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第20話 商売

「……落ち着いているんだね」  リュノが転がされていたのは、柔らかな肌触りの寝台の上で、幸いなことにまだ服を身につけていた。  リュノに声をかけたのはレナウトで、視線だけで室内を探ると、寝台のそば、長椅子に腰掛ける脚が見えた。 「なんのつもりですか」  貴族の家に出入りするような、信用を大事にする商人が、こんなことをしてまでリュノの体を欲しがるとは思えなかった。  リュノがここを出てどこかへ訴えたら、証拠が足りなくて捕縛されることがなくても、商売には関わることになる。  少なくとも、今日二人を引き合わせた貴族の館は取引をやめるだろう。  ——つまりレナウトは。  ただ一時、リュノの体を好きにするためだけに、こんなことをしたわけではない。  ゾッとして、縛られた腕の先、手のひらをぎゅっと握り込む。 「いや、なに」  長椅子から立ち上がった脚が寝台に近寄ってきて、すぐそばで立ち止まった。 「そんなつもりはないって言った割に、それからすぐに若いのと店を出て、——あのあと二人でよく見るようになったね。恋人同士にでもなったのかい?」  レナウトの言葉に、目を閉じる。  あの日のことだけなら、咳きこんでいたリュノの介抱だったとも取れるけれど、  確かに、その後は何度も二人であの界隈に出入りしていた。 「振られたのは構わないんだけどね。——ああいう、すぐにバレる嘘をつかれるのは、癪に触るよね」  それがレナウトの目に止まり、イラつかせていたのか。 「まあそれでも、目に止まらなければ良かっただろうけれど。  ……君も運が悪かったね」  寝台のそばに立ったレナウトの魔力が、ぞろりとリュノの目の前に伸びた。  ざらつく手触りの、鈍色をした魔力。 「男の子は取り扱っていないけれど、まあ、なんとかなるだろう。  その前に、楽しませておくれよ」  握りしめた手を引き寄せる。  脚も引き寄せて体を丸めると、レナウトは低く笑った。 「それとも、おじさんはやっぱりいやなのかな」 「こ、こんなふうに縛り付けられて、嫌じゃない人なんていません」  ふうん。と、なんでもないように返されて、レナウトは寝台に腰掛けた。  つうっと、腕をなぞられる。 「そうかあ。でも、いろんなお客さんがいるからね。  こういうのが好きな人もいるから、君も、割り切って楽しめるようになるほうがいいよ」 「お、俺はもう十分に大人で、売りではないです」  レナウトが体をかがめて、リュノの前髪をはらった。 「大丈夫。まだまだ全然若くてかわいいし、君みたいに生意気な口をきく子が好きな変態にはあてがある。  ……おじさんの商売を心配してくれてありがとう」  目尻に柔らかい皺を寄せて微笑むレナウトが、耳元でささやく言葉に目を閉じる。  今ここで、レナウトをどうにかするのは、難しそうだった。  その時、部屋の扉がノックされて、廊下から誰かの声がした。 「おや。しばらく放っておくように言ったのにな」  寝台から腰を上げたレナウトは、リュノの腕を引っ張り上げて、寝台の縁に縄でくくりつけた。 「おとなしくしておいで。暴れると、食い込むよ」  楽しそうに耳元でささやく声を、息を殺してやり過ごした。  

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