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第14話 初任給

「伊織さん、これ今月分の給料です」 「え……!?」  伊織に手渡されたのは金が入った封筒。恐らくそれなりの金額が入っていることが分かる。 「これくらいで足りますか?」 「ま、待って雪翔くん! 僕お金なんてもらえないよ!」 「え、なんでですか? 毎日家事してくれてるじゃないですか」 「だって僕、ここに住まわせてもらってるんだよ! その分家事してるだけなのに……」  伊織は家賃を払っていない。その上、給料なんてもらえるわけがなかった。 「伊織さん、家事ってすごい労働なんですよ。お金もらって当然です。だからもらってください」 「でも……」 「伊織さん」  雪翔は優しく、封筒を伊織の手に置いた。 「俺、伊織さんと対等でいたいです。伊織さんを搾取するだけの男になりたくない。伊織さんがやっていることは、お金がもらえるくらいちゃんとしていることなんです」 「雪翔くん……」  真っ直ぐな瞳。そんな風に自分のしたことが認められるとは思っていなかった。でも、これが雪翔の誠意の表れというなら、受け取らない方が失礼に当たる。 「……わかった、ありがたくもらいます」  伊織はしっかりと、生まれて初めて自分の力で稼いだ金を受け取った。 「あっ、じゃあさ、これでちょっといいお肉買って、角煮でも作ろうか!」 「い・お・り・さ・ん?」  雪翔は目が笑っていない笑顔のまま、伊織の肩を掴んだ。 「食費は別で渡してますよね? その金は伊織さんのためだけに使ってください。そこから食費にあてたら、俺本気でへこみます」  「で、でも……」 「伊織さんの好きなもの買うとか、お茶するとか、そういうことに使ってくださいよ。生活にかかるお金はちゃんと出させてください。俺のプライドのために」 「わ、わか、った……」  お茶をするのであれば、ひとりでなく雪翔と一緒がいい。伊織は恥ずかしさをこらえて、顔を封筒で半分隠しながら、自分の欲望を口にした。 「じゃあ、その……今から雪翔くんとカフェとか、行きたいなって……」 「それ、デートのお誘いですか!?」  雪翔は犬のような笑顔でずいと近づいてくる。 「えっ!? ええ、っと……そう、だね?」 「よっしゃー! 伊織さんからデート誘われた、 やったーっ!」  雪翔は心の底から嬉しそうにガッツポーズをする。デートのお誘いひとつでこんなに喜ぶなんて。 「ほら、伊織さん! 早く行きましょっ!」 「あ、あのさ、雪翔くんっ!」 「ん、どうしました?」 「その……注文、また頼んでもいいかな? 怖くて……」  まだ駅前のカフェの苦手意識は拭えない。情けないが、雪翔がいてくれないと注文もできないのだ。  雪翔はきょとんとした顔の後、太陽のような眩しい笑顔を向けた。 「もちろん、どんどん彼氏に頼ってください!」  差し出された大きな手を、伊織はそっと握ったのだった。

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