10 / 34

第10話 付き合ってからの朝は

「雪翔くん、ゆきとくーん」 「んん……」 「起きてー、朝だよー」  雪翔の身体をゆさゆさと揺らすと、彼はゆっくりと目を開いた。 「おはよう、雪翔くん」 「ん……んん……おはよ、ございます……」 「ふふ、寝癖すごいなあ。ほら、顔洗っておいで?」  やはり、寝起きの彼はひどく愛らしい。いつまでも子どものままだ。 「伊織さん……」 「ん?」 「おはようのキスはしてくれないんですか……?」 「ひぇ!?」  いきなり何を言い出すのだ。亡くなった孝仁ともそんなことはしてこなかった。あわあわと慌てていると、雪翔がそっと頬に触れてくる。 「伊織さんがおはようのキスしてくれたら、起きます」  子犬のような顔で見つめられて、伊織は逡巡した。 「〜〜っ」  恥じらいながら、雪翔の頬に口づけを落とす。伊織にはこれが精一杯だった。 「はい、起きて! 朝ごはん冷めちゃうよっ!」 「ほっぺかあ……」  雪翔は少し不満げな顔のまま起き上がる。五歳のころにサイダーで喜んでいた純粋な男の子はどこに行ってしまったのだろうか。  朝食を終えて、家を出る準備をしている雪翔に弁当を渡す。 「今日の晩ごはん、唐揚げでいい?」 「大好物です! めっちゃ食いたいです!」 「ふふっ、雪翔くんはいつも大盛りだもんね」  立っている襟を直して、ぽんぽんと肩を叩く。 「はい、いってらっしゃい」 「行ってきます。……あ、一個忘れ物」 「ん? 何忘れたの? 取ってこようか?」 「いや、ここに」  雪翔は伊織をぐいと引き寄せると、唇を奪った。 「ん、んんっ……!」  舌が入り込んできて、びくりと肩を震わせる。歯列をなぞられて、舌の先を吸われて、あまりの気持ちよさに腰が抜けてしまいそうだった。 「いってきますのキス、してなかったんで」 「そ、そういうのってもっと軽いのなんじゃないの……!? 朝からこんなっ……」 「だって雪翔さんが奥さんみたいにしてくれるから、我慢できなくって」 「奥さっ……!? かわいくて純粋な雪翔くんはどこに行っちゃったの!?」 「伊織さん、俺のこと未だに五歳児だと思ってるでしょ……」  雪翔はいつもと違う意地悪そうな笑みをこぼして、ちゅっと軽いキスをしてきた。 「もう俺、立派な大人なんで。伊織さんのことだって下心ありありで見てますよ」 「し、したごころ、って……」 「おかえりのキスは、伊織さんからしてくださいね? じゃ、行ってきます!」  雪翔は太陽のような笑みに戻って家を出ていった。 「ゆ、雪翔くん……ずるい……!」  伊織はへにゃへにゃと座り込んで、真っ赤になった顔を押さえるしかできなかった。

ともだちにシェアしよう!