5 / 7

第5話 はじめてのであい

 初めて出会ったのは夏の親戚の集まり。夏休みに本家に連れて行ってもらった時だった。 「わあ、雪翔くん! 大きくなったねえ」  自分よりずっと年上の人は、そう言って雪翔を抱き締めてくれた。 「君が赤ちゃんの時も会ってるんだよ。ふふ、覚えてないよね。僕は伊織。雪翔くんのお母さんのお兄さんの子どもだよ」 「いおり……にいちゃん?」 「そうだよ。これからよろしくね」  伊織は優しかった。親戚は大人の人ばかりで怖かったし、姉は女の子の親戚と仲良しで、自然と雪翔は伊織と一緒に行動するようになった。  ある日、伊織は雪翔に本家近くの商店に行こうと言ってくれた。 「いおりにいちゃん、はやくはやくっ!」 「雪翔くん、走ったら転んじゃうよ!」 「ころばないもん! ……あっ!」  足がもつれて地面に転ぶ。膝と腕が痛くて、じわりと涙が浮かんだ。 「う、うわぁあんっ……!」 「雪翔くん、大丈夫!?」  伊織は雪翔を起こして、服についた砂を払ってくれた。 「怪我はしてないね、痛かった?」 「いた、いたいぃっ……!」 「ごめんね、僕がちゃんと見てなかったから……」  伊織はよしよしと頭を撫でてくれる。彼に抱きつくと、優しく背中を叩いてくれた。 「雪翔くん、サイダーって飲んだことある?」 「っ、ひ、……さいだーって、なに……?」 「甘くて、しゅわしゅわってする飲み物だよ。商店さんにあるから、僕が買ってあげる」  伊織は雪翔を抱っこしてくれて、商店までの道を歩く。商店のおばちゃんは仲良しだねえと笑っていたのを覚えている。 「サイダー二本ください!」 「あら、加古村さんとこの坊ちゃんじゃないの。大きくなったね。サイダーね」  サイダーをもらうと、伊織は開け方を教えてくれた。恐る恐るひと口飲んでみると、なんと口の中で液体が弾けた。まるで魔法だった。 「ふわあ……!」 「おいしい?」 「うんっ! おれ、これすきっ!」 「僕も大好き。よかった、雪翔くんが気に入ってくれて」  伊織が嬉しそうに笑う。その笑顔はきらきらしていて、今まで見てきたものの中で一番綺麗で。 「いおりにいちゃん、おれとけっこんして!」 「えっ、結婚?」 「おれ、いおりにいちゃんとずっといっしょにいたいっ! けっこんしたらまいにちいっしょなんでしょ!?」 「雪翔くん、結婚って、好きな人としかしちゃいけないんだよ?」 「おれいおりにいちゃんすきだもん! いいでしょ!?」 「うーん……じゃあ今は子ども同士で結婚できないから、大人になったらもう一回結婚しようって言ってくれる?」 「うん、いいよっ!」  雪翔が小指を差し出すと、伊織は小指を絡めてくれた。  あの日からずっと、雪翔の心は伊織に奪われたままだ。 「雪翔くん、サイダー好きなの? 冷蔵庫にいつも入れてるよね」  伊織が冷蔵庫を覗きながら尋ねる。 「この世で一番うまい飲み物がサイダーだと思ってますね」 「そんなに? 昔、一緒にサイダー飲んだよね。あれ夏の恒例だったなあ」 「……俺、伊織さんに奢ってもらったのが初サイダーでしたよ」 「そうそう、ずっと泣いてたのに、サイダー飲んだ途端にぱあって笑顔になってさ、あれかわいかったなあ。今も飲んだらそうなる?」  伊織はくすくすと笑う。大人になった伊織は、昔よりずっと色香を纏っている。  叶うことなら抱き締めて、キスをして、閉じ込めてしまいたい。けれど、伊織の心には亡くなった夫がいるのだ。まだ、その傷から立ち直っていないのに告白なんてできない。 「じゃあ一緒に飲みます?」  雪翔はサイダーを冷蔵庫から取り出して、伊織に手渡す。 「え、いいの?」 「ええ。付き合ってください、『いおりにいちゃん』?」 「……ふふ、いいよ」  伊織の笑顔は、昔と変わらず世界で一番綺麗で。  ──あの時みたいに、プロポーズできたらなあ。  雪翔は心を奪われ続けたまま、サイダーの蓋を開けたのだった。

ともだちにシェアしよう!