抱き込み、奥へ何度も突き上げる。 「シン……っ♡ あっ、あぁっ♡♡」 「フィル」 「もう、いく……っ♡ シン、僕、いっちゃう……っ♡♡」 「俺もだ」 「一緒に……っ♡」 言葉が重なる。 体が重なる。 フィルはシンの名を叫び、全身を大きく震わせた。 その反応に押し上げられるように、シンも深くフィルを抱いたまま限界を越える。 「フィル……っ」 「あぁっ♡ シン……っ♡♡」 言葉でも、体でも、もう何一つ我慢できなかった。 二人は互いを抱き締めたまま、同時に激しく果てた。 **** しばらくしても、フィルはシンへくっついたまま動かなかった。 呼吸はまだ乱れている。 髪も崩れ、目尻には涙が残っていた。 それでも、表情はこれまでで一番満たされていた。 シンはフィルの頭を撫でる。 「満足したか」 「はい……」 「声が小さいな」 「力が残っていません」 「さっき、もっと欲しいって言ってたぞ」 フィルはシンの胸へ顔を埋めた。 「言わせたのはシンです」 「自分で言っただろ」 「全部分かっているくせに」 「ああ」 シンは髪を撫で続ける。 「お前が何を好きか、もう全部知ってる」 フィルは少し顔を上げた。 「僕がどんな暮らしをしたいかも?」 「毎朝、一緒に起きる」 「はい」 「公務のあと、今日あったことを話す」 「はい」 「疲れたら抱きしめる」 「はい」 「寝る前に、好きだと言う」 「毎日です」 「喧嘩しても、手はつないで寝る」 フィルが嬉しそうに笑った。 「覚えていてくれたんですね」 「忘れるわけないだろ」 シンはフィルの額へ口づける。 「思ってたより、ずいぶん甘い結婚生活だな」 「嫌ですか」 「驚いただけだ」 フィルの頭を、もう一度なでなでする。 「健気で、いじらしくて、ほっとけない」 「子どもみたいです」 「抱きしめたくなるくらい可愛い」 フィルの頬が少し膨らむ。 シンは笑った。 「でも、男らしいよ」 頬の空気が抜ける。 「本当に?」 「ああ。俺と生きたいって、自分で決めた」 シンはフィルを抱き寄せた。 「欲しいものを、ちゃんと言えた。最高に男らしい」 フィルは、安心したようにシンの胸へ頬を戻した。 「シン」 「何だ」 「明日の朝も、一緒に起きてくれますか」 「俺はここから出られないからな」 「そうでした」 扉の外には、今も大きく、 牢屋♡ と貼られている。 「結婚したら、札を外しましょうか」 「当たり前だ」 「でも、記念に取っておきたいです」 「好きにしろ」 「では、寝室の扉に」 「貼るな」 フィルが笑った。 シンも笑う。 扉の外。 兵士は、今夜の事情聴取が終わったらしいと判断し、朝食を二人分頼みに向かった。 もう一人は、札の下へ新しい一文が書き足されていることに気づいた。 婚約者収容中♡ 兵士はしばらく眺めた。 そして、見なかったことにした。

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