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6 光の裏側(5)
「お気持ちはお察しますが、下手に動くと蜂の巣になってコンクリート詰めの上、ローマ港に沈められることになりますよ。なにしろ、相手は大マフィアですからね」
「あなたは、私に協力してくださいますか?」
大きな目を向けて気迫のこもった声で訊く。実際、彼は、この一言を言うためにここへ来たのだろうと思われた。
エドアルドは微笑を投げかけた。
「調査くらいは手をお貸ししてもいいです。あくまで我々のやり方で、ですが。とにかく、こういうことは焦らないに限ります」
「しかし、今このときも、待ったなしで苦しんでいる患者がいるのです…!」
プローディーがエスプレッソを一気に流し込む。そうとう入れこんでいるのだろう。
その情熱にさらなる火を注がないよう、エドアルドは静かに訊ねた。
「あなたは今、どこにご滞在に?」
「ホテル『渡り鳥』 に」
オステアの中心街の外れにある、安ホテルだった。
「でしたら、今夜からこの城に滞在なされるのがよろしいでしょう」
突然のエドアルドの申し出に、ぽかんと口を開けたプローディーが、目を見開く。
「私としては、あなたがみすみす蜂の巣になるのを見過ごすわけにはいきません。いいですか、彼らを侮ってはなりません。彼らにとってあなた一人をこの世から抹殺するなど造作もない。自覚があるのか知りませんが、あなたは虎の巣に単身で乗り込んでいくような危険を冒しています。今日、私に会いに来られたのは幸運でしたな。そうでなければ、おそらく近いうちにあなたは殺されていたでしょうから。我々ジブリオ家は今日よりあなたを保護します。この城は、警備が固い。ここを拠点として取材なり調査なりをなされるのが良いでしょう。ロレンツォ、部屋を用意して差しあげるように」
「は」
素早く一礼してロレンツォが退出する。
「ほ…ほんとうですか? ありがとう! なんてことだ…。ありがとうございます、ジブリオ殿――――! まさか、こんなふうにしてくださるとは――――」
プローディーはようやく声が出せているという風体で、「信じられない」と呟きながらそわそわしだしている。
「ところで、プローディーさん。今度は私からあなたに少々、伺いたいことがあるのですが」
少しばかり冷めてしまったカップを口に運びながら、エドアルドは水を向けた。
興奮冷めやらぬプローディーにはほとんど聞き取れないらしい。エドアルドが話題を変えたことにも気づかぬ様子で、嬉しそうな視線をむやみやたらと応接テーブルの上で徘徊させている。
エドアルドはかまわず続けた。
「あなたはかつて、トリノ近郊で医師をされていましたね」
コーヒーは半分ほどにし、代わりに太いシガーをテーブルのストックから取り出して、エドアルドは歯に挟んだ。
鷹揚に火を付ける。
まるでマフィアのボスのような仕草に、ようやくプローディーの興味がエドアルドへと戻った。
「はい? ああ、ええ、そうです、私は以前、医師をしておりました」
「やはり、そうでしたか。実は、そこでお知りあいになられたはずのセニョール・サンティが今、私どものところにおられます」
「――え…?」
さすがにこの偶然には驚愕したのか、遠い記憶を辿るような顔をしてプローディーが黙り込む。
「画家のアンドレア・サンティです。ご存知でしょう」
「あ――――ええ!」
プローディーが叫ぶ。
「ええ、知っていますよ。アンドレアか! 彼がここにいるのですか、なんとも、奇遇だ」
「正確には、隣地の教会堂に、ですが。我々が彼に壁画製作を依頼しておりまして、しばらく滞在しておられるのです」
「壁画を。すばらしい! 彼は、元気ですか」
「はい。といっても作業場にこもりきりで、こちらもそうしょっちゅう会えるというわけにはいきませんが」
プローディーが屈託なく相好を崩す。
「そうでしょう。昔から仕事熱心な子でしたかね」
「昔というと――――どのくらい前からのお知り合いですか」
「そうですね、私がトリノに行ったのが三十のときでしたから、もう八年になりますか」
「ということは、彼が十五歳くらいの頃に?」
「まあ、そんなものでしょう」
人懐こい笑顔のまま答える。その表情に、この人物に二心などないのだろうなとエドアルドは直感した。
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