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忘却の言刃

「トラックとの衝突時、後頭部を強打しています。検査結果を見る限り血腫などは見られません…」 しかし、と医師は続けた。 「場所が場所です。今はああして眠っていますが打ち所が悪かったら即死だったでしょう。しかも意識回復後の後遺症がないとも言い切れません。辛い事を言うようですが、このまま目を覚まさない…ということも考えられます」 覚悟は、しておいて下さいと言って医師の話は終わった。 覚悟…あえて医師が言わなかったその先に、ゾクリとした。 翌日、春成は目を覚まさなかった。 翌週、春成は眠り続けたまま。 1ヶ月、ピクリとも瞼を動かさない。 半年、ただひたすらに眠る春成。 「兄貴………何で…っ!!」 1年、……まだ、目を覚まさない。 1ヶ月が経過した辺りから、仲が最悪で、留学中だったと言う弟の路が病院に通い始めた。 …同時に、僕らの関係も彼にバレた。 路曰く、「いくら友達でもここまで健気に毎日通う奴はいない」んだそう。 幾晩を越えようとも、機械的に鳴り続ける心電図。これが止まらず、ずっと鳴り続けている事実だけが、僕の救い。 でも、心電図は何も言ってくれない。 例え春成に繋がっていても、彼の声が聞けるわけじゃない。 もうずっと聞いていない、あの優しい声で語りかけてはくれない。 彼の声を代弁してくれるわけじゃない。 春成を、還してくれるわけじゃない。 時はあっというまに過ぎる。 春成が事故に遭って3度目のあの夜がやってきていた。 あっという間。春成のいない毎日が、こんなにも早く感じるなんて。 いつかきっと、必ず…春成は目を覚ます。 それをただひたすらに信じて、それにすがって毎日を生きた。 彼の友人が、僕の友人が、慰めてくれた。 何も耳に入らなかった。 「そんな落ち込むなって」 「いつか絶対、目を覚ますはず」 「だから……………な?」 いつかっていつだ。 世の中に絶対はない。 目を覚ます保証は、いつか目を覚ますって、誰が言ったの。 心は、日に日に荒んでいった。 心に空いた穴が、大きくなっていった。 「好きだ」 僕の事を、そう言ってくれた彼は、今どこにいるの。 「……して…っ……! 還して………っ!! 春成を…っ、還してよぉっっ…!」 誰か、僕を…助けて。

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