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第二話 逢瀬(♡)
街灯などあるはずもない道を、一本きりの懐中電灯を頼りに走った。伊依の手を引き、気持ちばかりが前へと急いた。だが、思うように体は前へと進まない。宿へ帰り着く頃には、息切れを起こしていた。
それでも、お互い息を切らしながら、広げた布団に飛び込んだ。縺れ合うようにしながら、布団の上で体を重ねる。舌を絡ませながら、手早く服を脱ぎ捨てていく。
互いの性器を擦り合わせる。性感を煽られる。鼓動はどんどん早くなる。
伊依の体の中心に触れると、既にじっとりと濡れていた。浅く指を入れて中を擦った。
伊依は自ら足を開いた。人差し指と中指を使い、穴の奥を見せつけるように押し広げた。早く早くと、急かすように腰が揺らめく。
用意していたコンドームを手に取った。手が震えて封が切れなかった。貸せと伊依が言うので渡すと、部屋の隅へと放り投げられた。
いいからそのまま挿れろと。余裕なく腰がカクつく。哲司を迎え入れるように開いた足が、腰に絡む。哲司は、一旦姿勢を直してから、伊依の腰を抱き寄せた。
「あっ……はあっ……」
吐息まじりの喘ぎが漏れた。熱く蕩けた伊依の中が、哲司を包み込んでくれた。寸分の隙もなく、ぴったりと密着する。ああ、今確かに一つになっているのだと実感する。胸に熱いものが込み上げた。
「な、ぁ」
伊依が身を捩じらせた。伸ばされた手を、哲司は握る。
「どう、だよ。おれのからだ」
「気持ちいいよ」
「ほんとうか」
「うん。昔と全然変わんない」
三十代も半ばを過ぎ、アラフォーと呼べる年齢に突入したが、十代のあの頃と変わらず、伊依を抱きたいと思う。十五年間抱き続け、その後七年近くは触れることも叶わなかったこの体に、昔と変わらず欲情する。気持ちだけは若返る。
「……哲司」
「なーに」
繋いだ両手を、哲司は指を絡めて握りしめる。伊依は、どこかもどかしそうに腰を動かした。くちゅ、と控えめな水音が響き、伊依は唇を食い締めた。
「……なんで、うごいて……」
「んー、動いてほしい?」
「っ……」
哲司が意地悪く目を細めると、伊依の奥がきゅんと締まった。とうに分かっていたことだが、伊依はマゾの気があるらしい。言葉で責めたり、少し意地悪をしたりすると、ひどく感じやすくなる。
「だって、昔みたいに何回もはできねぇからさ。一回一回をじっくりやりてぇと思って」
そう言いながら、ゆっくりと腰を回す。伊依はビクビクと四肢を跳ねさせた。
「ぅ、あ……」
「こういう感じでいいなら、お前だけイかせてあげようか」
「やっ、め……おれだって、何回もはイけねぇ」
「動いてほしいんだろ? 大丈夫だって。中イキだけなら、何回でもできるから」
「やめっ、ん……あっ、あ……っ」
奥を捏ねるように、腰を押し付けペニスを押し込む。伊依は体を反らせて短く喘いだ。リズムをつけて奥を叩くと、いやいやと首を振る。声が徐々に上擦っていく。もうだめ、いっちゃう、と伊依が口走ったところで、哲司はぴたりと動きを止めた。
絶頂寸前で手を引かれ、限界まで高まっていた快楽の波が引いていく。伊依は、潤んだ瞳を吊り上げて哲司を見た。
「なん、でっ」
「だって、何回もはイけねぇんだろ」
「っ、くそっ……」
伊依は反動をつけて体を起こした。哲司を押し倒し、その上にまたがる。そそり立つペニスを己の中へと導きながら、ゆっくりと腰を落とした。根元まで呑み込み、最奥を突いた衝撃に喉を反らす。
「だまってちんこ勃たせてろ」
「おちんちんって言ってよ」
「んなかわいいもんじゃねぇだろ、コレは」
尻の膨らみを擦り付けるようにしながら、伊依は腰を躍らせた。汗ばんだ肌が触れては離れる、その感覚にぞくぞくした。粘着いた音が徐々に激しく響いてくる。
哲司は伊依の両手を掴んだ。手を握って支えにしながら、下から突き上げるように腰を動かした。
伊依は一瞬息を詰めた。僅かに体を引き攣らせて、そしてまた、腰をくねらせる。その動きに合わせて、哲司も腰を遣った。伊依の腰が下りてくると同時に突き上げた。突かれた衝撃で、伊依は体を震わせる。腰の動きが早くなる。
縋るように手を握られた。哲司の上で、白い肢体が踊っている。中心に揺れる性器に手を触れると、伊依は涙を散らして腰を振った。
ぬるついた透明の汁を手に纏わせて、伊依の体を這い上った。括れた腰と、滑らかな胸を撫でる。白い肌に、乳首だけがやたらと色づいて見えた。指先で引っ掻いて、捏ねるように摘まんでやる。
ビクン、と伊依の体が弓なりに仰け反る。支えを失い、後ろへ倒れそうになるので、哲司は自分の側へ抱き寄せた。密着騎乗位の状態で、動けなくなった伊依に代わり、哲司が主導権を握る。
控えめに膨らんだ尻を両手でしっかりと掴む。穴の縁を確かめるように指先でなぞり、小さな蕾を押し広げる。伊依の腰が跳ねるのを腕力で押さえ込み、限界までペニスをねじ込んだ。
正直なところ、腰を痛めそうでひやひやした。少なくとも、明後日辺り確実に筋肉痛だ。若い頃は気にも留めなかったことが、年を取ると思考の大半を支配するようになる。
それでも、やっぱり、伊依が欲しい。素直にこちらへ身を預け、時には泣いて縋ってくるこいつを、何よりも愛しいと思う。守りたい、と思う。
いつだって、守られていたのは哲司の方だ。生かされていたのは哲司の方だ。だから今、ここにいる。伊依を腕に抱いている。
「もっ、もう、だめ」
「イきそう? 奥すげぇうねってる」
「ぅ、やっ、あっ、ああ」
どこからそんな声が出ているのかと思う。普段から独特の色気を帯びた声をしているが、セックスの時はどこか少年のようなあどけなさが加わる。快感に怯える少女のようなことを口走る。そのことが、男の劣情をたまらなく煽る。
哲司は、いよいよ激しく腰を遣った。伊依の腰を押さえ込んで、最奥を突いた。
哲司に揺さぶられながら、伊依は髪を振り乱し、哲司の胸にしがみついて喘いだ。甘い声が鼓膜を揺さぶるのを感じ、哲司は一層きつく伊依を抱いた。
「もっ、い、いく、いっ──」
伊依の後頭部を押さえて、首筋に噛み付かせた。歯を立てられる感覚がある。甘く痺れる痛みが走る。胸の奥に温かいものが広がって、腹の奥から熱いものが込み上げた。
伊依の中に、熱いものを解き放った。伊依の腰を押さえ付け、最奥を捏ねるようにペニスの先を押し込んで、放ったものを擦り付けた。精液を掻き回す水音が、また新たな快感を呼ぶ。
胸を喘がせ、荒い息を繰り返している伊依の唇を塞いだ。逃げようとして身を捩るのに、無理に舌をねじ込んだ。熱く蕩けた口内を、舌でぐるりと一周する。たっぷりと湛えられた唾液に、舌を突き立て掻き混ぜる。口の中、喉の奥で、二人の熱が一つに溶け合う。
もうどちらのものとも分からない唾液を纏わせて、伊依が舌を絡めてきた。そうすることしか知らないというように、口づけはどんどん深くなる。互いの熱を貪って、吐く息までをも呑み込もうとするキスだった。
連続ではできないだろうと思っていた。最近は朝勃ちの回数も減り、自慰行為などもわざわざしようという気が起きなくなっていた。年を取るとはこういうものだろう。少し寂しい気もするが、どれだけ愛してもまだ足りない、あの頃の焦燥感に比べれば、気持ちは穏やかなものだった。
そう思っていたが、こうして伊依と抱き合っていると、体までもが若返るらしい。微痙攣を繰り返す蜜壺に包まれて、濃密に吸い付く肉襞に誘われて、感覚は敏感に研ぎ澄まされる。快感が腰を駆け抜ける。雄の証が、何度でも大きくなる。
四肢を絡ませ合ったまま、ぐるりと体を反転させた。伊依を仰向けに寝かせて、その上に覆い被さった。
絡み合っていた舌が解ける。とろりと唾液が糸を引く。窓に差し込む朧な光で、銀色に煌めいた。
吸い過ぎたせいか、伊依の唇がやけに赤く、艶めかしく見えた。口の端を唾液が伝う。哲司はそれを舐め取って、そしてまた、唇を重ねた。唾液の糸で欲望を編む。
「っあ、まだ……」
「うん、俺も……」
哲司がゆっくりと腰を回すと、伊依も応えるように腰をうねらせた。いわゆる迎え腰で、哲司の全部を受け止めてくれる。
人生をかけて愛した。そして、人生をかけて愛された。心も体も明け渡し、哲司の全てを受け入れて、許してくれたこいつのことが、心底愛おしかった。伊依は、哲司にとっての世界の全てだ。
「も、っと、おく……」
「苦しくねぇ?」
「いい、もっと……おく、はいって」
四肢を絡めてしがみつかれる。奥へ奥へと誘うように腰が揺れる。哲司は、あまり激しい動きでなく、腰を振った。
体を密着させて奥を突く。伊依の腰が跳ねるのを、体重をかけて押さえ込む。
ビクビクと奥が痙攣し、濡れるのを感じた。潤んだ粘膜が絡み付き、痙攣を繰り返しながら締め付ける。
この一回をじっくりと味わうつもりだったのに、理性が耐えきれなかった。快楽を追って腰を振り立て、伊依に甘い声を上げさせて、そして再び、伊依の中に熱を放った。
奥が熱いと、伊依はうわ言のように繰り返した。重い快感を逃がすように、哲司の腕に爪を立てた。その痺れも、哲司には甘美なものに感じられた。伊依をきつく抱きしめて、口づけを落とした。伊依の中で、二人の熱が溶けている。
もう一回と求められると、応えざるを得なかった。理性の糸はとっくに切れていた。心も体も十二分に満たされているのに、いつまでも抱き合っていたかった。もう二度と、離れたくない。
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