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第23話 現実

 ある土曜日、家事をしているとインターホンが鳴った。 「はーい……?」  何かの荷物が届いたのだろうか。ドアを開けると、そこには雪翔と同い年くらいの、綺麗で可愛らしい男がいた。 「ゆーきとくんっ! 遊びに来てやったぜー! ……って、誰?」 「あ、えっと……雪翔くんのお友達、ですか?」 「そうだけど、誰アンタ?」 「姫野!」  雪翔が部屋から出てくる。姫野というのが男の名前なのだろうか。 「伊織さんすみません、こいつ大学の時のダチで」 「ダチじゃねーよ恋人だろー」  姫野はぎゅっと雪翔の腕に抱きつく。その様はひどく可愛らしくて。 「こい、びと?」 「こいつが勝手に言ってるだけです! おい、離れろ!」 「つれねーこと言うなよ、せっかく遊びに来てやったんだからさあ」  恋人のように絡む姫野を見て、伊織の胸はずきずきと傷んだ。  ──あ、すごく、お似合い、だ。  伊織なんかより、ずっと。そう思って、伊織はふたりから目を逸らした。 「どうぞ……お茶です」  姫野をリビングに通してお茶を出す。彼はじろじろと伊織を睨んでいた。 「で、雪翔、こいつ何?」 「ぼ、僕はその……家政夫、です」 「家政夫ぅ?」 「俺の恋人だよ。伊織さん。従兄弟なんだ」 「ハァ!?」  姫野は立ち上がって、また伊織をじろじろと見つめた。 「アンタ、年は?」 「三十……です」 「仕事は?」 「その、会社には務めてなくて……」 「は? じゃあニートのおっさんじゃん!」 「……っ!」  がん、と頭を殴られたような感覚。そうだ、伊織はその程度の人間なのだ。 「おい姫野っ! 伊織さんにそれ以上言ったらつまみ出すぞ!」 「だって事実じゃんか!」  喧嘩になりそうな雰囲気になった瞬間、雪翔のスマートフォンが電話の音を鳴らした。 「くそっ……伊織さんに失礼すんな! 絶対だぞ!」  リビングでふたりきりになって、沈黙が流れる。姫野はきっと、雪翔のことが好きなのだ。 「ねえ、アンタ」 「は、はい……」 「雪翔の年、わかってる? 二十三だよ? アンタ、そんな若いやつに手出して恥ずかしくないの?」 「…………っ」 「俺はずーっと、大学の時雪翔のこと狙ってたんだ。アイツの隣にいたのはこの俺なんだよ」 「…………」  何も言えなくて俯く。そうだ、伊織は何も持っていない。仕事も、金も、若さも。雪翔に相応しいのは、きっと姫野のような──。 「別れてくんない?」 「……は?」  顔をあげると、姫野はにこにこと笑っていた。 「雪翔のことは俺が幸せにしてあげるからさ、ぽっと出のアンタは引っ込んでてよ」 「────」  動けない、喋れない。どうしようもない、分不相応の現実が伊織を殺し続ける。 「なあ、身の程わきまえてよ。──『おっさん』」 「────っ!」  ぱきん、と心が折れる音がした。ああ、伊織では駄目だ。何も持っていない、伊織なんかでは──。 「おい姫野! 伊織さんに変なこと言ってないだろうな!?」 「おかえり雪翔ー。楽しくおしゃべりしてただけですよねー? 伊織さん?」 「……あ、うん…………」  伊織は下手な笑顔を作る。頭の中で、この家から出ていくことを考えながら。

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