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《第3話》アクスタと恋はできません④

 役者というのは飲み会が好きなやつが多く、飲み会で知り合った縁で出演オファーがきたりすることも普通にあるから、誘われたらできるだけ行くようにはしている。と以前、千夏は言っていた。  だから酒はそんなに嫌いではないと思うのだけど、よく考えたら、家で千夏が酒を飲むところは見たことがない。  酔った千夏とするのははじめてだった。 「かわいい……今日もかわいいな。小さい頃からかわいかったけど、ここまでオレ好みに育ってくれるとは思わなかったな」  かわいいかわいいとひたすら連呼されながら体中にキスされて、真白は妙な気分になっていた。  さっきまでの千夏はちょっと怖いぐらいだったが、今は口調が柔らかく、ふわふわとしている。別人を相手にしている気分だ。 (チカちゃんってほんと、多面性がすごいっていうか……)  役者だからだろうか。本人の内側の芯は一貫してブレていないのだが、見る角度によって、全然違う性格に見える。  昔からそうだ。万華鏡みたいで、見ていて飽きない。  夢中になって覗き込んでいたら、他の人など目に入らないほどに惚れ込んでしまっていた。 「かわいい……おれの真白……」  夢心地の甘ったるい声とは裏腹に、中を暴いてくる手は性急だ。  あっという間に体を繋げられてしまった。 「ん……っ、は、ぅ……んっ」  いつもの千夏だったら、もっと時間をかけてほぐす。  今日は準備を短縮化されたため、当然のことながら、いつもよりキツかった。 「あ、あああ……っ」  ちょっとだけ痛い。それに苦しい。でも気持ちいい。 「声もかわいい……やっぱりシロの高音の響きは最高だな……声変わりして音域の幅が広がって、より表現力が豊かになった……」  いまそんなことを言われても困るのでやめてほしい。荒々しく揺さぶられて、慣れない刺激に体がついていけてないのだ。 「ちくびもかわいい」 「ちょ……」  行為中に胸を舐められるのはよくあることだった。だけど、囓られるのは、はじめてのことだった。  といっても甘噛みで、強い痛みを感じるほどのことじゃないけど、千夏の歯が当たっているのかと思うとゾクゾクする。 「ナカがすごい締まってる……気持ちいいんだな」  鼻にかかった声はいつもよりも数倍優しくて甘いのに、見下ろしてくる眼差しはギラギラとした獣のようだった。 「ん……ぅ」  硬くなった胸の粒を舌で強めにねぶられながら、もう片方は指先で転がされる。 「チカちゃ……あぁ、ぁ……」 「千夏って呼べよ。こないだそう呼んでただろ」  今度は怖い声で威圧気味に言われながら、奥を突かれる。 「ひゃ、ん……っ」  いつもよりもキツいのが、逆に気持ちよくなってきた。  溢れた先走りが根元まで垂れて、激しく突かれるたびに、ぐちゅぐちゅと音を立てる。 「千、夏……千夏……」 「うん」  よくできましたとばかりに頭を撫でられて、今度は優しく、前立腺のあたりを擦られる。 「あ、ぅ……あ……きもちいい……」  ぞわぞわする。千夏に触れられたところが、どこもかしこも気持ちよくてたまらない。  昂ぶりすぎて、涙がこぼれてきた。 「かわいい……あいしてる」  親指でそっと涙をぬぐった千夏が、優しく囁いてきた。 「あ、ん……」  首に腕を回して、腰に脚を絡め、真白は全身で千夏にぎゅっと抱きついていた。 「真白、これじゃ動けない」  くすくす笑いながら囁いてくる声は楽しげだ。 「ちょっとだけ……」  少しだけでいいから、隙間なく肌と肌をくっつけあって、全身で千夏を感じたい気分だった。  心臓がドクドクいっているのが伝わってくる。肌が汗ばんでいるのが伝わってくる。繋がりあった部分が、甘くて熱いのが伝わってくる。 「キスして……」  小さく呟いた願いは、すぐに叶えられた。  舌も甘くて熱い。  髪を撫でると、ワックスの感触があった。  それに、知らない匂いがする。お酒と煙草と、それからわずかに香水らしき匂い。  風呂に入っていないのだから仕方ない。飲み屋でついた匂いだろう。  一緒に飲んでいた仲間の幾人が、佐渡千夏が帰宅後にこんなふうに男を抱く男だと知っているだろう。  いや、おそらくは誰も知らない。 「ねむくなってきた」  しばらくくっついたままじっとしていたら、千夏がいきなり言い出した。  確かに、目がとろんとしている。 「このまま寝ちゃう?」 「挿れたまま?」 「そう。朝になったら、どうなってるんだろうね」  ささやかな好奇心から、真白は戯れの言葉を口にする。 「それは……いい夢が見れそうだな」  甘えるように、首筋に頭が擦りつけられる。 「ふふ」  くすぐったくて、幸せな気分だった。 「……でもやっぱり、おまえのなかでイきたい」  緩慢な動きだったが、腰が動かされる。 「はぁ……っ、ん……」  寝落ちしそうになっていたわりに、陰茎はまだバキバキに硬い。  本人の意志とはいえ焦らされていた体は、物欲しげに締めつけてしまう。  体を起こした千夏が、律動を再開した。 「ふ、ぅ……っ、う、んぁ……っ、あ……ふ……だめ……オレのほうが、さきにイっちゃいそ……」  じっとしている間にも身を焦がすような熱は高まり続けていたのだ。自分から言い出しておいてなんだが、あのまま眠れるわけなどなかった。 「いい子だから、もうちょっと待ってろ」  こめかみにちゅっと口づけられて、千夏の手によって根元を堰きとめられる。  行き場を失った熱は、体の中で暴走を始める。 「や、ぁ……手、はなして、ぇ……っ」  それが余計に自らを追い詰めることだと頭ではわかっているくせに、気づいたら腰を振っていた。  それに千夏がタイミングを合わせて、腰を打ちつけてくる。 「ああっ、ん……ぁ、も、だめ……きもちよすぎて、おかしくなりそ……」 「なか、すごいヒクヒクしてる。かわいいな……」  甘ったるい声が囁いてきて、わざと動きをゆるやかにされる。  雄の色気たっぷりの眼差しが、楽しげに見下ろしてくる。 「あ、ん……いじわる、しないでぇ……っ」 「いじわるなんてしてない。かわいがってんだよ」  互いに欲に濡れた眼差しが絡み合って、そのまま引き寄せられるように、唇を求め合う。  息もできないくらい激しい口づけを交わして、酸欠が限界まできた時にようやく口を離す。 「は、あ、ああぁぁ……ん……っ」  肺に新しい酸素が入ってくるのと同時に、突き抜けるような快感が下腹部で弾けるのを感じた。  だけど、射精による開放感とは違う。 「……?」  改めて下腹部を見ると、千夏の手はまだ根元を押さえたままだ。屹立は先走りで濡れているが、射精したような様子はない。  気配に気づいた千夏が動きを止める。 「なに? ドライでイったか?」 「…………チカちゃんのバカ」 「なに拗ねてんだよ。……悪かったよ。手、離してやるから」  さっきまでとは違う意味で涙目になった真白の頭が撫でられて、言葉通り、屹立が解放される。 「……はやくオレのなかにいっぱい出してくれないと、背中に爪痕つけるよ」  意趣返しのつもりで軽く爪を立てると、千夏はむしろ嬉しそうに笑っていた。 「いいぞ。それ、そそるな」 「……明日、ロケで温泉入るって言ってなかったっけ?」  まさか快諾されるとは思っていなかった真白は、不安になってきた。 「そうだけど、別に男の背中をわざわざ映したりはしないだろ」 「……そうかなぁ」  少なくともスタッフには見られる気がするが、それはいいのだろうか。 「……やっぱやめとく」  諦めて引き下がると、頬にキスされた。 「真白はいい子だな」  いい子だね、なんて昔から親にもまわりの大人にもたくさん言われてきて、慣れているんだけど、千夏に言われた時だけはどうしようもなく胸がときめくのはなぜだろう。 「今度、つけてくれよ。……楽しみにしてる」 「……うん」  そんなに激しい動きではなかったけど、視線と声の甘さだけで酔いそうだ。 「…………っ」 「ん……~~~ッ」  派手な嬌声ではなく甘くて熱い吐息を重ねて、二人はほぼ同時に達した。 「……ねむい」  最後の一滴まで余さず真白の中にそそぎこんで、呼吸が整う頃、千夏が本気で寝落ちしそうな声でぼやいた。 「お風呂までついてってあげるよ。チカちゃん起きて」 「悪い。……そういえばおまえ、寝るところだったんだよな。平気か?」 「大丈夫だよ。オレはチカちゃんと違って、いつでも昼寝できる贅沢な身分だからね。……あ、でも、今日、チカちゃんが課題で出してくれた曲、ちゃんと練習してたよ。録音したから、あとで聴いてくれる?」 「ん……よしよし、偉いな」  ゆっくりと体を起こした千夏が、頭を撫でてくる。 「明日でいいから、データで送ってくれるか? 移動中にずっと聴いてたい」 「……そんな暇つぶしになるほどの長さないけど」 「いいから」  あくびをひとつもらしてから、真白の体を千夏がかつぎあげてくる。  ついていってあげると言ったんだけど、こっちが連れていかれる立場みたいだ。

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