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第27話 たった一つの願い
思わず体を離そうとすると、ルベルの腕はしっかりとリュノの体をとらえて、これっぽっちも動けなかった。
「俺が誰だか、気づいているでしょ?——リュノ」
「な、——な、……んで」
頭に頬を寄せたルベルが、鼻先をすんと鳴らした。
「好きな人が、ずっと見てた子が目の前にいたら、
クセとか、——話し方とかで、すぐにわかっちゃうよ」
一瞬緩められた腕は、すぐにリュノの体に巻き付いて、リュノの体をひょいと持ち上げた。
「——っ、ひゃ」
咄嗟にルベルの肩に手を添えたけれど、リュノの腰はすぐ寝台に下ろされて、ルベルの唇が額に押し当てられた。
「そういう、かわいい反応も好き」
あわてて腕を下ろすと、その両手をルベルに捉えられる。
「何か言いにくいことがある時に、親指がすぐにリュノの気持ちを教えてくれるところも好き」
「なに、——それ……」
顔はよくわからないけれど、ルベルは眉を柔らかくて垂れて、優しい顔で笑った。
「困ると、俺の肩や指先を見て、——多分魔力を見て、俺の気持ちを尊重しようとしてくれるところも、——好き」
「ル——、ルベル……」
リュノの両手を持ち上げたルベルは、その指先に唇を押し当てて、きゅっと目をつむった。
「あんなに怖い目にあったのに。
……俺と一緒に過ごした時間を、なかったことにしたくないって言ってくれるリュノが、好き」
その声は涙交じりで、ルベルの魔力はぺったりと力なく体に寄り添っていて、
それでも、「好き」と言う前には、ふわりと持ち上がる魔力が、ルベルの気持ちを、痛いくらいリュノに教えてくれた。
「やるって決めたことは、何があってもやりきろうとする強さも、
……頑固だなって思うこともあるけど、尊敬、してるし」
息を止めて、震えようとする胸の奥をなんとか押さえて、
それでも、頭の奥が痺れるくらい、ルベルの言葉の、一つ一つがリュノの胸を打っていた。
「俺を振って、リュノが選んだのか、「誰でも一緒」の中の俺なのは、死ぬほど嫌だったけど」
リュノの両手を額に押し当てて、ルベルが、震えながら、うめくように言った。
「それでも、……他の誰かにくれてやるなんてことも、考えられなかった」
ごめん。
小さく、ルベルが言った。
「リュノだって、気づいてた。はじめの時から、すぐに」
「どうして、……謝るの」
「だって。——リュノなら、俺のことすぐ気づくってわかってた。
俺が、リュノに振られたばっかりで、番いのことなんて普通なら考えられないって、リュノなら思うと思ってた」
リュノの手を額から離して、ルベルは目を開いた。
「ごめん。——追い詰めるみたいに、番いになること、承諾させた」
「違う——よ。俺は、断るつもりはなかった」
その唇が、うっすらと笑う。
「うん。……わかってた。
リュノが、断らないことなんてわかってた。
だから、せめて、リュノの番いになりたかった。
——せめてそれだけで充分だって、思ってた」
リュノも。
ルベルの番いになれたら、それだけで充分だと、
思っていた。
あの時は。
「でも、そうじゃなかったよ。リュノ」
ルベルの、静かな声が、床の上に落ちた。
それから、ルベルは片方の膝を床について、リュノの顔を見上げた。
「あの日。——本当にリュノを失うかもしれなくて」
ルベルと共に扉から這い込んできた炎を思い出す。
「それから、リュノがあちこち仕事を探していたことを知って」
熱風と、ルベルの叫び声。
「番いなんかじゃないって、思い知った」
あの部屋から飛び降りる直前。
ルベルにしがみついた時の安心感。
また、生きてルベルに会えた、喜び。
「リュノ……、俺の願いは。
三ヶ月前のあの時から、何一つ変わっていない」
もう、リュノの頬は、とめどなくあふれる涙でびしょびしょで、
しゃくりあげる呼吸も、どうにも、止めようがなかった。
「ね……。俺のこと、恋人にするっていうのは、……どう、かな……?」
温かくて柔らかいルベルの魔力。
その魔力が、リュノの頬にすり寄っては、なんとか涙を拭おうとしてくれているみたいで、
この温かい魔力の色を、もっとずっと見ていたくて。
もう、ルベルと離れるなんてこと、考えられそうになかった。
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