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第25話 絶望

「ん……」  目が覚めると、伊織の姿がなかった。もう起きて朝食の準備をしてくれているのだろうか。だが、キッチンから音が聞こえない。 「伊織さん……?」  寝ぼけまなこでリビングに行っても、やはり伊織はいなかった。そこでようやく、違和感に気づく。こんな朝から買い物にでかけるなんて考えづらい。 「伊織さん……!?」  どこに行ったのだろうか。探しに行こうとすると、リビングに置いてある金と手紙に気づいた。 『僕は君に相応しくありません。今までありがとう。幸せでした。お金は返します。伊織』  ひゅっ、と自分の喉から悲鳴が聞こえた。伊織が出ていった。雪翔に何も告げず、独りで。 「伊織さんっ……!」  雪翔は家を飛び出した。家の近くを走って、伊織を探す。だが、彼はどこにも見当たらなかった。スマートフォンで電話をかけても繋がらない。 「なんで、なんで、なんで……!」  どうして、雪翔から離れていったのだ。相応しくないとはなんだ。そんなもの、伊織が雪翔を好きでいてくれるだけでよかったのに。 「嫌だ、伊織さん、伊織さん……!」  ない。いない。どこにも、いない。雪翔の唯一。月のように美しい、誰よりも大切な人。  無力さに涙が滲む。どうして気づかなかったのだろう。伊織が自分の立場を気にしていることは前から知っていたのに。 『僕のこと、離さないで……』  伊織は昨日、確かにそう言っていた。あの時にもう別れを決めていたのか。だったら、あれは伊織の最後のSOSだったのだ。  あの時、気づいていれば。伊織を抱き締めた腕を、離さなければ。  それなのに雪翔は、気づかずに伊織がずっといてくれるものだと、思い込んで──。 「くそ、くそっ……!」  ようやく雪翔の隣に来てくれたのに。十八年間、ずっとずっと想い続けていた。あの人を抱き締めるためならなんでもすると誓ったのに。 「俺……どんだけ馬鹿なんだよ……」  会いたい。抱き締めたい。愛していると伝えて、二度と離さないでいたい。  でも、雪翔の手は短く、消えてしまった月には届かない。 「っ…………」  涙が零れる。雪翔はただの無力な青年だった。とにかく、伊織の実家に行ってみよう。絶縁状態であることは知っているが、もしかしたら帰っているかもしれない。 『伊織さん、今どこにいますか? 連絡ください。お願いです、帰ってきてください』  読まれることはないとわかっているメッセージを送る。雪翔は幸せの形をした人を見つけるために、身一つで走り出した。

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