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5 ローマの雪(4)

 この家族はエドアルドのせいでそうなることを運命づけられている。ただ、そんな他人の家事情に一介の画家である自分が首を突っ込むつもりはなかった。 「ニューヨークに恋人がいる。俺は女を愛せないんだ」  エドアルドの淡々とした独白が続き、胸が苦しくなった。  これほど恵まれているのに、なぜもっと穏やかな生活を選ばないのだろう。  そう思うのに、この男はなぜか憎めない。致命傷を受けてもどかしく足掻いている野獣を見ているようで同情を覚える。だが、それもまた深入りすべきではない秘すべき感情だった。 「僕には関係のないことです」  ようやく、それだけを口にした。  不意にエドアルドはアンドレアの両腕を掴み、ファサードの壁へと乱暴に押しつける。驚きのあまり瞠目したアンドレアの黒髪が宙を舞う。 「いい態度だな、アンドレア」  自分を押し付ける長身で逞しい体躯と肌に食い込む指の強さに、にわかに恐怖を感じる。  エドアルドの唇がアンドレアの頬に触れる。湿った息がかかり、アンドレアの心臓がドクッと暴れる。 「だがそう冷たく言わなくてもいいだろう。そのうちきみも、俺をモノにしたくなるかもしれないんだから」  からかうように囁いてクッと笑う。それから何事もなかったかのように体を離す。  アンドレアは愕然として男を見上げた。なんて傲慢な男だろう。エドアルドは口角をあげて、意地の悪い嘲笑を浮かべている。 「口説いている場合じゃなかったな…。絵の進捗状況を見に来たのだ。中に、入っても?」  平然と訊く。 「どうぞ。ご勝手に」  顎で示すと、エドアルドはいたずらなまなざしをアンドレアに留めながら、ゆっくりと扉を開ける。  視界からエドアルドが消えると、緊張の解かれたアンドレアは深く吐息した。  呆然と立ち尽くし、たまらなく疲れた気分になって、意味もなく地面を見つめた。

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