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第13話 カフェデート
その日、伊織は駅前まで雪翔と買い物に出かけていた。調理用にエプロンが欲しいので買ってくると言ったら、雪翔がプレゼントしたいと言ってくれたのだ。
「雪翔くん、ありがとう」
買ってもらったのは黒色のシンプルなエプロン。これで油跳ねを気にせず料理が出来る。
「いえ、伊織さんには料理全部作ってもらってるからこれくらい。でも……」
「うん?」
「伊織さんのイメージだったら、割烹着の方が似合いそうですね。和服美人みたいなイメージあるから」
「びじっ……お、おじさんをからかっちゃいけません!」
「からかってなんかないですよ。伊織さんはこの世で一番美人で可愛いです」
「……っ、そんなこと思うの、雪翔くんだけだよ……」
「俺としてはハート型のエプロンも夢あるなーって思ったんですけどね、ほら、フリフリのやつ」
「そんなの三十のおじさんが着たら笑い者だよ!」
くだらない話をしながら歩いていると、有名なチェーン店のカフェの前に着いた。
「伊織さん、お茶でも飲んでいきます?」
「僕、このお店怖くて入ったことないや……」
「怖い? なんでですか?」
「なんか、キラキラした人たちいっぱいいそうで……場違いって思われたら嫌だし……でも、すごくおいしそうで入ってはみたくて……」
「ただのカフェだから大丈夫ですよ。俺もついてますから、入ってみましょう?」
「う、うん……」
雪翔の言葉に勇気をもらって、ドアを開ける。中は洗練された雰囲気で、やはり場違いなのではと心が小さくなっていった。
レジに行くと、大学生くらいの店員がにこやかに声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。ご注文お決まりですか?」
「あ、えっと、えっと……」
メニューを見ると、呪文のような言葉が並んでいてよくわからない。その中で抹茶ラテを見つけて、指をさした。
「抹茶ラテ、ひとつ……」
「ホットとアイスどちらがよろしいですか?」
「あ、あったかいので……」
「サイズはどうなさいますか?」
「えっと……Mサイズで」
「当店はSサイズ、Tサイズ、Gサイズ、Vサイズがございますが」
「え、ええっと……」
そんなサイズ、いきなり言われてもわかるわけがない。伊織は思わず涙目になってしまう。すると、後ろから雪翔が入ってきて微笑んでくれた。
「伊織さん、普通くらいのサイズでいいですか?」
「う、うん……」
「Tサイズでお願いします。あと、ブレックファーストティーラテのGサイズをホットで」
「かしこまりました」
雪翔はふたつ分の料金を支払って、こっちですと渡し口まで案内してくれる。
あんなにスマートに助けてくれて、カフェで注文が出来るなんて。
「雪翔くん、かっこいい……」
目の前の雪翔が、とても頼りがいのある男性に思える。
「え、本当ですか!?」
雪翔はガッツポーズをして、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「っしゃ、やった……!」
「抹茶ラテTサイズ、ブレックファーストティーラテGサイズのお客様、お待たせしましたー」
「あっ、はい!」
ふたりはドリンクを受け取って、適当な席に座る。ひと口抹茶ラテを飲むと、まろやかなミルクの中に抹茶の程よい苦味がしっかりと感じられた。
「ふわあ……おいしい……!」
「……伊織さん、ちょっと、写真撮っていいですか」
「へ? 写真? なんで?」
「今の伊織さん、マジで可愛いんで。待ち受けにしたいです」
「え、ええっ!? 別にいい……けど、こんなおじさん待ち受けにしても……」
雪翔は真剣な表情でスマートフォンで写真を撮る。本当に待ち受けにするのだろうか。
「あー……可愛い……可愛すぎる……この写真宝物にしよ……コンビニでプリントアウトしてもいいな……」
「そ、そんなに!?」
「マジで伊織さんが世界で一番可愛いですから」
雪翔の顔は真面目そのものだった。こんな何の取り柄もない男が、世界で一番可愛いなんて。
「雪翔くん、言い過ぎだよ……」
伊織は恥ずかしがりながら、抹茶ラテをちゅうちゅう吸うことしかできなかった。
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