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第六話 台風(♡)
「すげぇ風だな」
いつの間に部屋に戻っていたのか、タオルで頭を拭きながら、哲司が言った。
「今夜がピークだろ」
「明日は晴れんの」
「さぁな」
伊依はベッドに腰を下ろし、ラジオを消した。雨音が、一層強く響いてくる。
「お前は大浴場じゃなくてよかったの。結構広くてよかったぜ」
「混んでそうだから」
「まぁなぁ。子供とか多かったよ。この雨じゃ海も入れねぇし、室内プールと温泉だけが楽しみだもんな」
哲司は、伊依の隣に腰を下ろす。ベッドが沈む。ぴんと真っ直ぐに張られたシーツに皺が寄る。
明日晴れたら。船が出たら。もう何もかもがおしまいだな。そう言おうと思って、伊依は黙ったまま、哲司の肩にもたれた。
「電気消すか?」
「いい。このまま」
腰に哲司の手が回る。優しく体に触れられる。その手はやがて、性的なにおいを帯び始める。息をするようにキスされた。
唇が、触れては離れ、離れては触れる。やがて、柔らかな舌が唇に触れる。そっと唇を撫でてから、舌先が入ってきた。
伊依は僅かに口を開けた。入ってきた舌を迎えて、伊依も舌を伸ばす。舌先を軽く触れ合わせてから、舌と舌を擦り合わせる。徐々に深く、互いの中に入っていく。
舌と舌を絡め合わせる。分泌された唾液が、互いの口内を行き来する。哲司の口内は、やはり病みつきになる甘さで、伊依は夢中で舌を伸ばし、溢れた唾液を喉を鳴らして飲み干した。
背中がベッドに沈んだ。薄く目を開ければ、哲司の顔が至近距離で目に入った。睫毛の本数が数えられるほどの近さだった。どこから見てもいい男だと思った。興奮を抑え込むように閉じられた瞳も、寄せられた眉も、鼻の形も、これ以上なく美しいと思った。
「ぅあ、ちょっと」
伊依が哲司の腰に足を回して抱き寄せると、哲司は素っ頓狂な声を上げた。伊依が鼻で笑うと、困ったような顔で見下ろしてきた。
「やめろよ、ダセェじゃん」
「はは、こっちはいつまでも若いな」
「他ンとこもまだまだ若いでしょうが」
キスだけでガチガチに硬くなったペニスを、哲司はふざけて押し付けてくる。太腿を擦られる感触がくすぐったくて、伊依は声を漏らして笑った。伊依が笑うと、哲司は調子に乗って腰を揺らす。
初めは笑っていた伊依だが、性行為を思わせる動きで性器を擦られると、そんな余裕もなくなった。自然と腰が動いて、ペニスを擦り付けてしまう。
「ッ、おい。やめろ、勃つ」
「もう勃ってんだろ。俺だけ恥ずかしいのはやだからな」
「だったら、服、脱がせろ。汚れる」
ゆったりとした館内着のズボンを脱がされた。勃起したものが下着を押し上げ、恥ずかしい染みを作っていた。哲司が意地の悪い顔で笑うので、伊依は怒って体を捻った。
哲司の指が、下着のウエストにかけられる。伊依が腰を浮かすと、ゆっくりと下着を下ろされた。足首から布が引き抜かれ、緩く開いた足の間に、哲司が体を置く。
太腿に手を添えられ、ゆっくりと足を開かされる。男らしく骨張った手が、太腿から鼠径部へと這い上がり、秘所に触れた。難なく指先が沈み込む。お前のここはいつも綺麗だな、と哲司が笑うので、伊依はこれでもかと渋い顔をした。
「そんな台詞は女にでも言ってやれ。喜ばれるぞ」
「今更女の子に勃たねぇよ。お前としか経験ねぇもん」
「惜しいもんだな。こんなにいい男なのに」
「俺はお前がいいの。分かってるくせに、恥ずかしいこと言わせんなよ」
つぷつぷと浅く抜き差しを繰り返される。勃起した伊依のそこに、哲司が顔を近づける。しなくていいと言うのに、あっさりと咥えられた。逃げようとする腰をしっかりと抱かれて、舌と唇で高められた。
何度も空中を蹴り上げて、いよいよ極まろうというところで、呆気なく手を引かれた。どうしてイかせてくれないのかと縋り付きそうになると、哲司はまたあの意地の悪い笑みを浮かべて、イかせてほしかった?などと聞いてくる。
それだけで、軽く達した。透明な粘液がとろとろと溢れて、性器を濡らした。今すぐにでもイかせてほしくて、みっともなく腰が揺れた。
哲司が館内着を脱ぎ捨てる。そそり立つものが下着からはみ出していた。薄い布地に、その形がくっきりと浮かんでいた。今からあれを挿れられるのだと思うと、たまらない気持ちになった。
立ったついでに、照明が落とされた。ベッド脇のライトだけが、淡い光を放っている。
ゴムはどこだっけと言って、哲司は枕元を探す。カバンの中に入ったままだということを、伊依は知っている。いいからそのままで挿れてくれと、半端に下がった下着を引っ張ってねだった。
本当にいいのかと確認される。二人の影が一つに重なる。ペニスの先が蕾に触れて、腹の奥が期待に疼いた。
腰を抱かれ、挿れられた。きつく締まった隘路を拓かれ、空洞を満たされる。この感覚は、いつも新鮮だった。新鮮な快感に、体を貫かれる。しばらく戻ってこられなくなる。
伊依が落ち着くのを待ってから、哲司はゆっくりと腰を動かし始める。初めは馴染ませるような動きだったのが、徐々に自らの快楽を追い求めるように激しくなる。
激しく揺さぶられ、突き上げられながら、伊依は精を漏らして果てた。そして、腹の奥に熱いものが迸るのを感じた。伊依をきつく抱きしめながら、哲司は腰を震わせていた。
「なか……」
「ん……出ちまった」
「……いい、もっと……」
繋がったままで、伊依は体を起こす。哲司は伊依を抱きながら、体を後ろに倒した。騎乗位で繋がって、今度は伊依が腰を振った。
伊依が腰をバウンドさせる度、マットレスがギシギシ沈む。髪を振り乱し、腰をうねらせながら哲司を見下ろすと、熱い視線と目が合った。恥ずかしいところ全てが、彼の視界に収まっている。そう思うと、どうしようもなく体が熱くなった。思い切り腰を振り立てた。
気持ちいい?と哲司が言う。伊依は悔しくなって、唇を噛みながら頷いた。腰が止められなくなっていた。
太腿に触れていた哲司の両手が、腰から胸へと這い上がる。着ていた服を捲り上げられ、胸のボタンを外されて、露わになった胸の尖りを捏ねられた。触られると、なんだか余計に切なくなる。自ら胸を反らせて、固くなった乳首を擦り付けた。
「あ、あ、そこ、それ」
「気持ちい? すげぇ勃ってる」
「あ、う、や」
「こっちも触る? ガマン汁でびしょびしょだぜ」
「や、や、ああ」
濡れそぼったペニスを握られ、扱かれた。絶頂が迫っているのを肌で感じた。たまらずに腰を打ち付けて、最奥を激しく穿った。絶頂の兆しがはっきりと表れる。もう後戻りはできない。
「も、だめ、いく、いくっ────」
絶頂が駆け上がった。電流が走ったように全身が痺れる。ビクビクと激しく腰を跳ねさせながら、伊依はぐったりと哲司の胸にもたれた。己の呼吸と彼の鼓動とを聞いて目を瞑る。
と、いきなり突き上げられた。あっと悲鳴が漏れた。一番敏感な状態の体を、容赦なく責め立てられる。もうこれ以上感じたくないのに、無理な快感に襲われる。いやいやと哲司に縋り付いて泣くと、腰を掴む手に力が入った。
「や、も、またいっ、いく──」
「っ、俺も……」
甘く低い声が耳元を掠める。熱いものが放たれて、体内を満たした。その熱に、また浮かされる。体の奥が甘く疼く。
どちらからともなく唇を重ね、舌を吸った。唾液を混ぜ合い、深い角度で舌を絡める。
キスで感じて、腰が震える。体内に収まったままの哲司の熱をはっきりと感じる。締め付けると、その形まではっきりと分かる。ゆっくりと硬度を取り戻している。
「なぁ、もっと……」
羞恥などなくなっていた。ただこの男が欲しかった。伊依が緩く腰をくねらせると、哲司は熱い息を漏らした。
さすがにそう連続で勃たせるのは無理だというので、しゃぶってやった。とても口に入りそうにないそれを、精一杯口を開いて頬張った。
絡み付いた精液を舐め取って、裏筋から鈴口へと舌を這わせる。ぬめりのある液体が溢れてくる。この男の体液は、どこもかしこも仄かに甘い。
口を窄めて吸い上げると、情けない声が頭上から降ってくる。目線だけで上を見ると、視線が絡んだ。快楽を堪えたような顰め面が好きだと思う。
喉を開いて、深くペニスを受け入れる。伊依の髪を掴んだ哲司の手に力が入る。引っ張られて痛いくらいなのが好みだった。余裕をなくしているのが分かる。もっと夢中になってほしかった。
「あ、ちょ、マジで出ちゃうからっ」
引き剥がそうとして乱暴に引っ張られるのも好きだった。このまま口に出してもらっても構わない。繋いだ手をきつく握りしめる。喉の奥で、ペニスの脈動しているのが伝わる。
もう少しで出そうだったのに、引き抜かれた。哲司は冷や汗を浮かべて、危なかったと漏らしている。ちょっと出たとも。舌の上にほんのりと苦みが広がっていた。これも彼の味だった。
無理やりに引き抜かれる時、亀頭が上顎を擦った。その快感に、ちょっと出たのは伊依の方だった。甘い快楽が、腰の辺りに揺蕩っている。
また騎乗位でまたがろうとすると、哲司は慌てたように待ってと言う。次はバックがいいと言うので、伊依は四つ這いになり、哲司に尻を向けた。
もう早く挿れてほしい。自然と腰が反り、はしたなく揺らめいた。早く、早く。期待だけで濡れている。しかし、哲司はやたらと緩慢な動きで、伊依の尻を掴む。骨董品を観察するみたいに、尻を優しく撫でられる。
不意に指先が蕾に触れて、思わぬ刺激に腰が跳ねた。すりすりと表面だけを撫でられる。期待にそこが疼いていることを知られてしまった。体が火をつけたように熱くなる。もっと奥に入ってほしくて、擦り付けるように腰が揺れるのを止められない。
「あ、も、はやく」
「ほしいの」
「ほし、い、もっと」
「なにがほしい?」
一瞬答えに詰まると、つぷりと指を入れられた。体内を浅く引っ掻かれる。たまらなくなり、伊依はいやいやと首を振る。
「や、や、それ」
「これがいい?」
「ちが、あ、やだ、やっ」
「俺が出したので中すげぇことになってるけど。一回掻き出しとく?」
「や、ちが、もっと」
「もっと、なに?」
お前がほしいと言わされた。お前のその太いので、体の奥までいっぱいにして。めちゃくちゃにして、壊してくれと言わされた。いや、後半は伊依が勝手に口走ったのだ。訳が分からなくなるくらい、めちゃくちゃに愛してほしかった。
後背位で貫かれた。ペニスを挿れられる瞬間、自分は元の自分ではなくなる。隘路を拓かれ、空っぽの器が満たされる時。喜びと、微かな痛みが胸を貫く。
おれは今、独りじゃない。大切な人と、二人で一つになっている。そのことが、感覚として分かる。もう二度と、孤独になることはないのだ。これでもう寂しくないと、感覚で理解する。
同時に、かつての自分がどれほど孤独だったか思い知る。たった一人で、涙も知らずに生きていたあの頃。
もう何も怖くはない。痛みを分かち合い、空白を埋めてくれる相手がいる。魂の片割れとでもいうべき相手。失えばきっと生きていけない。孤独にはもう戻れない。一度知ってしまった温もりを、手放すことなどできはしない。
かろうじて肩に引っかかっていた服を、剥ぎ取るように脱がされた。これでもう、肌を隠すものはない。二人の間を隔てるものは何もない。
皺だらけのシーツを掻いていた両手を絡め取られた。後ろに引かれて、上体を起こされる。自重で挿入が深くなる。下腹の苦しいのが嬉しかった。
肩と腰を掴まれて、下から思い切り突き上げられた。バックはバックでも、立ちバックに近い感覚だった。衝撃で跳ねる体を力任せに押さえ付けられて、最奥を抉られた。
膝立ちでいるのが辛く、しかし体を前に倒すこともできない。哲司に体を預けると、一層きつく抱きすくめられ、激しく突かれた。
唇を濡らすのは、意味をなさない音の羅列だ。体液にまみれた肌のぶつかる湿った音と、体内に放たれた精液を掻き混ぜる粘着いた音が響いて、聴覚からも犯された。自分が今どれほど激しく愛されているか、音で理解させられる。
既に何度か果てている。ベッドに敷いたバスタオルに、白や透明の汁が散っている。あれらは全て伊依が放ったものだ。己の快楽の証を見せつけられる。羞恥心が込み上げて、また軽く達した。
三度目の迸りを受け止めた。絶頂の悦びと余韻で、痙攣が止まらなかった。哲司がベッドに寝かせてくれた。柔らかなベッドに沈み、伊依は目を瞑った。空洞を満たした哲司の熱と、己の熱とが溶け合うのを感じた。
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