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Episode02 勇者の契約【R18】
― 勇者side ―
瞼を上げたとき、視界を埋め尽くしたのは白い世界だった。
覚醒したばかりの意識は、それが上質な絹の天蓋だと気づくのに結構な時間を要した。
ぼんやりとした視線が、天蓋の細やかな刺繍を辿る。夢の底から浮かび上がるように、刺繍の輪郭がゆっくりと結ばれていく。
「……っ!」
身体を跳ね起こす。次の瞬間には、自身の胸元に触れていた。
あれほど凄惨に引き裂かれていた傷が、嘘のように消えている。気が遠くなるようだった痛みも、全くない。
ルイアスは身の沈み込むようなベッドの上で、部屋を見回した。
肌を包むのは、信じられないほどに柔らかな寝具。それは、嗅ぎ慣れた陽の香りを纏っており、温かな陽そのものに包まれているかのようだった。
傍らの豪奢な木製机には、銀の器に盛られた瑞々しい果物と、クリスタルの水差しが置かれている。陽の光を透かしたそれは玻璃の輝きを放ち、机上に光の紋様を描いていた。天井に映し出されている水紋がゆらゆらと揺らめいて、幻想的な空間に彩を添えていた。
「……俺……死んだのか?」
さらに視線を巡らせる。
描かれているものが天使だか神だかは知らないが、壁には一目見て高価だと判る絵画が幾つも掛けられている。
窓からは、陽光を受けて輝く王都の街並みが一望できた。
眩い陽射しが部屋の中へと差し込み、白一色を基調とした部屋をさらに明るいものとしていた。
「漸くお目覚めか、勇者」
静寂を破った声に、心臓が跳ねる。
ベッドのすぐ傍らに、あの男が立っていた。つい今しがた見回したときは、誰もいなかったはずだ。ルイアスは自ずと、幽霊でも視るかのような目を男に向けた。
「……一体誰なんだよ、お前」
腰まで流れる白金の髪は、室内にあってなお陽光を弾き、淡く輝いていた。まるでこの世の光すべてを、その身に集めているかのようだった。
その面立ちは、出来の良い彫刻のように整っている。壁に掛かる絵画に描かれた天使像も、この男の前では霞んで見えた。
感情を滲ませない、すべてを見透かすような黄金の瞳が、じっとルイアスを射抜いていた。
「黙ってないで何とか言えよ!お前は誰だ!ここは何処なんだよ!!」
この身が置かれている事態を何一つ理解できず、現状を全く把握できないルイアスは、その焦りと苛立ちをぶつけるように男を睨んだ。
男はその表情を、少しも崩さない。
「私は聖剣だ。名をラグエルという」
「自己紹介なんていらねぇんだって!なんで俺の身体から出てきた!っつーかなんだよあれ……エグ過ぎだろ……!」
ルイアスは自身の掌を見下ろした。
あの感触を、身体はまだ覚えている。
その瞬間、身体の奥底からぞわりと悪寒が駆け上がった。
身体が芯から震え、全身から冷たい汗が噴き出す。
あれが、夢であるはずはない。
「神殿の名立たる治癒士がお前の傷を癒した。本来であれば聖痕の完成には壮絶な苦痛が伴うところを、お前はその一切を感じずに済んだということだ。感謝しろ」
「意味、わかんねぇんだけど……」
「聖剣は勇者の胎内から産まれ出ずる。お前が、勇者という証だ」
淡々と、まるで書物を読み上げるような口調でラグエルは言い放つ。そのどこか他人事のようでもある傲慢な態度に、ルイアスの怒りは増すばかりだ。
「はぁ?勇者?俺が?フザけんな……なんで俺なんだよ!」
「神がお前を選んだ。――それ以外に理由が要るのか?」
「神なんざ知るか! 俺は信じてねぇんだよそんなもんは!」
ルイアスは転がるようにベッドを降りた。ラグエルは冷たい眼光でそれを一瞥しながらも、その場を一歩も動かない。
「お前が信じようが信じまいが関係ない。お前は勇者だ。今このとき、何処かで魔王もまた産声を上げた。お前はその魔王を討たねばならない」
「黙れ! 俺は勇者なんてやらねぇからな。他の奴にやらせろよ!」
ガチャン、と激しい音を立ててドアの取っ手を掴む――が、開かない。
ドアノブは硬く施錠されており、びくともしなかった。
「なんで……!」
「お前が勇者の完全体となるまで、神殿はお前を外には出さない」
「はぁ!?」
「どれだけかかるかは――お前次第だ」
途端、純白に眩く煌めいていた世界から、光が失われた。
彩を失い、ただ白いだけの空間は、飾り立てられた自身を囲う檻のようでもあった。
絵画の中で微笑んでいた彼らは皆、囚われたルイアスを見て醜悪に嘲笑っていた。
「……っ……フザけんな。出せよここから!」
「出たければ、早く完全体となれ」
「だから意味が分かんねぇんだって!なんだよその完全体ってのは!」
音もなくルイアスの傍へと歩み寄ったラグエルの金の瞳が、じっと漆黒の瞳を見下ろした。
至近距離で見る瞳は、単なる金色をしていなかった。
虹彩には繊細な金糸を幾重にも重ねたような模様が走り、光を受けるたび、その一筋一筋が静かに燦めく。
それは人の瞳というよりも、神が丹念に削り出した細工物のような美しさを湛えていた。
「……何、だよ」
美し過ぎるものは、人に畏怖すら抱かせる。
しかし妖しく燦めくその瞳から、魅入られたように視線を外せない。
自分のものではない意思が、身体の奥深くで鎌首を擡げる。
それは注がれる黄金を、ひどく渇望していた。
「神の選択に異を唱えることなど、出来はしない」
無慈悲な声音が、降り注ぐ。
純粋な光の圧に、圧し潰されそうだった。
息をすることも忘れ、その金色を見上げていた。
――聖剣は、神の欠片と言われています。
神官の言葉が思い出された。
この男が神の御使いであるとするならば、ただの人間である自分が敵う相手ではない。
気を抜けば地に伏しそうになる本能を奮い立たせながら、ルイアスは決死の覚悟で神の欠片とやらを睨み据えた。
「……ほう。神の威圧を前にしてなおそのような眼を向けるか」
ずっと無の表情を貫いていた男の口角が、ほんの僅かに上がった。
黄金の瞳が、初めて勇者の向こうの人間を映した。
それは神の欠片が抱いた、最初の興味だった。
「これより、魂の楔――『契約』を行う」
ラグエルの冷たい指先が、ルイアスの胸元へと触れた。
聖剣を産み落とした痕は、『聖痕』としてその肌に消えきらずに残っている。
細やかな紋様を成すそれが、ルイアスの眼にはひどく悍ましいものに映った。
「……っ……触るな……!」
「お前に拒否権はない。今すぐに、契約の儀を執り行う」
つ、と痕をなぞるように、指先が肌の上を滑る。
触れれば切れる刃の切っ先で、心臓を直接なぞられているような、悍ましくも甘美な悪寒が背筋を駆け抜けた。
「――あ……っ……」
魂の根源を掴まれたように、身体が縫い付けられて動かない。
息苦しさに開いた唇から、ひゅっと空気を乞う音がした。
全身から、力が抜けていく。
気がつけば、床に膝をついていた。そのまま抗う術もなく、大理石の床へと頽れる。
ラグエルはその背後から覆い被さり、逃れられぬ力でその身体を密着させてきた。
「……や、めろ……やめろ……っ!」
あっという間に下衣を摺り下ろされた。
冷えた外気に触れた場所から、波紋が広がるように肌が粟立つ。
固く閉ざされた後孔に、宛がわれるモノがある。ルイアスの顔から、ざっと血の気が引いた。ルイアスはその正体を、絶望の淵で悟った。
堪らず逃れようとした腰を、抗えぬ力でぐっと引き寄せられた。身を捩ることも、叶わない。
全身が心臓になってしまったように、荒れ狂った鼓動が鼓膜を叩いていた。
本能が、しきりに恐怖を訴え掛けてくる。
触れられている聖痕だけが、火がついたように熱かった。
「無、理だ……そんなの……っ……入るわけ……!」
ぐうっと凶悪な圧力が加わる。狭い隘路が強引に押し広げられ、めりめりと音を立てて暴力的な質量が捻じ込まれていく。
「あ……っ、ぐ、ぅう……ッ!」
慣らされることもなかった入り口は――否、そもそもそれは外から入ることを想定してつくられてはいない排泄器官だが――限界を超えて抉じ開けられ、今にも裂けそうなほどに悲鳴を上げていた。
「……ッ……あ、あ”ああぁ……っ!」
神の欠片が、容赦なく自らの内側へと入り込んでくる。
人間の器には収まりきらぬ果てしのない質量が、捻じ込まれていく。
はち切れんばかりに滾りきった熱棒が、一切の温情を持たずに身を裂いた。内臓が押し上げられて、猛烈な吐き気が込み上げる。
身体と精神の真中に、強固な楔を打ち込まれたような衝撃だった。
聖痕の灼熱が、骨の髄を焼き、神経の隅々までをも焼いた。
このまま喉まで刺し貫かれるのではないかという恐怖すら抱かせる壮絶な体積が、ぴたりと止まる。だがそれは一瞬で、一気に引き抜かれた熱の塊が、再び最奥を穿った。
「ッひあ、あ、ああぁぁ――ッ!!」
あまりの衝撃に、身体はその意思を無視して大きく弓なりに仰け反る。目の前が、白く爆ぜた。
息を吐く間もなく、残酷な抽挿がはじまった。
「うっ、…っぐ、うぅ、あ…っ」
そこには快楽など、ひと欠けらもない。容赦なく揺さぶられる体躯は、齎される痛みにひどく強張っていた。
肉のぶつかり合う音が、一定のリズムで部屋に響き渡る。何度も擦られた隘路が限界を迎え、脳を突き抜けるような鋭い痛みが走った。
「あっ、く……ッ!」
裂けた。壮絶な痛みがそう、物語る。
触れて欲しくない場所を執拗に攻めるように、何度も擦り上げられる。痛みに気が触れそうだった。
逆らうことのできはしない圧倒的な光の暴力の前に、ルイアスはただ、爪から血を滲ませて床を掻くことしかできない。
しかしやがて、侵されている場所から水音が響き出した。鼻腔を掠める鉄錆びの臭いに、潤滑の作用を齎す液体の正体を悟る。この苦痛を和らげてくれるなら、何でもよかった。願いが叶い、滑った感触が抵抗を弱めてくれた。
繋がっている場所が、火がついたように熱い。
乾いた皮膚が擦り切れるような痛みが引いていき、下腹部の奥で、純粋な痛みとは違うものが生まれた。
猛々しく張り出したモノが腹部側の一点を押し上げるたび、強張っていた躰がおかしなくらいにびくんと跳ねた。
「あっ、あ、あぁ……っは、……ん、んんっ」
口から溢れる自分のもののようではない声が、ひどく悍ましかった。意思では止められそうもないその声を何とかしようと、ルイアスは冷たい床に口元を押しつけた。
突かれるたびに、くぐもった声が漏れる。
ラグエルはさらに身体を密着させ、ルイアスが明らかに感じているであろう部位を責めようと、角度を変えた。その角度を保ったまま、執拗に腰を打ちつける。
「んっ、んんっ……んぁ、あ、ぅあ、あ、あッ」
息苦しくなって顔を上げると同時に、高らかな声が喉から溢れるのを止められない。
痛みに萎え切った自身は、力なくぶら下がったまま、その先端から白濁交じりの粘液をだらしなく零し続けていた。
「も……こわれ、る……ッ」
「壊れてしまえ。ここは神殿だ。身体についた傷ならば、いくらでも治してもらえる」
ラグエルの言葉を、信じられない思いで聞いていた。
ズタズタに裂けた後ろの孔を、治癒士に晒せと言うのか。
そんなことをするくらいなら――この姿を知られるくらいなら、死んだ方がマシだと思った。
意識が、白く塗り潰されていく。大腿を伝う液体が、白い床に赤く染みを作った。
大きく揺らぐ漆黒の瞳の奥に、侵略の証たる微かな金色が宿る。
しかし明滅した光はすぐに、溢れ出した屈辱の涙に覆い隠された。
「――あ、あっ、ああぁ――……ッ……!!」
肌に密着したラグエルの身体が、びくりと幾度か大きく震えた。
それと同時に腹部の奥底で、熱い奔流を感じとる。
渇望していたものをすべて呑み込まんと、中の粘膜が別の意思を持った生き物のようにうねり、その熱を逃すまいと収縮した。
神の欠片に注ぎ込まれたものを余すことなく受け取った勇者の身体は、どくどくと悦びの白濁を吐き出しながら、快楽に打ち震えていた。
聖剣が生まれ落ちたこの日、勇者との間に契約が交わされた。
勇者はその瞬間に、神域の光へと堕ちた。
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