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《第5話》愛しのカレイドスコープ③

 目が覚めたら、隣でくっついて寝ていたはずの真白の頭が、ベッドから半分落ちかけていた。 「ん……」  そのまま体ごと床に落ちそうになっているのに気づいて、慌てて腕を伸ばす。  ギリギリのところでキャッチに成功した。 「ん……チカちゃん、なに……?」  抱き寄せると、真白はむにゃむにゃしながらそう言ったが、寝ぼけていただけらしく、またすぐに寝息をたてはじめた。  時計を見ればまだ朝の五時だったので、仕方ないだろう。    春ぐらいの時期は朝までくっついて寝ていたが、最近、気温が上がってきたせいか、真白の寝相が悪くなってきた。  もともと一人暮らしで使っていたベッドなので、セミダブルで、大人の男二人が寝るには狭いのだ。  そろそろベッドを買いにいくべきかもしれない。  少々暑いぐらいの気温のせいかどうかはわからないが、久々にいかがわしい夢なんて見てしまった。  よりにもよって、はじめて真白を抱いた時の夢だ。 (……あの時、オレのことが好きだったから『抱いてほしい』なんて言ってきたんだよな……?)  そういう目線で改めて思い返すと、自分の言動がいろいろひどすぎて、頭が痛くなってくる。  二度寝しようにも、眠気はどこかにいってしまった。  自分はそんなに鈍感なやつだっただろうか。  いや、それもあるかもしれないが、真白が本心を隠すのも相当上手かったのは間違いないだろう。  あれは演技だと、もっと早くに気づくべきだったのに、ギリギリのところで煙に巻かれてしまっていた。 (最初から、『好きだから抱いてほしい』と言われてれば、オレだって……)  すんなりと両想いになることはできなかっただろうが、もう少し誠実な対応ができたはずだ。  とはいえ、今さら真白にそれを言ってもどうしようもないし、真白には真白なりの考えがあったのもちゃんと聞いた。    あの頃よりもいくらか大人びた輪郭になった頬に触れる。  ずいぶんと幸せそうな顔で寝ている。  こっちの方は、いい夢でも見ているのかもしれない。羨ましいことだ。  かわいいな、と思ってふっと千夏の表情も緩む。  整った顔立ちをしていることは、初めて会った時から認識していた。それがいわゆる可愛いと呼ばれる部類のものであることも、ずっとわかっていたつもりだった。  でも、それとは別に、最近は本当に心から『可愛い』と思う瞬間が増えた。  もちろん、真白自身が変わったところもあるが、それだけではない。  ずっと、恋愛対象として見てはいけない相手だと、自分自身に言い聞かせていた。  しかしいま、恋人として見ると、あまりにも可愛い。    視点ひとつで、こんなにも世界がガラリと変わってしまう。  人間とはなんて愚かで不可思議な生き物なんだろう。  いや、オレがバカなだけなのか?  唇を撫でる指がくすぐったかったのか、唐突に、閉ざされていた目蓋がぱちりと開いた。 「なぁに? チカちゃん」  まだ眠そうな声をしているが、今度はちゃんと起きたらしい。 「いや……おまえ、ベッドから落ちかけてたぞ。今日は服じゃなくて、ベッド買いに行くか」  今日の千夏はオフで、一緒に買い物に行く約束をしていた。 「えー、やだぁ。ベッド広くなったら、チカちゃんがくっついて寝てくれなくなっちゃうじゃん」 「寝てる間に離れていったのはおまえの方だろ。オレはそんなにコンパクトな方じゃないし、せめてダブルぐらいのサイズが必要じゃないか? それか、クイーンサイズくらいあった方がゆったりできるか……?」  キングサイズまでは必要ないと思うが、クイーンサイズぐらいならあってもいい。 「そんなに大きいベッドが必要なほど激しいえっちがしたいんだ?」  からかう口調で言われて、千夏は渋い顔になる。 「ちげーよ。おまえが寝ぼけてベッドから落ちないか心配してるんだよ」 「落ちないように、チカちゃんがずっと抱きしめてくれてればいいよ」 「……激しいエッチもしてやるし、寝る時はいつも抱きしめててやるから、それ以上ごちゃごちゃ言わずに、オレに新しいベッドを選ばせろ」  めんどくさくなってきたのでそう言えば、真白は急に黙り込んだかと思うと、俯き気味になって照れている。  まったく。相変わらず、大人びた生意気な口をきくくせに、純情さを隠しきれていない。ちぐはぐで、そこが可愛かった。 「真白」 「ん?」 「おまえのことが好きだから、抱いてもいいか?」  まだ早朝だけど、頭を撫でながら甘やかな声で誘う。 「なに? いきなりそんな改まって……」 「大事なことだろ」  淡い色をした瞳が嬉しそうに千夏を見つめ返してきた。 「うん……オレもチカちゃんのこと好きだから、抱いてほしい」  最初から、千夏からそう言って誘っていればよかったのだ。  そういうルートも、あってもよかったはずだ。  後悔は、数えきれない。  でも、幸運なことに、ひどい間違いを犯しても、いとしい存在はまた戻ってきてくれたので、やり直すことができる。    抱き寄せてキスをすると、ただキスをしただけなのに、真白の顔がこの上なく幸せそうに緩んでいた。  ――こいつは、オレのものだ。

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