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第29話 おかえり

「ん……」  目を覚ますと、誰かに抱き締められていた。目の前には穏やかな顔で眠る雪翔がいた。 「雪翔、くん……」  ああ、帰ってきたのだ。雪翔の元に。今、確かに実感した。  伝わってくる温もりと優しさに、ひと筋涙が零れる。ずっと、ずっとここに帰りたかった。雪翔は眠っているのに、強く抱き締めて伊織を離さないでいてくれる。 「っ、ふ、ぅっ……」  雪翔の胸に身体を預ける。ここが伊織の居場所で、安全地帯で、全てだった。 「ゆきとくん……ゆきとくんっ……」 「ん……いおり、さん?」  雪翔が目を開けて、泣いている伊織を見る。彼はふっと笑って、伊織の唇に愛を捧げた。 「よかった、伊織さんちゃんといた……」 「雪翔、くんっ……」 「なんで泣いてるんですか? 怖いことでもありました? 大丈夫ですよ」  雪翔はぽんぽんとあやすように伊織の背中を叩いてくれる。その仕草も懐かしくて、愛おしくて。 「僕……本当は、他の人になんて抱かれたくなくて……」 「……はい」 「雪翔くんだけがよかった……雪翔くんじゃないと、駄目だったのに……馬鹿なことして、ごめんなさい……!」 「……もういいですよ。俺が一番で、最後なんでしょ? だったらいいんです」 「……おこら、ないの?」 「勝手に出て行ったことはそりゃ怒ってますよ。けどそれ以上に、伊織さんが自分で戻ってきてくれたことが嬉しくて」  伊織は鼻をすすりながら、雪翔の胸に手を置いた。 「あの時……雪翔くんのこと考えてて、帰りたいなって思って、気がついたら家の前にいたんだ……」 「……帰りたいって、ここが家だって、思ってくれたんですね?」  雪翔はそっと、伊織の頬に触れる。慈しむように、愛おしむように。 「うん……」 「なら全部許します。でも、次同じことされたら、俺一生立ち直れないんで」 「もうしない……どこにも、行かないから……」  雪翔を抱き締めると、彼はそれに応えてくれた。ああ、こんなにも愛しくて、安心する。 「っ、けほっ……」  昨日声を出しすぎたせいで喉が痛む。雪翔は心配そうに顔を覗き込んでくれた。 「伊織さん大丈夫ですか? 水持ってきますか?」 「……水じゃなくてサイダー、飲みたいな……。雪翔くんと、一緒に」  雪翔との思い出。あの夏の、伊織と雪翔のはじまりの証。 「わかりました、取ってきます!」  雪翔はすぐにサイダーを二本持って、戻ってきてくれた。 「はい、どうぞ!」 「……ありがとう」  蓋を開けると、しゅわしゅわと炭酸が弾ける。甘くて、爽やかで、懐かしい。 「あー、いつ飲んでもうまいですね、これ!」  雪翔は太陽のように、伊織にだけ微笑んでくれた。 「ふふ、そうだね。昔みたいにニコニコの雪翔くん、かわいいよ」 「……伊織さん、昔のこと擦りすぎですよ」  雪翔はむう、と膨れて伊織の腰を抱く。キスの嵐が降ってきて、伊織はくすぐったさに身体をよじらせた。  これは、太陽のような君と、何者でもなかった僕の、もう一度始まる恋の物語。

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