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第4話 思い出す人

 あの温もりが無くなったのが信じられない。少し強引だけど、優しくて、伊織を守ってくれた人。 『伊織、伊織』 『孝仁さん……!』  優しい彼に駆け寄る。ああ、やっぱり彼が死んだなんて嘘だったのだ。伊織の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。 『伊織、独りにしてごめんな』 『孝仁さん、孝仁さんっ……!』  伊織は最愛の人を抱き締めて────。 「伊織さん」  声をかけられて、はっと目を覚ます。目の前にいたのは雪翔だった。 「雪翔、くん……?」  孝仁はいない。もう、どこにも。 「すみません……こんなところで寝たら風邪引くと思って」  伊織が寝ていたのはリビングのソファだった。伊織はゆっくりと起き上がる。孝仁に触れたかった。いや、一緒に連れて行ってほしかった。 「……たかひとさん、って、旦那さんですか?」 「え?」 「寝言で名前、呼んでたから……」 「……うん。孝仁さん。僕の旦那さんだった人だよ。優しくて、ちょっと頑固なところがあって、僕のこといっぱい考えてくれて……」  孝仁とは大学でゼミが一緒だった。告白された時は嬉しくて舞い上がったものだ。 「孝仁さん、僕が就活で上手くいかなくて病んでた時に、無理に頑張らなくていいって言ってくれて……」 「……上手くいかなかったんですか?」 「僕、電車が駄目なんだ。怖くて。いつも痴漢されるから……それで面接とかも上手くいかなくて。そしたら、主夫になってくれ、俺が支えるからって言ってくれたんだ」 「…………」 「親からは反対されて、ほとんど駆け落ちみたいになっちゃったけど……」  孝仁に会いたい。寂しい。そう思うと、瞳から雫が零れた。 「あ……ごめん、僕……」 「伊織さん」  そっと、温もりに包まれる。孝仁は違う体温。けれど優しいのは同じで。 「悲しんでいいんですよ。俺ならいつでも話聞きます」 「…………うん」  背中に腕を回すと、更に強く抱き締められる。随分と背が伸びたものだ。 「雪翔くん、おっきくなったねえ……」 「伊織さん、俺のことまだ子どもだと思ってたでしょ。これでも大人の男ですよ」  伊織を抱き締める手は、確かに男のもので。そのことに、少しだけ胸が高鳴った。 「でも、昔はこんなに小さくて、転んで泣いちゃって……」 「それ五歳の時でしょ! ていうか泣いてたことまで覚えてないでくださいよ!」 「忘れられないよ、あんなにかわいかったんだもん」  拗ねる彼が可愛くて、ふふっと笑みを零す。雪翔は指で涙を拭ってくれた。 「伊織さん、たくさん泣いて、たくさん笑ってください。俺が傍にいますから」 「……雪翔くん、かっこいいね。ありがとう」 「は、え……っ」  雪翔は顔を赤くする。彼の傍は温かくて、息がしやすい。さっきまでの悲しさは薄れて、伊織は彼に向かって微笑んだ。

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