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第3話 あたたかい色
目の前にあるルベルの指先。
その指先にまとわりつく魔力は、ゆるゆるとリュノの目の下を辿って、それから指先と共に、逃げるように引っ込んだ。
遠慮のない魔力を這わせてきた先ほどのおじさまとは違って、紳士的で、嫌味のないルベルの魔力。
だから、目元をなぞられても少しも嫌ではなかった。
「僕、少し人の魔力の流れに敏感でして。
普段生活している分にはまだいいんですけど、仕事の時は邪魔で……」
「——見えるって、こと?」
こくりと頷く。
隠していることではないけれど、吹聴することでもないので、あまり人に言ったことはない。
そもそも、中央に来るまでは気づいてもいなかった。
魔力を体から溢れさせるほど持っている人など、村にはいなかった。
「本部においでになる方々は、魔力の旺盛な人も多いので……」
「あー……、確かに」
納得したように頷いたルベルは、リュノの前髪を直して、それから一歩下がって、首を傾げた。
「じゃあ、俺もあんまり近づいたら良くないね。ごめん」
「え?いえ。仕事中なわけじゃないんで……」
多少煩わしくはあっても、そんなことを言っていては生きていけない。
だから別に構わない。そう、言おうとして、ルベルを見た。
ルベルの体にまとわりつく、あたたかい色をした魔力の流れ。
先ほどまで、目の前をたゆたっていた魔力。
「——ん?」
「大丈夫です……。それほど、気になりません」
全く、気にならなかった。
「そう?よかった」
言いながら、なおも一歩引いたルベルに、魔力はピッタリと寄り添ったまま、大人しくしていた。
——ルベル・エミレット。二十二歳。見習いから成り上がった魔法騎士。適正魔法は基礎全て、これに加えて氷結、雷電、分解。
「すご……。養成院行かなくてもこんなに使えるようになるんだ」
資料室で確認したルベルの経歴は意外性尽くしで、驚きの連続だった。
養成院を出ていない騎士としては珍しい魔法騎士で、しかも全ての基礎魔法に適性がある。
中級魔法も幅広く適正を持ち、あのひょうひょうとした雰囲気からは推し量れない優秀さだ。
そして何より、ルベルが自分より一つ下だったことに、少しばかり打ちのめされた。
リュノを宿舎まで送り届けたルベルは、バーのことは誰にも言わないよ。と微笑んで戻って行ったけれど、
その言葉をそのまま鵜呑みにできるほど楽観的でもない。
どのような人物なのか、確認しておかないと気が気じゃなかった。
魔法騎士ならモテるだろうし、金に困ることもない。
これをネタにどうこうしてくることはなさそうだけど、あとは口の軽さがどうか。
資料を元に戻して、資料室を出る。
執務室では、ヒルデ先輩が書記長官とお話をしていた。
「私が参ります」
「そういうわけにいかないだろう。それに君のような人が出入りするところじゃない」
「ならば、ますます行かせるわけにはいきません」
珍しく、先輩が長官殿に意見を申し上げている様子に、邪魔をしないように足音を忍ばせて机に向かっていると、長官がリュノを見つけて手を上げた。
「リュナス、いいところに来てくれた。君に協力依頼だ」
「長官、リュナスではなく、私です」
「……はあ……」
どう返したら良いのか迷っていると、長官が手を組んで口を開いた。
「ヒルデ。指名をいただいたのはリュナスだ。
心配なのはわかるが、リュナスはもう子供じゃないし、騎士がそばにいてどうにかなるものでもないだろう」
長官の言葉に、ヒルデ先輩はまだ何かを言おうとしたが、長官は手のひらを見せてそれを遮った。
「信頼してやりなさい」
「……はい」
長官の言葉で、騎士から何かの協力要請があったのだと察する。
先輩からしてみたらまだまだ頼りない自分が、それほど心配をかけていたのだと思うと、申し訳ない気持ちになった。
「リュナス、こちらへ。騎士から捜査協力の依頼があった。
もしかして、目のことを誰かに話したか?」
「あ……、はい」
長官の机の前に立つと、一枚の通知を手渡された。
本部付書記官補佐リュナスへの、市街地捜査協力の要請。
王都の警備を預かっている隊の隊長殿による署名が入っており、同行騎士の指定があった。
ルベル・エミレット。
先ほど知ったばかりの、騎士のフルネームが記されていた。
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