11 / 17
第11話 嘘も、誤魔化しもなく
終業時刻を迎えて、帰る支度をしていると、執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
扉に一番近いリュノが声をかけると、外から名乗りの声があって、ルベルが顔を覗かせた。
「失礼します。——すみません、迎えに来ちゃいました」
「ルベル」
確かに、今夜会えるかと書き付けたのは自分だけれども。
こんなふうに迎えに来させるつもりまではなかったのに。
「なんだリュナス、今日はお出かけ?気をつけて行っておいでよ」
リュノの協力が実を結んだことを聞いたヒルデ先輩は、あれ以来ルベル贔屓になった。
リュノのこの先を一番気にかけていてくれるのはヒルデ先輩で、
だから、リュノが今の仕事以外にできることを見つけるのを、我がことのように喜んでくださるから。
「——ごめん、早かったかな」
「ううん。支度してたとこ。——先輩、ありがとうございます。お先に失礼します」
「うん。お疲れ様」
にこやかに送り出してくださる先輩にも、少し申し訳ないなあ、と思うけれども。
決めたことだし、しょうがない。
魔力をふわふわさせながら、隣で歩幅を合わせてくれるルベルに言うべき言葉を、もう一度頭の中でなぞり直した。
「……なんで……?」
どこか店に入ろうか、と聞いてきたルベルに首を振り、この日もルベルの部屋を訪れていた。
店でできる話だとは思えなかった。
外で簡単な食事を買って、酒は断った。
少し首を傾げたルベルは、じゃあ俺も、と言って、その代わりに果実水を購入した。
部屋へ向かうまでの間。
二人分の色づいた果実水が、ルベルの手の中で揺れていて、
リュノは、決意を鈍らせてしまわないために、拳の中に親指を握りこんだ。
「……ごめん。」
「ごめんじゃなくて」
だから。
部屋に入ってすぐ、リュノはルベルに告げた。
——こうして二人で会うのは、今日で最後にしたい。と。
わっと広がったルベルの魔力は、そのまま固まって、少し青ざめていた。
理由を言うことはできない。
番いのことは機密事項で、口にすることはできないから。
「俺が、——恋人になって欲しいとか、いったから……?」
「ち、——違うよ。それは関係ない」
ざわり。
魔力がうごめく。
「じゃあ、——どうして……?」
少しずつ、ルベルの魔力がリュノの方へ伸びて、するすると体の表面をなぞる。
リュノが握りしめた拳の上も、ルベルの魔力はするすると包み込んだ。
「……ごめん。理由は、言えない」
「納得できない。恋人になれない理由は、ちゃんと、教えてくれた。
こうして会えない理由は、どうして教えてくれないの……?」
昨日、ルベルに伝えたことは、全部本心だったから。
全部、リュノも伝えることができた。
だけど。
本当のことを伝えずに、ルベルが納得できる理由なんて、今のリュノにはひとつも思いつかなかった。
だから、嘘も、誤魔化しもなく。
ただ、もう会えないとだけ、伝えることにした。
「……俺とのセックスが、嫌になった?」
首を振る。
「俺の気持ち、重たかった?」
また、首を振る。
そんなことはない。
本当は、嬉しかった。
「俺と寝てること、誰かにバレた?」
首を振る。
ルベルは、リュノとのことを誰かに話したりしていないし、リュノだって話す気はない。
二人の間のこと、友達同士の時間でも、かけがえのない時間だったから。
「——俺。リュノのこと、諦めたつもりなかったよ。
今リュノが恋人を作れないって思ってるのはわかったけれど、
こうして会ってたら、そのうち好きになってもらえるかもって、自分のこと励ましてた」
思いがけない言葉に、思わず目をまたたく。
「でも、……会えなくなったら、俺、どうやってリュノに好きになってもらったらいいの?」
その声が、涙交じりで、
思わずルベルの頭を抱き寄せていた。
泣かせるつもりなんて、なかったのに。
ともだちにシェアしよう!

