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第2話 その香りは甘く

「君たまにここで飲んでるよね。さっきの人は好みじゃなかったの?」 「ああ、……いえ」  そういうわけじゃないけれども、本当の理由も言えなくて、笑ってごまかしてみる。  それよりも、それほどたびたび来ていたつもりはなかったけれど、顔を覚えられていたことにヒヤリとした。 「こんなところで遊んでたら、いつか俺みたいな奴に変なもの飲まされるから、やめといた方がいいよ」  リュノの持つグラスに、先ほどのグラスをかちりと当てて、その人は少しグラスを掲げた。  反応できないままでいると、にっこりと微笑みながらグラスに口をつけて少し飲み、それからリュノに顔を近づける。 「——ね?本部のリュナスくん」  思わず。  二歩、後ずさった。  その口から香ったのは、甘くて柔らかい酒の香りで、  その口から聞かされたのは、リュノの昼の顔。 「帰るだろ。送ってくよ。帰る先も一緒だしね」 「いえっ、その……」  その人が、自分の唇に人差し指を当てた。  そのまま、少し目線を動かす。  それで、リュノも口をつぐんだ。  先ほどのおじさまが、少し離れたところで、こちらを見ていた。 「どこに行っても人気者だよね、リュナスくんは」  肩を抱くようにしてリュノを連れ出した男は、自らをルベルと名乗り、リュノの先に立って歩き始めた。 「どこに行ってもって……、どういうことですか?」  見知らぬ相手に自分のことを知られているという居心地の悪さに、ルベルのあとを歩く足取りが重たかった。  本部のリュナスを知る相手。  リュノが、あそこで何をしていたのかすら、知られている。  思わず体の前で指を組み合わせて、親指同士をこすり合わせた。 「知らないよね。俺ら騎士からしたらリュナスくんって優しい事務官さんで、  メガネかけてるとこは清純そうだし、言葉遣いも丁寧で気遣いもできる。  でも周りの上司が怖いし、普段穏やかな子に言い寄って、嫌な顔されたら立ち直れない自信があるから、誰も手出しできてない」 「——はあ……」  言葉遣いが丁寧なのは、地方出身でなまりを直したからだし、  メガネはかけていても清純とは多分程遠い。 「自覚ないんだ。——先輩にもがっちり守られてるもんね……」  こちらを振り返って微笑むルベルに、目を合わせて首を振る。  職場の先輩、麗しの美貌を持つヒルデ書記官の顔が脳裏をよぎった。 「先輩——、ヒルデ書記官のお美しさの隣には、誰がいたって誰にも見えていませんよ」 「まあそりゃ——、ちょっとごめんね」  すい、とルベルの手が伸びて、リュノの前髪を払う。 「何……」 「こんなかわいい顔、メガネで隠してたらもったいないよね。  あれ、ほんとはなくてもいいの?」  少し、鼻頭の横を指の背でなぞられた。  そこは、メガネの重みで、少し肌に痕がついている。 「いえ、いります。——僕、()が良すぎて、騎士団の書類仕事は少し辛いんです」 「え?——良すぎて……?」  

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