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第5話

 一週間。  たかが一週間だが、とてつもなく長い期間に感じられた。  桜下に考えて欲しいと言った翌日から、家に帰り、真っ暗な部屋を見る度に寂しかった。  自分から言い出しておいて後悔した。  志野原晃の言う通り、気にしなければ良かっただろうか?  桜下が誠実な分、自分も誠実であろうなどと余計な事を思わなければ良かっただろうか?  一週間後の十二月二十四日に桜下が家で待っていてくなかったら……。  不安で胸が苦しくなった。  桜下の気持ちにあぐらをかいていれば、こんな不安に苛まれる事はなかったのにと、ズルイ自分が見え隠れする。  仕事中、仕事に関係有る必要最低限の会話しかしない状態に桜下がまいっている様子はない。  何時もどおりの笑顔、立ち振る舞い。  まいっているのは俺の方だった。  平静を装い、桜下の事など関係無いと言う様に、振舞えば振舞うほど、凡ミスを連発した。  桜下に気付かれないように必死になっている所為か、何時もと変わらない仕事量なのに酷く疲れた。  疲れた身体を引き摺って帰り、真っ暗な部屋を見る度に惨めな気持ちになった。  こんなにも桜下は俺の中で大きい存在になっていたのかと、思い知らされる。  バカな申し出をしなければよかったと、後悔している。  今からでも泣いて縋ってしまおうなどと、情けない事を考えている。  何もかも桜下に与えて、傍にいてもらおうかなどと考えている。  なんて、自己中心的で、我儘で、強欲なんだろう。  情けなくて、寂しがりで、惨めなんだろう。  情けない自分を、志野原晃に電話で告白すると、彼は何時ものからかうような口調で言った。  本当の先生を知って去るようなら、遅かれ早かれ別れるものだよ。そんな器の小さい人間なんかととっとと別れられて良いんじゃない?――と……。  明日、本当に桜下が部屋で待っていてくれなかったら……。  俺はどうなるんだろう?  そう、志野原晃に弱音を吐くとそんなに寂しいなら僕が慰めてあげようか?――と、やはりからかうように言った。  電話の向こうで、薄く笑っている顔が想像出来る。  彼が、どんな気持ちでそんな事を言っているのかは分からない。  ただ、俺をからかっているだけかも知れないが、それでも彼に何かを言って貰えるだけで心が軽くなるような気がした。  全ては明日……。  祈るような気持ちで待った。

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