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第5話 はじめてのであい
初めて出会ったのは夏の親戚の集まり。夏休みに本家に連れて行ってもらった時だった。
「わあ、雪翔くん! 大きくなったねえ」
自分よりずっと年上の人は、そう言って雪翔を抱き締めてくれた。
「君が赤ちゃんの時も会ってるんだよ。ふふ、覚えてないよね。僕は伊織。雪翔くんのお母さんのお兄さんの子どもだよ」
「いおり……にいちゃん?」
「そうだよ。これからよろしくね」
伊織は優しかった。親戚は大人の人ばかりで怖かったし、姉は女の子の親戚と仲良しで、自然と雪翔は伊織と一緒に行動するようになった。
ある日、伊織は雪翔に本家近くの商店に行こうと言ってくれた。
「いおりにいちゃん、はやくはやくっ!」
「雪翔くん、走ったら転んじゃうよ!」
「ころばないもん! ……あっ!」
足がもつれて地面に転ぶ。膝と腕が痛くて、じわりと涙が浮かんだ。
「う、うわぁあんっ……!」
「雪翔くん、大丈夫!?」
伊織は雪翔を起こして、服についた砂を払ってくれた。
「怪我はしてないね、痛かった?」
「いた、いたいぃっ……!」
「ごめんね、僕がちゃんと見てなかったから……」
伊織はよしよしと頭を撫でてくれる。彼に抱きつくと、優しく背中を叩いてくれた。
「雪翔くん、サイダーって飲んだことある?」
「っ、ひ、……さいだーって、なに……?」
「甘くて、しゅわしゅわってする飲み物だよ。商店さんにあるから、僕が買ってあげる」
伊織は雪翔を抱っこしてくれて、商店までの道を歩く。商店のおばちゃんは仲良しだねえと笑っていたのを覚えている。
「サイダー二本ください!」
「あら、加古村さんとこの坊ちゃんじゃないの。大きくなったね。サイダーね」
サイダーをもらうと、伊織は開け方を教えてくれた。恐る恐るひと口飲んでみると、なんと口の中で液体が弾けた。まるで魔法だった。
「ふわあ……!」
「おいしい?」
「うんっ! おれ、これすきっ!」
「僕も大好き。よかった、雪翔くんが気に入ってくれて」
伊織が嬉しそうに笑う。その笑顔はきらきらしていて、今まで見てきたものの中で一番綺麗で。
「いおりにいちゃん、おれとけっこんして!」
「えっ、結婚?」
「おれ、いおりにいちゃんとずっといっしょにいたいっ! けっこんしたらまいにちいっしょなんでしょ!?」
「雪翔くん、結婚って、好きな人としかしちゃいけないんだよ?」
「おれいおりにいちゃんすきだもん! いいでしょ!?」
「うーん……じゃあ今は子ども同士で結婚できないから、大人になったらもう一回結婚しようって言ってくれる?」
「うん、いいよっ!」
雪翔が小指を差し出すと、伊織は小指を絡めてくれた。
あの日からずっと、雪翔の心は伊織に奪われたままだ。
「雪翔くん、サイダー好きなの? 冷蔵庫にいつも入れてるよね」
伊織が冷蔵庫を覗きながら尋ねる。
「この世で一番うまい飲み物がサイダーだと思ってますね」
「そんなに? 昔、一緒にサイダー飲んだよね。あれ夏の恒例だったなあ」
「……俺、伊織さんに奢ってもらったのが初サイダーでしたよ」
「そうそう、ずっと泣いてたのに、サイダー飲んだ途端にぱあって笑顔になってさ、あれかわいかったなあ。今も飲んだらそうなる?」
伊織はくすくすと笑う。大人になった伊織は、昔よりずっと色香を纏っている。
叶うことなら抱き締めて、キスをして、閉じ込めてしまいたい。けれど、伊織の心には亡くなった夫がいるのだ。まだ、その傷から立ち直っていないのに告白なんてできない。
「じゃあ一緒に飲みます?」
雪翔はサイダーを冷蔵庫から取り出して、伊織に手渡す。
「え、いいの?」
「ええ。付き合ってください、『いおりにいちゃん』?」
「……ふふ、いいよ」
伊織の笑顔は、昔と変わらず世界で一番綺麗で。
──あの時みたいに、プロポーズできたらなあ。
雪翔は心を奪われ続けたまま、サイダーの蓋を開けたのだった。
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