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第11話 犬系彼氏
「ただいまですっ!」
夕方になって、雪翔が帰ってきた。彼は満面の笑みを伊織に向けてくる。
「……おか、えり……」
「はいっ!」
まるで散歩に行く犬のような、にこにこの笑顔。朝の約束を期待しているのは見て取れた。
「………………」
正直、こんな若い子に手を出してしまう罪悪感が拭えない。けれど。
「伊織さん、俺、仕事頑張りましたっ!」
でも、こんな風に期待されてしまってはもうどうしようもなかった。
伊織は雪翔の両頬に触れて、ちゅ、と口づけを落とした。
「……お疲れ様。ごはん、できてるよ」
「へへ、やったぁ!」
とんでもなく恥ずかしい。でも、雪翔が本当に心の底から嬉しそうに笑うから、伊織は敵わないなと思ってしまった。
食事を食べ終わって、伊織は雪翔に声をかけた。
「雪翔くん、お風呂沸いてるからね」
「ありがとうございます!」
雪翔はにこにこと笑って、伊織に近づいてきた。
「伊織さん、一緒に入りませんか?」
「ひぇっ!?」
「俺、伊織さんの背中流したいなあ……駄目ですか?」
子犬のようなうるうるした瞳で見つめられて、思わず頷きそうになる。いや、駄目に決まっている。まだ昨日付き合い始めたばかりなのに、そんなふしだらな関係は許されない。
「だ、駄目っ! 裸の付き合いは早すぎますっ!」
「でも伊織さん、昨日俺の裸見ましたよね? じゃあもうよくないですか?」
「こんなおじさんの裸なんか見ても面白くないよっ!」
「や、絶対興奮する自信あるんで任せてください」
「何を!?」
雪翔はぐいぐいと迫って伊織の腰に手を回してくる。なんというか、押しが強すぎる。
「雪翔くんのすけべっ! かわいくて純粋な雪翔くんに戻ってよ!」
「可愛い雪翔くんはもう終了しましたー。ここにいるのは恋人大好きな成人男性の雪翔くんだけですよ」
「な、なんでこんな急に迫ってくるの! この前までそんな素振りなくて、紳士だったじゃん!」
雪翔から逃げようとすると、ぐいと腰を引き寄せられて顔が近づいた。その端正な顔立ちに、胸がどくりと高鳴る。
「そりゃ伊織さんが俺のこと好きだって知らなかったからですよ。十八年も待ってたんですよ? もう我慢なんてできないです」
雪翔は伊織の唇を奪って、意地悪に微笑む。ああ、あの天使のような雪翔はどこに行ってしまったのだろう。
「俺、これからはグイグイ行くんで。全力で伊織さん口説きます。覚悟してください?」
「ひ、う……!」
「まずは裸の付き合いしましょうよ。伊織さん、俺に身体洗わせてください、ね?」
「〜〜っ、お風呂くらい、ひとりで入りなさいっ!」
伊織は顔を真っ赤にして、迫り来る犬のような彼氏に抵抗することしかできなかった。
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