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叶わぬ逢瀬
「雪菜 !」
病院の廊下で、僕を呼ぶ声。
あまりに似ているその声に、いつも淡い期待を抱く自分にも、嫌悪を抱く自分にも、もう飽きた。…何にも思わない。
「声…」
「ごめん! 雪菜の背中見えたから」
急いで僕に駆け寄るその大きな体の持ち主は、『君』の弟。
いい加減、本当に失礼だ。『君』は、僕の事、そう呼ばない。
…そろそろ、どうにかしないと。なんて、同じことを毎年、それも7年も思っている訳だけど、どうにもならない。
どうにも、できない。
「雪菜ってば」
「……ごめん、何」
「話。ちょっと」
連れてこられたのは病院の屋上。
話の内容は、分かってる。……毎年、同じ話を、同じ日にしているから。
「雪菜。もう、分かると思うけど、さ。……兄貴の、こと」
兄貴。この人のいう兄貴とは、かつて僕が愛した人……奥村春成 のこと。
「うん」
「えっ……と」
こいつ、弟の路 には辛い役をさせている。……7年も。
毎年、毎年、毎年。こんな辛い事を、辛い事実を、そんな辛い表情をさせながら。
暫くの、静寂。
冬の乾いた冷たい風が僕たち2人の間を駆ける。
「……もう7年、だな」
「…うん」
「俺、さ…22になった」
「そう……」
「…まだ、続ける?」
その問いと同時に、一層強風が吹き抜ける。
春成は、まだ眠っている。
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