2 / 6

叶わぬ逢瀬

雪菜(ゆきな)!」 病院の廊下で、僕を呼ぶ声。 あまりに似ているその声に、いつも淡い期待を抱く自分にも、嫌悪を抱く自分にも、もう飽きた。…何にも思わない。 「声…」 「ごめん! 雪菜の背中見えたから」 急いで僕に駆け寄るその大きな体の持ち主は、『君』の弟。 いい加減、本当に失礼だ。『君』は、僕の事、そう呼ばない。 …そろそろ、どうにかしないと。なんて、同じことを毎年、それも7年も思っている訳だけど、どうにもならない。 どうにも、できない。 「雪菜ってば」 「……ごめん、何」 「話。ちょっと」 連れてこられたのは病院の屋上。 話の内容は、分かってる。……毎年、同じ話を、同じ日にしているから。 「雪菜。もう、分かると思うけど、さ。……兄貴の、こと」 兄貴。この人のいう兄貴とは、かつて僕が愛した人……奥村春成(おくむら はるなり)のこと。 「うん」 「えっ……と」 こいつ、弟の(みち)には辛い役をさせている。……7年も。 毎年、毎年、毎年。こんな辛い事を、辛い事実を、そんな辛い表情をさせながら。 暫くの、静寂。 冬の乾いた冷たい風が僕たち2人の間を駆ける。 「……もう7年、だな」 「…うん」 「俺、さ…22になった」 「そう……」 「…まだ、続ける?」 その問いと同時に、一層強風が吹き抜ける。 春成は、まだ眠っている。

ともだちにシェアしよう!