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第17話 ひとときの恋人

「……俺に名前をくれますか」  黙り込んだリュノに、ルベルが言った。  顔も、名前も伏せて、番いになるから。  番いの交渉の間だけ、お互いの間だけで呼び合うための、名前を付ける。  ルベルには、もう断る気はなさそうだった。  こんなふうに決めてほしくなくて、だけど、どう伝えていいのかわからなくて、言葉を選べなかった。 「……くださらないなら、俺が、勝手につけていいですか」  首を振る。  重たく沈んだルベルの魔力が、またざわざわとうごめいた。  もう。  これ以上、引き止められない。  目をつむって、口を開く。 「……ソル」  夏の太陽(ソル)。  冬が長い山あいの村。  村の夏を照らす太陽は、遠く空から、いつもリュノの心を温めてくれた。  ルベルも。  番いになったなら。  きっとこの先、離れていても、リュノの心をずっと照らしてくれる。 「……太陽……?」  ——ああ。  やっぱり。  ルベルなんだなあ。  目を開けて、唇の内側を噛む。  指を握り込んで、大きく一度、息を吸い込んだ。  自分は、この言葉の意味など、——わかっていない。  そういう人間だ。 「——太陽……。って?」  顔を上げたその先、  ルベルの魔力は、少しずつざわめきを落ち着かせて、その身にまた魔力をぴったりとまとわせはじめていた。  古い言葉の意味を言い当てたリュノの番いは、小さく息を吐いた。 「アルバ。あなたの名前は、アルバ。  ——アルバ、今から、番いになるその時まで」  少し冷たい色になったルベルの魔力は、薄い鎧のようになって。  リュノに、白い夜明け(アルバ)の名前をくれた。 「俺の、ひとときの恋人になってください」  番いになる者同士の、お決まりの約束ごと。  その台詞を、型通りに、口にした。  これで、交渉前の面談はおしまい。  そのことにほっとして、手指から力が抜けた。 「——よろこんで」  ひとときだけ。  それでも、本当の恋人になれたなら、良かったのかもしれない。  番いの交渉は、それから三ヶ月後に行われることになった。  それまでの三ヶ月間、ウルラになる人は後ろで番いを迎え入れるための準備を行う。  そんなもの、別に必要はなかったけれども、  管理官には神妙な顔をして頷き、支度のための色々な道具を受け取った。  ルベルは、仕事で本部に顔を出すことも増えたのか、  日中、廊下ですれ違ったり、遠めに見かけることが多くなった。 「部屋」の外では認識阻害はないから、ルベルの顔も見えてしまう。    すれ違うたび、ルベルがどんな目を向けているのか、それを知ってしまうことが怖くて、  眼鏡越しにもルベルの魔力を見てしまいたくなくて、  俯いて歩くことも増えていた。    それでも、    ルベルと出会わなければ良かったのにとは、到底思えなかった。    

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