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第23話 その先に
部屋を訪れた管理官は、リュノの体調を案じた後、優雅な動作で茶を淹れながら、リュノの方へ魔力を伸ばして、リュノの手首を探った。
何も言わずに行われたそれに、脈をとるようなものだろうかと目線を落としていると、管理官から名を呼ばれた。
「バークレイさん。……見えて、いるのですね」
名を呼ばれてあげた顔が、一瞬でこわばった。
今のは、脈を測ったのではなくて、リュノの反応を見るための動きだった。
「——す、みません」
なんと言えばいいのかわからなくて、思わず親指を握り込んで謝ってしまうと、管理官はゆるゆると首を振った。
「いいえ。……試すようなことをして申し訳ありません。
魔力の流れに敏感、ということはお聞きしていましたが、そこまで明確に見えているとは存じませんでした」
茶を注ぎ分けた管理官は、リュノの前にカップを置いて、自らもソファに腰を下ろした。
「バークレイさん。今は、本部にて書記官補佐をなさっておいでですね」
「……はい」
外に出たいと言っただけなのに、なぜか、面接のような会話が始まってしまった。
戸惑いながら返事をすると、管理官は手のひらで茶を飲むよう促して、自らもカップを持ち上げた。
「大丈夫です。変なものは入っておりませんから」
「——ふ、はは」
まさか、こんなところでそんな心配はしないけれど、思わず笑ってしまって、管理官は眉をあげた。
「笑っていただけて何よりです。魔力が見えることを咎めたいわけではないのですよ」
「ふは、……はい」
なんだろう。笑わせるにしても、少しブラックすぎる。
管理官はこれまで顔も見えない役割の人だったから、どんな人なのかも気にしたことがなかったけれど、
思ったよりずっと、不器用な人なのかもしれなかった。
「この先、——書記官補佐の先は、どのような将来を考えておいでですか」
なんだか体の力が抜けて、ルベル以外には言ったことのない将来の展望を、口にすることの抵抗がなくなってしまった。
「ご承知のとおり、私は書記官になることはできません。
補佐のままずっと勤める道もありえますが、私は、騎士団を出て、ほかの仕事を探したいと考えています」
「例えば?」
カップを持ち上げて、茶を口に含む。
香りの良いお茶に、ゆっくりと味わいを楽しむ。
こんなふうにお茶の味がわかるようになったのも、騎士団で働いて、いろいろ経験してきたからだ。
民族との交渉の中心は、品質の高いお茶の取り引きの話で、
国内の移動を護衛する騎士を手配することで、ルイアナ国が単独で取り引きすることに成功した。
「決めてはいませんが。……経済の情勢などを見て、地方の領地経営を補佐できるような立場の仕事ならば、経験を活かすことができるかと考えております」
「……なるほど。以前のお仕事でのご経験ですね」
管理官はカップを戻して、窓の外を見やった。
「ここは、バークレイさんや、あなたの番い候補がおられる騎士団とは、別の場所です。
特別な魔法で、皆さんの居室から、この建物へと空間を繋いでいます」
「ええ……。すごい魔法ですね……」
話の流れが読めなくて、ただ、感想を口にすると、管理官は少し肩を揺らして笑った。
「魔法学者たちが丹精込めて書き上げた魔法回路の賜物です。
そしてこれらは、すべて管理課の管理の元に整備されており、この場所は国内のどこからも隔絶して存在しています」
「——あ……」
つまり。
この場所そのものが、大きな機密事項。
そういうことだ。
外に出ることなど、ましてや、いずれ騎士団を出る者がその場所を伺い知る機会を得ることなど、もってのほか。
「すみません。それほど重要な場所なのだと、存じませんでした」
「いいえ。——ですから、一つ相談です」
頭を下げると、管理官は少し首を傾げてから、リュノの顔を覗き込んだ。
「バークレイさん。あなたのその、魔力が見えるという能力は、我々の仕事で、とても役に立つものだと考えております」
「——は……」
思わず頭を上げると、管理官は一つ頷いて、また姿勢を正した。
「将来の展望の一つに、我々と働くということも、取り入れてくださいませんか。
ここは、番いたちの管理だけでなく、この施設や表向きの領地運営も担っています。」
管理官が、少し、微笑んだ気がした。
「いずれあなたのような方に来ていただけるなら、我々はとてもありがたい」
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