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第11話 嘘も、誤魔化しもなく

 終業時刻を迎えて、帰る支度をしていると、執務室の扉がノックされた。 「どうぞ」  扉に一番近いリュノが声をかけると、外から名乗りの声があって、ルベルが顔を覗かせた。 「失礼します。——すみません、迎えに来ちゃいました」 「ルベル」  確かに、今夜会えるかと書き付けたのは自分だけれども。  こんなふうに迎えに来させるつもりまではなかったのに。 「なんだリュナス、今日はお出かけ?気をつけて行っておいでよ」  リュノの協力が実を結んだことを聞いたヒルデ先輩は、あれ以来ルベル贔屓になった。  リュノのこの先を一番気にかけていてくれるのはヒルデ先輩で、  だから、リュノが今の仕事以外にできることを見つけるのを、我がことのように喜んでくださるから。 「——ごめん、早かったかな」 「ううん。支度してたとこ。——先輩、ありがとうございます。お先に失礼します」 「うん。お疲れ様」  にこやかに送り出してくださる先輩にも、少し申し訳ないなあ、と思うけれども。  決めたことだし、しょうがない。  魔力をふわふわさせながら、隣で歩幅を合わせてくれるルベルに言うべき言葉を、もう一度頭の中でなぞり直した。   「……なんで……?」    どこか店に入ろうか、と聞いてきたルベルに首を振り、この日もルベルの部屋を訪れていた。  店でできる話だとは思えなかった。  外で簡単な食事を買って、酒は断った。  少し首を傾げたルベルは、じゃあ俺も、と言って、その代わりに果実水を購入した。  部屋へ向かうまでの間。  二人分の色づいた果実水が、ルベルの手の中で揺れていて、  リュノは、決意を鈍らせてしまわないために、拳の中に親指を握りこんだ。 「……ごめん。」 「ごめんじゃなくて」  だから。  部屋に入ってすぐ、リュノはルベルに告げた。  ——こうして二人で会うのは、今日で最後にしたい。と。  わっと広がったルベルの魔力は、そのまま固まって、少し青ざめていた。  理由を言うことはできない。  番いのことは機密事項で、口にすることはできないから。 「俺が、——恋人になって欲しいとか、いったから……?」 「ち、——違うよ。それは関係ない」  ざわり。  魔力がうごめく。 「じゃあ、——どうして……?」  少しずつ、ルベルの魔力がリュノの方へ伸びて、するすると体の表面をなぞる。  リュノが握りしめた拳の上も、ルベルの魔力はするすると包み込んだ。   「……ごめん。理由は、言えない」 「納得できない。恋人になれない理由は、ちゃんと、教えてくれた。  こうして会えない理由は、どうして教えてくれないの……?」  昨日、ルベルに伝えたことは、全部本心だったから。  全部、リュノも伝えることができた。  だけど。  本当のことを伝えずに、ルベルが納得できる理由なんて、今のリュノにはひとつも思いつかなかった。  だから、嘘も、誤魔化しもなく。  ただ、もう会えないとだけ、伝えることにした。 「……俺とのセックスが、嫌になった?」  首を振る。 「俺の気持ち、重たかった?」  また、首を振る。  そんなことはない。  本当は、嬉しかった。 「俺と寝てること、誰かにバレた?」  首を振る。  ルベルは、リュノとのことを誰かに話したりしていないし、リュノだって話す気はない。  二人の間のこと、友達同士の時間でも、かけがえのない時間だったから。 「——俺。リュノのこと、諦めたつもりなかったよ。  今リュノが恋人を作れないって思ってるのはわかったけれど、  こうして会ってたら、そのうち好きになってもらえるかもって、自分のこと励ましてた」  思いがけない言葉に、思わず目をまたたく。 「でも、……会えなくなったら、俺、どうやってリュノに好きになってもらったらいいの?」  その声が、涙交じりで、  思わずルベルの頭を抱き寄せていた。  泣かせるつもりなんて、なかったのに。  

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