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6 光の裏側(2)
警察の捜査がすっかり終わったという知らせを受けて、エドアルドとロレンツォは、ブリオスキが殺されたというローマの外港チヴィタヴェッキアの貨物倉庫に来ていた。
マッシモ・コジモの養子が雇っているはずの用心棒の技量を推測するための調査だ。その用心棒であるプロの殺し屋がブリオスキを撃った可能性が濃厚だった。
警察も引きあげ、倉庫内の下方ではすでに通常業務が行なわれている。列をなした貨物車が音をたてて巨大なコンテナを忙しなく運んでいる。
何人かの作業員も働いているのが見えるが、ここにはまだ犯人が潜んでいる可能性もある。だからロレンツォは始め、エドアルドを伴うことを警戒したのだが、エドアルドは自分の目で現場を確かめたいと無理を言ってついてきたのだった。
「ブリオスキはここに、こちらを頭にして仰向けに倒れていました」
ロレンツォが床の南北へと指を動かす。
「警察内部の者から聞いたので間違いありません」
相変わらずイタリアでは、金を詰めば警官は機密事項でもべらべらとしゃべるようだ。
二人は今、貨物倉庫の二階に壁に沿って作られた柵のある通路にいる。ブリオスキがこの方向に仰向けで倒れていたなら、巨大な空間を隔てた向こうの通路から撃たれたとしか考えられなかった。
「何メートルある?」
目を細めてはるか先の通路を見ながらエドアルドは訊ねた。
「三十か……四十あるかもしれませんな」
「ピストルで額を打ち抜けるか、ワン・ショットで。もしくはライフルでも使ったか?」
「死体の傷跡と残された薬莢 から、使われたのは拳銃だと警察は断定しています」
エドアルドは絶句した。
確かにピストルの飛距離は五十メートルに達するが、かといって三十メートル先の対象者の額を正確に打ち抜くのは神業に近い。
「警察は犯人の目星をつけているのだろうか」
「ブリオスキが今一番の凄腕と言われていた殺し屋でしたから。彼以上の腕前となると、南部では名前が挙がってきません。かといって北部に同等のスナイパーがいるかといえば、それも怪しいところです」
「軍関係者の可能性は?」
「元傭兵や元軍人の線ですか?」
似た経歴を持つロレンツォが淡々と答える。
「まあ、なくはないのでしょうが、今のところそちらの目処はたっていないようです。さあ、もう引き上げましょう、エドアルド様。我々も狙われていないか冷汗ものです」
二人は現場を後にし、一階に降りて外へ出た。
城から乗ってきた目立たない黒のセダンの後部座席にエドアルドは乗り込んだ。これに乗ってしまえば防弾ガラスで守られる。
ロレンツォがエンジンをかけながら話題を変えた。
「ところで今朝、ルカが持ってき話ですが」
ロレンツォがハンドルを切ると車は埠頭を勢いよく走り出した。
「午後、エドアルド様に面会のアポをとっているトニー・プローディーというジャーナリストですが、サンティと旧知の仲です」
「そうなのか?」
思いもよらなかった情報に驚き、エドアルドはフロントミラー越しにロレンツォの顔を見た。ずいぶん深刻そうな顔をしている。
「ジャーナリストと絵描きがどうして知り合いなのだ。インタビューでも受けたのか?」
公道に出ると、セダンはいっそう軽快にスピードをあげる。
「プローディーは医療ジャーナリストですので、画家にインタビューはしません。彼は元医師なんです。数年前まで、トリノの個人病院に勤務しておりました。近くにはサンティの工房が。それでサンティも世話になったようです」
「なるほど、世間は狭いな」
「しかも、これは少々、申しあげにくいことなのですが――――」
ハンドルを器用に操りながら、ロレンツォが意味深長に言葉を切る。
「なんだ」
「諜報部の者達が、調べたことです」
「うん」
「まったく、勝手にいろいろと調べる奴らでして。まあ、だからこそ、役立つ情報も入ってくるのですが」
「だから、なんだと言っているのだ」
ロレンツォにしては珍しく煮え切らない様子に、エドアルドはいらいらして言い返した。
「ですので、少々申しあげにくいことなのです。なにしろ、現在、仕事を依頼している相手のことですから」
「そんなに言いにくいことなら、言わなくてもいいんだぞ」
「ああ。それがよろしいかもしれません」
ハンドルを切ってハイウェイに乗る。
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