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6 光の裏側(6)

「それで少々、デリケートな話になるのですが」  エドアルドがシガーを勧めると、プローディーが手で断る。 「なんでしょうか?」 「我々はサンティについて、ある情報を耳にしておりまして、その正誤を確かめたいのです。我々も組織の性質上、後ろ暗い人物を城内に留めたくはないので」 「どういう意味でしょうか」  エドアルドの不穏な表現に、プローディーが不安そうに眉をひそめる。エドアルドは事務的に説明した。 「工房に住んでいた時代、アンドレア・サンティは複数の男達と――――まあ、率直に表現すれば、性的な関係にあって、時々、失神してはあなたの勤める病院に運び込まれた、という噂です。あなたは彼を治療したのでしょう? 彼は、何人を相手に? そもそも、相手は誰だったのですか? 町の少年達? それとも、工房の仲間? 彼には、男どもを(たら)しこむような性癖でもあるのでしょうか。…とにかく、この城の中で似たようなことをされては困るので。何しろ、あの見た目ですからな。この城には、ああいう顔立ちの人間に弱い好色な男が多いのです」  エドアルドがわざと悪辣に話すと、プローディーの顔から血の気が失せ、驚きなのか怒りなのか、ついさっきまでの笑顔がすっかりなりをひそめる。 「そんな話が、なぜあなたの耳に――――」  返答の声も掠れていた。  狼狽しているプローディーに、エドアルドは天井へと煙を吐きながら言い放った。 「先程あなたがおっしゃったのです、我々の情報網は〝すごい〟と。私が指示するまでもなく、この組織の者達は勝手に調べあげるのです。何事にも抜かりなく、隙がないようにね」 「まるでマフィアですね」  眉を顰めるプローディーは、このような組織の在り方に反感を抱いたようだ。 「マフィア以上です。誤解しないでいただきたいが我々はマフィアではありません。似たような性質は持っていますが反社会的な活動は一切しておりませんので、ご安心を。ところで、質問にまだ答えていただいておりませんよ、プローディーさん」  プローディーは、頬をぴしゃりとはたかれたような顔になって、奮然と声をあげた。 「ジブリオ殿…! 確かに、先程のあなたからのご厚意には、深く感謝いたします。心から、お礼を申しあげます。しかしアンドレアについては何も申しあげることはできませんよ。患者のプライバシーを遵守することは医師として最低限の務めです。しかも、もう何年も経っているのに――――彼の尊厳を傷つけるようなことを、私が勝手にお教えするわけがないでしょう」 「なるほど。ならば本人に聞くよりほかありませんな」  エドアルドの素っ気ない返答に返答にプローディーがぐっと喉を鳴らしたのが分かった。  エドアルドはわざと困ったふりをして眉尻をさげた。 「ねえ、プローディーさん。我々は何も、彼を詰問するためにあなたに証言して欲しいと言っているわけではないのです。先程も申しましたが、後ろ暗い人物をこの城の近くにおいておくわけにはいかないからです。我々を狙う敵は思いのほか多くてね。また、どんな手を使ってくるか分からない。特に美しい外見を武器にスパイまがいな活動をしている者は、この世にごまんといますから。まあ、あなたが偶然にも今日現れなければ、私は彼に直接問いただしただろうし、私としてはそれでもいっこうにかまわないのですが。――――ただ、私も考えたのですよ。もし当時のアンドレア・サンティがただの被害者だったとしたら……だとしたら、何も無実の彼にそんな話をさせて、嫌な記憶を思い出させなくても良いだろう、と。あなたから実情を聞いてしまえばそれで事は足りるし、彼に嫌な思い出を語らせる必要もなくなるだろう、とね。いったい彼は、潔白なのか、それとも何か後ろ暗い意思をもって男達を|拐《かどわ》かすような人物なのか、それだけが知りたいのです」 「――――ジブリオ殿…」  茶色みがかった双瞳に深い失望の色を湛えて、プローディーは大きく溜め息をつく。エドアルドはじっくりとその様子を見守った。 「彼がそんな人間に見えますか…? 彼が、スパイだなんて――――」  心底、悲しんでいる顔をする。演技ではなく、本気で心を痛めていることが分かる。  プローディーが観念したかのように語り始める。 「ならば、あなたにだけはお話します。口外はなさらないでください、絶対に。アンドレアは、まったくの無実です! 彼は徹頭徹尾、被害者でした。それは酷いものでしたよ、病院に運ばれてくるときの彼は。私は、彼がいつ死んでもおかしくないと思っていました。青ざめた彼の胸に聴診器をあてて心音を聞くたびにほっとしたものです。あれだけの酷いことを自分からしてくれなんて人間は、そういませんよ」

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