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Episode11 受容の行方【R18】

― 聖剣side ― 白亜の檻に、静寂が満ちていた。 ルイアスは、あれほど毎夜忌み嫌い、拒絶し続けていたラグエルの黄金の瞳を、今は真っ直ぐに見据えている。 その漆黒の双眸に、かつてのような子供じみた反発も、恐怖も、もう残ってはいなかった。 あるのはただ一つ。 何かを置き去りにした者だけが宿す、凪いだ執念。 それは狂気に近く、それでいて驚くほど澄み切った色をしていた。 ルイアスは、自ら身に纏っていた白いシャツへ手を掛けた。 その指先に、迷いはない。 あれほど拒み続けてきた運命へ、自分の意思で歩み寄る。 そのための儀式だった。 やがて衣擦れの乾いた音と共に、床へと布が落ちる。 月光に照らされた胸元で、聖痕が淡い黄金の光を帯びて脈打っていた。 まるで、その決意に応えるかのようだった。 ルイアスは静かにラグエルを見据える。 「この身のすべてを賭ける」 低く、けれど揺るぎない声だった。 「その代わり――俺に力を寄越せ」 それは懇願ではない。 取引だった。 大切なものを取り戻すための、勇者自身の意志による契約。 ルイアスの瞳は、微塵も揺らいではいなかった。 ラグエルは、眩いものを見るように黄金の双眸を細めた。 勇者から向けられる絶対的な服従。 それこそが、神の欠片たる己が、本能にも似た深い場所で求め続けていたものだった。 たとえその願いが世界のためではなく、たった一人の人間を救うためのものだったとしても構わない。 ラグエルにとっては、それでもなお、永い時の果てにようやく辿り着いた瞬間だった。 ルイアスの眼差しに宿っているのは、信頼ではない。 受容とも、少し違う。 そこにあるのは、この力を己の願いのために使い尽くすという、鋭く研ぎ澄まされた覚悟だった。 世界の均衡を保つため、ただ定められた役割を果たし続けてきた小さな歯車が、初めてその流れに抗おうとしている。 永劫の時を繰り返してきた、聖剣と勇者の関係。 常に一方向だったはずの宿命は、いつしか互いを必要とし、互いを選び取るものへと姿を変えつつあった。 ひとつくらい、そんな物語があっても悪くはない。 ラグエルは、珍しくそんなことを思った。 「……良いだろう、勇者」 目の前にいるのは、かつてのように駄々を捏ねる子供ではない。 世界を呪い、神を拒み、与えられた使命に牙を剥くばかりの、未熟な子供はもういない。 「その魂、確かに貰い受けてやる」 音もなく歩み寄ったラグエルの指先が、ルイアスの顎を強引に押し上げる。 そうして押し当てた唇は、これまでのように温度のないものではなかった。 深く、更なる奥を求め、すべてを引き出さんとするかのような、貪欲な熱を孕んでいた。 自ら檻に囚われることを願った者。 その決死の覚悟を認めた瞬間から、ルイアスという人間はラグエルにとってただの勇者という駒ではなくなった。 その変化は些細なものかもしれなかったが、それでもルイアスに触れる手が、重なる肌が、今までよりも熱を帯びていることに、ラグエル自身も気づいてはいなかった。 「――っ、ん、ぅ……!」 息苦しさに開いた唇輪を縫って、舌を挿し入れる。口内にあった舌は、拒むどころか待ち侘びたように絡みついてきた。ねっとりとした粘膜の塊が絡み合うたび、滑った水音が立つ。 これまでも唇を重ねたことはあった。だが、これほど深くを弄るものは初めてだった。少し前までの彼であれば、噛みついてきただろうから。 一頻り口腔を舐ったあと、ゆっくりと唇を離す。名残惜しむように、互いの舌を細い銀糸が繋いでいた。 互いの吐息が交わる距離で、その面立ちをじっと見つめる。瞼が、静かに上がった。隠れていた瞳は熱に浮かされ、漆黒の睫毛は濡れそぼっていた。 こんなにも長い睫毛をしていたことに、初めて気がついた。 ベッドへと押し倒し、組み敷いた相手を見下ろす。 ルイアスの瞳は逸らされることなく、真っ直ぐにラグエルを見上げていた。 脚を開かせ、繋がる場所を確かめるように指でなぞる。交わった後は赤く腫れるその場所も、今は固く窄まって、淡い色に落ち着いていた。 「……ん……っ」 指先で円を描くように蕾を弄っていると、窄まった入り口がぴくぴくとヒクついてくる。顔を上げると、ルイアスは焦がれるような瞳をこちらに向けていた。 応えるように、指を挿入する。ゆっくりと。中指を、一本だけ。ナカで、粘膜を擦り上げた。熱い吐息を零し、切なく眉根が寄る。 その反応を見ながら、薬指を添えて、二本に増やした。狭い隘路はなおもヒクつきながら、抵抗もなく指を呑み込んでいく。腹部側の一点を、ぐっと押し上げる。 「ひぁ……ッ」 おかしな声を上げてしまったと言わんばかりに、片腕で口元を押さえている。視線は逸れて、耳まで赤い。その反応が面白くて、悦い場所をぐりぐりと責める。ルイアスは口元を押さえたまま、しきりにくぐもった声を漏らしていた。 指を引き抜く。中の熱が、妙に指先に残っていた。 「どれだけ声を上げようと、外には聞こえない。抑えなくても構わないが」 「……っ……お前にも、聞かれたくないんだよ……っ」 顔を真っ赤にしながら、怒ったように言う。何を今更、と思ったが、口にはしないでおいてやった。 「――ッあ!」 容赦のない質量で、拒絶を忘れたルイアスの奥深くを貫く。 背を大きく反らせ、見開かれた瞳からは雫が零れた。 これまで幾度となく繰り返してきた行為のさなか、彼の見せた涙は屈辱に染まったそれだった。 だが、今は違う。 涙の膜に覆われた眼差しは、渇望するものを得たような悦びを湛えていた。 「あっ、あぁっ……、っは……う、うぅ」 この身が注ぎ込む激しい光の奔流は、勇者の神経の隅々までを焼き尽くすように駆け巡る。 ルイアスはシーツを引きちぎらんばかりに指先を震わせ、その苦痛だけではないはずの衝撃に耐えていた。 眦から溢れ続ける雫が、髪を、シーツを濡らす。 その唇から漏れる声に、吐息に、ラグエルの意識は自ずと奪われていた。 「あ、……ぁ、く……っ……ラグ、エル……もっと……!」 「……これ以上やると、お前が壊れる」 「……っ……壊れ、ねぇよ……だから、もっと……あ、ぁ……ッ」 拒絶されることのなくなった勇者の身は、これまでとは比較にならぬほど効率よく聖剣の力を受け入れていった。 神域の光が、静かに、だが容赦なくルイアスの内側を書き換えていく。 肉体を。 魂を。 人としての在り方そのものを。 胸元の聖痕が脈動するたび、黄金の光が血脈を巡り、その存在を人ならざる領域へと近づけていくのが分かった。 この先、勇者の身に待つものは破滅かもしれない。 ルイアスの眼は、それを厭わぬ意思を宿していた。 彼が欲しているのは力だ――ただ一人を取り戻すための。 ラグエルは、そんな勇者を静かに見つめていた。 神に抗うために神の力を求める。 それはこれまで見てきたどの勇者とも違う、歪で、危うく、それでいて奇妙なほど真っ直ぐな願いだった。 「あ、あ、あぁっ……――ッ!!」 最奥に、熱を放つ。勇者の身体は、齎された力のすべてを取り込まんと、粘膜を激しく収縮させてそれを受け入れた。呑み込んだものを取り零すまいと、ぎゅっと隘路が収縮する。 そのとき。 ふいに胸の奥に鈍い空白が走った。 力を注いだぶんだけ、自らの光が失われていく。 失われたものが、戻らない。 まるで満たしたはずの器の底に、見えない穴でも穿たれてしまったかのように。 ラグエルは無意識のうちに胸元を押さえた。 覚えのない感覚だった。 永い時を生きてきた記憶の中にも、こんなことは一度として存在しない。 名状し難い違和感だけが、静かに胸の底へと沈んでいく。 それはまだ、小さな綻びに過ぎなかった。

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