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《第5話》愛しのカレイドスコープ②
「ね、ねぇ……どう? そろそろ入りそうだと思う……?」
「……知るか」
「じゃあ触ってたしかめてよ」
寝室に連れていくと、真白はさっさと服を脱ぎ始めて、アナニーをはじめた。
見ててくれるだけでいいよ、と言うのでその通り、一切手を出さずに見物していた千夏だ。
いま、陰嚢の奥の窄まりでは、二本の指が出し入れされている。
ローションを使っているので、指も、そのまわりもぬるぬるになっていた。たまに卑猥な音も上がる。
信じがたい光景だった。
真白も昔に比べれば成長しているのは理解しているつもりだったが……こんなふうに成長してしまうとは。
正直、現実を受け入れがたい。
「たぶん大丈夫だと思うから、もう入れちゃうね」
片手で顔面を押さえる千夏がなにもしてくれないのを察し、真白は、準備してあったバイブを手に取った。
まだスイッチは入っていない。
大きく膨らんだ先端部分が、濡れた孔に押しつけられる。
先っぽはすんなり入ったが、真白は眉根を寄せている。
「けっこう怖いね、これ……。一気に押し込んじゃって平気かな……?」
モヤモヤする。
不快感に近い、なんとも形容しがたい嫌な感覚が胸を締めつけてきた。
「やめろ」
このまま黙って見ていてはダメだ、という直感だけはあった。
真白の手から黒い物体を取り上げる。
「おまえ、童貞処女なんだろ? こういうので卒業するのはよくない、と思う」
「別にこんなの……練習みたいなものだし、たいしたことないよ」
「本当か……?」
手を出したらダメだ。
頭の奥で、自制心が警鐘を鳴らしている。
しかし千夏はそれを無視して、ついさっき、バイブに犯されそうになっていたところに、指を這わせていた。
試しに、中指を一本押し込んでみる。
途中まではよかったが、奥はけっこうキツかった。
おそらく、準備段階で指が奥まで届いてなかったのだ。
「ち、チカちゃん……」
動揺で上擦った声があがる。
「ほら、オレの指だと、二本入れんのもキツいぞ。ちゃんとほぐさないとダメだろ。怪我したらどうするつもりだ」
一番心配なのは怪我だった。大人として、ちゃんと見てやらなければいけない。
ようやく千夏が協力する気になったというのに、真白はなぜかさっきよりも緊張した様子で、ガチガチに全身をこわばらせている。
「真白、力抜け」
「ま、まって……」
今さら逃げ腰になってしまっている。ほんとにはじめてなんだな、ということが伝わってきた。
こんなんで『誰でもいい』だなんて、よく言える。
――オレ以外のやつの前では、いつも完璧に作り込まれた外面を演じているくせに。
緊張をほぐすために優しい言葉でもかけてやれればよかったのだが、生憎と千夏はそういうのは得意ではない。
キスをして気をまぎらわせてやることしか思いつかなかった。
唇の表面を、やさしく何度も触れあわせる。
それだけでも、最初はビクビクしていたが、咥内に舌を侵入させて愛撫するように舌を這わせたり絡めてやると、次第に真白の身体から力が抜けていくのが伝わってきた。
それにあわせて、後孔からも力が抜けていって、指を根元まで押し込んでも抵抗がなくなった。
他人の身体の内側に触れるというのは、不思議な感覚だ。
ましてや、相手はあの宮部真白だ。
――熱い。
あそこまでの演技ができるこいつは腹の内になにを抱えているんだろう、と考えたことがあるけど、いまだによくわからない。
ただ、触れた腹の内側は、存外心地よくて、触っているだけなのに、下腹部が痛いくらいに疼いてきた。
(……まずい)
挿れたくなってきた。
そういう対象じゃなかったはずなのに。
どうかしている。
頭ではそう思うのに、身体は勝手に興奮していく。
いったん落ち着こうとキスをやめたら、今度は真白の腕に頭を抱え込まれて、拙い仕草でキスを求められた。
一本だった指を、二本に増やしてみた。
ちょっとキツいけど、そんなに苦しくはなさそうだ。
それに、さっきまでは萎えていた陰茎が、元気に硬くなっている。
「綺麗なかたちしてるな、おまえ」
後ろを指でいじりながら、もう片方の手で前も触ってみる。
「あ……」
使い込まれていないせいか、色も薄くて綺麗だ。
同じ男でもこうも違うものなのか、と感心する。
「舐めてやろうか?」
そう口にしたのは、完全にノリだった。
「い、いいの……?」
「舐めてほしそうにしてるし」
こんなに、健気に震えているのだ。舐めるぐらいしてやったっていいだろう。
脚を開かせて、下腹部に顔を埋める。
男のものを舐めるのははじめてだし、舐めたいと思ったことは一度もないけど、思いのほか、抵抗感は一切なかった。
「あ……ぁ……ふぁ……」
色っぽい切なげな吐息が、頭の上から聞こえてくる。
真白のそんな声を聞くのははじめてのことで、そんな声も出せるのかと驚いた。
(やばい)
声だけで、脳みそが揺さぶられる。
意識をそらすために性急な動きで舌を絡めたら、すぐに先っぽから蜜が溢れ出してきた。
そのかたちを、ささやかな凹凸も含めてすべて確かめるように、舌を這わせた。
ほのかに漂ってきた性の匂いが、脳を刺激してくる。
後ろに入れた指はあんまり動かしていなかったが、陰茎の弱いところを刺激されるたびに、きゅっと指を締めつける感覚が伝わってくる。
ここに己の一物を突っ込んだらどんな快感が味わえるだろう、という想像がつい溢れ出す。そんなことしてはいけないと、咎める気持ちはまだしっかり残っているのに。
「あ……ん……っ、やぁ……っ、きもちい……チカちゃん、すごくきもちいいよ……」
とろけた声が聞こえてきて、勘弁してくれ、と思う。
こいつは、自分の声にどれだけ人の心を動かす力があるのか、わかってないのだろうか。
ちょっと黙っててくれないかと言いたくなったけど、口が塞がっていて喋れない。
男を煽るのがどういうことだか思い知れ、と思いながら根元まで咥えてやって、喉の奥まで使って刺激する。
「は、ぅ……だめ、だめ……でちゃうよぉ……っ」
甘ったるい声は女のようにいやらしいのに、いたいけな子供っぽさもあって、罪悪感と興奮が同時にこみ上げてくる。
射精を促すように口でしごいてやると、あっけなく欲を解放した。
「ふ、ぅ……ぁ……ンッ、あぁぁ……っ」
出されたものをどうするかまでは考えていなかった。
咥内に広がった味は、おいしいとは思えなかったけど、妙に愛しくも感じられて、吐き出すこともできずに、ひとまず口の中で弄んでみる。
後ろに入れていた指は、ひとまずいったん抜いてやった。指はぬるぬるで、まだ中の感触が残っていて、妙な気分だった。
はぁはぁと荒い息をついていた真白は、少ししてから我に返った様子で、あわてて顔を上げてこちらを見た。
「ごめん……っ、チカちゃんの口、汚しちゃった……」
「別にいいけど」
出されるとわかっていて口を離さなかったのは千夏自身だ。
「いっぱい出たな」
反射的にいくらか飲み込んでしまった気がするけど、まだ口の中に残っている。
白濁がたっぷりと絡みついた舌を見せてやると、真白は真っ赤になって固まってしまった。
その反応がおもしろくて、千夏は少し笑う。
「自分のやつ、舐めてみるか?」
意地悪のつもりで顔を近づける。
本当に舐めさせるつもりはなかった。
しかし、真白に両頬を掴まれて、舌を絡められてしまう。
「うぇ……まずい」
嫌そうな顔をしながらも、懸命に舐めて、千夏の咥内を綺麗にしようとしてくる。
その健気な舌の動きに、ゾクゾクと下半身が疼いてくる。
「大丈夫だからやめろ」
残りは千夏が自ら飲み込んだ。
千夏の様子がさっきと違うことに気づいた真白が、目を瞬かせる。
「……チカちゃん、勃ってる」
「まぁな」
こちらはしっかり服を着込んでいたが、ここまで興奮しては、隠しきれない。
「挿れたい?」
そりゃあな、と言いそうになって、慌てて口元を引き締めた。
「……おまえはほんとに、はじめての相手がオレでいいのかよ」
男に抱かれたいにしても、もっと他にも選択肢があるだろう。
同年代の、もっと若くて才能にもあふれた、キラキラした男がまわりにいるはずだ。
「ファーストキスもチカちゃんだったし、妥当なところでしょ。それに、ピアスホールあけてくれたのもチカちゃんだったじゃん。体に針刺して穴あけるよりも、ちんこ突っ込む方が簡単だと思わない?」
「……そうか?」
尻にちんこを突っ込まれる方が重大な事案な気がする。
ピアスホールをあけてやったのはつい半年ほど前のことだ。
アイドルの仕事をするならそういうアクセサリーを身につける必要があると思うから、という理由で、真白がいきなりピアッサーを持ってきたのだ。
病院であけてもらえ、と何度も言ったのだが、『やだよ。チカちゃんがいい』の一点張りだったのだ。
そういえばこいつは、あの時も相当頑固だった。
「ホール、そろそろ安定してきたか?」
耳を見ると、まだファーストピアスがついたままになっていた。
「うん。たまにはずして洗ったりしてるんだけど、最近は血が出ることもなくなったよ」
「血が出てたのかよ」
「入れ直す時にうまくいかなくて血が出たり……。あと、起きたら、枕に血がついてることが何度かあったよ。寝てる間に枕に擦れたのかな?」
ベッド横のサイドテーブルにあったウェットティッシュで手を拭いた千夏は、真白の耳に触れる。
「はずしてみてもいいか?」
「うん……」
はずしてみると、穴のまわりはわずかな窪みになってて、わりと安定してきているように見える。
「大丈夫そうだな」
それはいいのだが、こいつの体に穴を開けたのは自分なのかと思うと、なんとも複雑な気持ちになる。
今時ピアスホールなど特別でもなんでもないが、傷物にしてしまったような罪悪感すら覚える。
「セカンドピアス、もう買ってあるのか?」
「まだ……」
「オレが持ってるやつ、やろうか? 気に入って買ったんだけど、ほとんど使ってないやつがある」
ファーストピアスは軸の先端が尖って釘のような形状になっており、日常的につけるのにはあまり向いていない。デザインもシンプルで、真白にはあまり似合っていなかった。
「いいの?」
「隣の部屋の引き出しに入ってるはずだから、あとで探しとく」
自分には似合わなかったが、真白にならきっと似合うはずだ。
反対側の耳もはずしてやって、すでに役目を終えたファーストピアスは、ベッドサイドのテーブルの上にまとめて置いた。
「つけてなくていいの?」
「そんなにすぐに塞がったりしないだろ。それに、枕と擦れたら痛いんじゃないのか?」
「……っ」
枕と耳が擦れるようなことをこれからするのだ、と察した真白がわずかに俯く。
「……やっぱりやめたくなったか?」
ここでやめるのは、さすがに千夏もキツい。
でも、ギリギリ踏みとどまれるラインを少し踏み越えたぐらいのところにいるから、まだなんとかなる。
「やだ。耳みたいに……ちゃんと貫通させてよ」
抱きつかれて、下半身を擦り合わせられる。
お互いに、どうしようもなく昂ぶっているのは隠しようがなかった。
「貫通って、おまえ……」
どこでそういう言葉選びのセンスを身につけてくるんだ。
「姦通 じゃないから、なにも問題ないよね?」
ズボンのボタンを、真白の手が外してくる。
ジッパーをおろされて、圧迫感から解放された千夏は、思わず熱っぽいため息をついてしまう。
「問題大ありだろ」
「……チカちゃん、ちゃんとオレ相手に勃つんだね。……嬉しい」
へへ、と無邪気に笑う顔に、ムラッとくる。
あどけない顔をしているくせに、白い手は遠慮なく下着の中に突っ込まれてくる。
「……わ、おっきいね」
子供が玩具を弄ぶような仕草だったが、やられた方としてはたまらない。
「おまえ……自分がなにしてんのか、わかってんのか?」
「チカちゃんにも気持ちよくなってもらいたい。……だめ?」
ダメじゃない。もっと触ってほしい。そう素直に言えたなら、どんなによかっただろう。
「オレもチカちゃんの舐めたい」
「ダメだ」
それにはハッキリと即答できた。
「なんで」
「口に入れるようなものじゃない」
おもちゃを口に入れようとする子供を叱るような口調で言うと、一瞬真顔になって黙り込んだ真白が、無言のまま股間に顔を埋めてきた。
「こら、やめろ」
下着をずりおろされて、根元を掴まれる。
「やだって言うなら噛むよ。いい!?」
完全に、下半身を人質に取られるような格好になっていた。
「ふざけんな。離せ」
押しのけようとしたら実際に歯を立てられて、千夏の動きが止まる。
理屈ではなく、本能的恐怖から、下手なことはできなくなっていた。
さすがに噛みちぎられることはないだろうが、こいつはたまに予想外の行動にでるから、なにをするかわからない。
「ん、むぅ……」
軽く噛まれたけど、あとはねっとりと舌を絡められて、今度は違う意味で身動きできなくなる。
慣れているとは思えない動きだったが、懸命に愛撫してくるさまに、下腹部に血液が集中してくる。
途中でさらに大きくしてしまったせいか、驚いた様子で動きを止めることはあったものの、真白は口を離すことなく奉仕を続けた。
咥内は狭いが、熱い。唾液を絡められると、たまらなく気持ちよかった。
真白も気持ちよさそうな顔をしている。白い頬を桜色に染めて、嬉しそうにしゃぶりついてきていた。
(なんでだよ。おまえ、男のものをしゃぶって喜ぶようなやつじゃなかっただろ)
幼い頃の面影がちらついて、罪悪感と違和感を千夏に与えてくる。
そんなふうに舐めてもらえて嬉しい、と思いそうになる自分の低俗さが嫌になる。
だけど、興奮は萎えるどころか高まる一方だ。
先走りがこぼれていたのか、蜜口を舌の先でぺろぺろ舐められると、一気に疼きがひどくなる。
「……っく」
反射的に、千夏は真白の頭を掴んで、ようやくその口から一物を引き抜いていた。
一瞬、真白は傷ついたような表情を浮かべたが、脚を開かされて下半身を宛がわれたら、それは期待の表情に変わった。
思わず勢いだけで突っ込んでしまいそうになったのは、ほぼ無意識だった。
雄としての本能に突き動かされていたとしか思えない。
頭の中が真っ白になって、気づいたらそうしていた。
挿れる直前で我に返って動きを止めたが、その時にはもう、真白の脚に、腰を絡め取られていた。
「やめないで。挿れて……。チカちゃんの手で、オレを『大人』にしてよ」
おそろしい誘い文句に、理性がまた飛びそうになる。
しかし千夏はいったん呼吸を整え、真白の頬を撫でた。
「服、脱ぐから、ちょっと待ってろ」
「うん……」
よく考えたら、コンドームをつけていなかった。あぶない。
準備している間、真白はおとなしく待っていたが、キラキラとした眼差しにじっと見つめられていた千夏は落ち着かなかった。
「……ゆっくりするから、痛かったら言え」
「う、うん……」
もうここまできたら引き返すことはできなかったが、せめて優しくしてやりたかった。
「途中でやっぱり嫌になったら、殴っても噛みついてもかまわない」
「そんなことしないよ。痛かったらちゃんと言うから、その時は頭を撫で撫でして」
「……しょうがねぇな」
いつも予測不能で。手がかかって。甘ったれで。無邪気にこの心を掻き乱してくる、厄介なやつ。それでもどうしようもなく、こいつの存在に惹かれていた。
抱いたからって自分のものにはできないだろうけど、こいつにはじめての感覚を味わわせてやるなら自分がいい、と意地を張るように思う。
真白の腰を抱え直す。
どう考えてもセックスの体勢で、全裸でベッドの上で絡み合っている。改めて考えると『なぜこんなことに』という感じだった。
「チカちゃん、キスして」
細い両腕が伸ばされてくる。
今さら拒むなんてできなかった。
優しくキスをして、舌を絡めながら、腰を押しつけた。
最初はうまく入らなかった。
不器用に腰を押しつけ合って、なんとか繋がり合う。
「は……ふぁ、ぁ……んっ……」
ローションのおかげで、中はぬるぬるしていた。
けっこうしっかりほぐしたはずなのに、思ったよりもキツい。食い殺されそうだ。
「ましろ……もうちょっと力ぬけるか……?」
「ごめん……まって……なんとかするから、やめないで……」
涙目で懇願される。真白もだいぶ必死の様子だ。
もっと深く繋がりたいという気持ちと同じぐらい、緊張しているのが伝わってきた。
「頭ン中で、歌でもうたってろよ」
「うた……?」
「おまえ、舞台では一切緊張しないくせに、なにオレ相手にガチガチに緊張してんだよ。バカだな」
笑いかけると、真白はぽかんとしたあと、ふふっと表情をゆるめた。
「……そうだね」
桜色に色づいたかたちのいい唇が、苦しげな吐息ではなく、心地のよいリズムを刻みだす。
声はほとんど出ていなかったが、千夏には、真白の頭の中でどんなメロディが鳴り響いているのかがわかった。
初舞台の時の、初登場時の曲。
千夏の心を焼き、いまだに脳にこびりついて離れない、強烈な感動を与えてきた歌だ。
途中で乱れた吐息がまじるから、舞台の上みたいな綺麗な一曲にはならない。
それでも、空気を震わせてわずかに伝わってくるメロディは心地よく、千夏は目を細めた。
――こいつのすべてが、オレのものになればいいのに。
そんなわがままな願いが明確な意志を持ちそうになるのを、肉欲でごまかして、腰を振った。
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