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第14話 決めたこと

 まだ早い時間に目が覚めて。  眠った記憶なんてなかったのに、気づけば清潔な体でルベルに抱き込まれていた。 「……まだ寝てていいよ」  その声と共に、目の下に冷たいものを押し当てられる。 「——ん、なに……」  思わず出た声ががらがらしていて、途中で言葉が止まってしまうと、  ルベルが体を起こして、寝台から降りた。  薄暗い室内、水の音が聞こえて、再びルベルの気配。 「……体起こせる?——水、飲みな」  体を起こされて、グラスを手渡される。  それは水で薄めた果実水で、乾き切った喉を甘く潤してくれた。  半分くらいまで飲んでグラスを下ろすと、ルベルの手に取られて、また目元に何かがそっと押し当てられた。  次は、温かい——温かいお湯で湿らせた布だ。 「これ、——なに……?」 「ごめんね。……昨日、俺がだいぶ泣かせちゃったから。  リュノは今日仕事でしょ。こうしといたら腫れないからさ」 「…………ありがと……」  目元に手を伸ばすと、空いた方の手でそれを止められた。 「まだ早いから。——寝ておきな。それか、お腹すいた?」 「ルベル……。ありがとう。もう、いいよ」 「まだ少し腫れてるよ」  もう片方の手で、目元の布ごと、ルベルの手を掴む。  そっと外すと、泣きそうな顔をしたルベルがいた。  こんなふうに。  泣かせたいわけじゃ、なかったのにな。 「ありがとう。……ありがとう、ルベル。」  好きになってくれて。  それから、リュノに、好きを教えてくれて。  大切にしてくれたから。  笑って、お礼を言えた。 「……俺、帰るね」  ルベルは、引き止めなかったし、泣きもしなかった。  身支度を整えたリュノが部屋を出る時には、扉の前まできて、静かな目で見送ってくれた。  リュノも。  もう、泣かなかった。  これは、リュノが自分で決めたことだから。  泣いたりすることなんて、できなかった。 「組み合わせの相手の方からは、双方認識阻害をかけたままでの面会を希望されております」  翌日の夜。  管理課から届けられた面談通知に応じると、すぐさま扉の向こうに呼ばれて、管理官との面談となった。 「双方ですか」   「はい。ですのでもしもバークレイさんが、認識阻害のあるお相手との番い交渉に不安があるようでしたら。  今回の交渉は、お断りいただいて結構です」  管理官の言葉に、心の中で首を傾げる。  番い交渉——番いのためのセックスのとき、  リュノのような、相手の魔力を溜める器の役をするものは、ほとんど必ず、身元を隠すために認識阻害をかけて臨むと管理官は言っていた。  リュノの相手となる、——いざという時のために自分の魔力をリュノに預ける者は、つまり、顔もわからない相手を抱くことになる。  ゆきずりの相手との夜を何度も過ごしてきたリュノにとって、顔のわからない相手とのセックスも、それほどハードルの高いことではないと思っていたけれど。  リュノの相手となる人が、それを負担に感じることがないとは言えないのに。  お互い様だ。  ルベルを知ってしまった今では、  顔のわからない相手との夜を思うと、少しだけ胸が重くなった。 「わかりました。……大丈夫です」  何があっても。  番いの交渉は断らない。  そう、決めたから。  相手の人も、ちゃんと自分の意志でこの番いを進めるかどうか決めて欲しかったから、  認識阻害をかけたまま交渉することは、リュノにとって、なんの問題もなかった。  

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