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第18話 にわか雨

「バークレイさんの職歴ならば、当家の仕事は少し物足りないかもしれないですよ」 「物足りないだなんて、そんな」  遠回しに、リュノに向いた仕事はないと断られたことを理解しつつ、内心でため息をついた。  地方での下働き時代を含めると、リュノはもう十年は騎士団で働いている。  だが、そのうち半分ほどは東の果ての少数民族との交渉ごとに関わっており、  今の書記官補佐になってからはまだほんの一年ほどだ。  民族関連では様々な知識や経験を得たけれど、  王都に構える貴族のタウンハウスで、そんな経験を活かせる仕事を見つけるのはなかなか難しかった。 「領地のほうでしたらお願いしたい仕事はあると思うのですが、この時期旦那さまは領地においでですので、こちらでお会いいただくのは難しいですね」 「——そう、ですよね。  こんな時期はずれのご相談、お付き合いいただいて恐れ入ります」  地方領主たちが王都に集う社交シーズンはまだ先の話で、今のリュノの経験を活かせる地方都市の貴族たちは、今は王都にはいない。  それでもダメもとで、なんとか雇ってもらうことができないかと訪ねてみたけれど、どこの家宰もリュノのことを真剣に考えてくれて、  とにかく適当になんでもいいからやらせよう、とは、誰も思ってはくれなかった。  この日も、領地にいる主人に伝えておいてくれるとは約束してくれたが、  しばらくは今のまま騎士団で経験を積むべきだと諭されて、話を切り上げられてしまった。  もう、これ以上。  下を向いて歩く日々には、  耐えられそうになかったのに。 「——ずいぶんと降り出しましたね。雨具をお貸しいたしましょう」  屋敷を辞するタイミングで分厚い雲が空を覆って、あたりはにわか雨に包まれてしまった。 「いいえ、滅相もないです。幸い風はありませんから、外套でしのいで帰ればなんとかなると思います」  急な雨に慌ただしくなった屋敷の使用人たちを押しとどめて、このまま帰ることを告げると、背後から男性に声をかけられた。 「おや、——君は……」  振り向いてみて、どこかで見たことのあるような、そうでもないような男性の姿に会釈をすると、男性は眉を下げて苦笑いした。  その拍子に、潤沢にその身から溢れる魔力がゆらゆらと揺れた。 「覚えていないですかね。——以前、バーでは失礼なことを。申し訳なかった」 「あ……、——いえ。そんな、とんでもない」  思い出した。  いつだったか、バーで声をかけてきた、おじさまだ。  騎士団の関係者かどうかはわからないけれど、貴族の家に出入りするような人だったとは、あの晩、断っておいて正解だった。  玄関ホールの端でそんなやりとりをしていると、家宰殿が「お知り合いですか」と声をかけてくださった。  なんと言えば良いのか。  一瞬口をつぐむと、おじさまは小さく笑って、家宰殿に向かって口を開いた。 「いいえ。……以前に、私が失礼なことをいたしましたもので」 「そんな。失礼だなんてこと、ありません」  真意はどうでも、事実としては少なくとも、一緒に酒でも飲まないか、と声をかけられただけだったから。  そんなふうに言われて恐縮していると、おじさまは外を見やって、雨足の強さに眉をひそめた。 「これはすごい雨ですね。もし歩きなのでしたら、うちの馬車でお送りいたしますよ」 「いえ、そんな……」  

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