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第16話 断るなんて、できない

 長い沈黙の後。  少し姿勢を変える気配があって。  ゆっくりと顔を上げると、ルベルは、その魔力をざわざわとざわめかせていて。  小さく言った。 「進めましょう」 「——え……」  言われた言葉を一瞬理解できずに固まっていると、  ルベルは、机に置かれた確認票を手に取った。 「確認を進めましょう。——お互いの交友関係と、性嗜好の確認票です」 「——す、進めるって……」  言葉を遮って言うと、ルベルはこちらを見て、それからまた確認票に目線を落とした。 「あなたは誰が相手でも番うそうだし。  ……俺は誰が相手でも嫌だけれど。  あなたみたいな人がいることを知って、他の誰かと番うならいいやって、無視できるほど無神経な人間でもありません」 「俺みたいなって、……どういうことですか」  ルベルは、リュノのことはわかっていないはずだ。  今までのこの短いやり取りで、リュノの何がわかったというのか。 「……知っている人に。騎士団に恩義を感じていて、自分のできることで、団のためになることなら、決して断らなさそうな人がいます」 「…………」  ルベルの言葉に、押し黙る。 「あなたも。——あなたが、ウルラになりたいわけじゃなさそうだ。  ……あなたがその身を差し出すことが、団のために、——国のためになると知っているから、相手が誰であってもいいのでしょう」  ルベルの言葉は、リュノを詰っているように聞こえた。 「なら、俺もそうします。俺は、ディッカーになりたいわけじゃないけれど、俺が、この身を差し出すことが、国のためになるなら。  相手を選ぶこともないし、嫌がる理由もない」 「そんな——。そんな、自棄みたいに選ばないでください」 「あなたは」  ルベルが、自分をいたぶっているように聞こえて思わず声を上げると、ルベルの静かな目がリュノを刺し貫いた。 「あなたは、自棄でしたか?」  自分が、  ……どうだったか。 「俺、は。——別に……自棄とか」  自棄になってそう決めたわけではない。  はっとして、口をつぐんだ。  そうではない。  ここにいるのはリュノではなくて、ルベルの、ルベルと初めて会ったばかりの、ウルラだ。 「俺は、そんな風に思ってこの番いを引き受けたわけじゃありません。  ——ウルラに。なりたかったから」 「そう」  ルベルの魔力がまたざわざわとして、少し、重たく沈んだ色をしていた。 「だから、団のためとか、国のためとか。——考えてなんていません。  そんな風に思っているわけじゃありません」 「じゃあ、断りますか」  ——断るなんて。  できない。 「確認をはじめましょう。恋人や配偶者の有無、——過去と、現在。……性的嗜好と、経験の、有無」  落ち着いたルベルの声が、確認票を読み上げる。 「俺からいきますね。恋人は、何人かと付き合ったことはありますが、今はいません。——振られてしまいました。  性的嗜好は、あまり気にしていません。いいなと思えば、性別はあまり関係ないから。これまでに男性も、——一人」  あなたは?  促されて、眉をひそめる。  受け身の同性愛者であることは、伏せておかなければならない。  ウルラになる人は、番う時のセックスでその体に魔力の道をつける。  肛門の、奥。  魔力の道は、ディッカー以外が触れることのできない場所になるから、  その先の人生で、ウルラが他の人に触れさせることのない場所に作るものなのだ。  受け身の同性愛者の場合、そこに道ができれば、この先の人生、もう他の誰かとセックスすることはできない。  だから、ウルラになる上で、受け身の同性愛者は、除外されるのだ。  手のひらを組み合わせる。  両手の親指を、お互いに強く押し当てて息をつく。 「恋人は、いません。性的嗜好は、俺も、気にしません。後ろの経験はありますが、別にそうじゃなければだめなわけでもありません」  ずっと用意していた答え。  できるだけ嘘は少なく。  この先、もうセックスできなくなることは、もう気にしていないし、  誰ともセックスしなくなるのであれば、後ろが使えなくなることも、別にダメでもなんでもない。 「……本当に……?」 「え……」  ルベルの声が低くて。  なんと返せばいいかわからなかった。 「後ろの経験があるって。  それは、好きではなければ、あまりしないものではないのですか」 「どう……ですかね。俺は、他の方のことはあまり……」  ルベルの魔力が、重たく床の上に沈んでいた。  

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