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第30話 幸せな朝
「んん……」
身体のだるさを覚えながら目を覚ます。視界には嬉しそうに微笑んでいる、恋人の姿。
「おはようございます、伊織さん」
「おはよう……雪翔くん……」
「腰、痛くないですか? 喉は?」
「ん……大丈夫、だよ……」
雪翔は行為をした次の日、いつも伊織を心配してくれる。彼が起きる前に朝食を準備できないのは申し訳ないが、こうして甘やかしてくれるのが嬉しいと思ってしまうところもある。
「へへ、寝起きの伊織さん……ちょーかわいい……」
「雪翔くんのがかわいいもん……」
「いーや、伊織さんのがかわいいです」
「……むう」
強情な雪翔に、伊織はぷいとそっぽを向いて背中を見せた。
すると、背中にひとつ、甘い口づけが落ちた。
「ひゃっ!?」
「伊織さん、背中綺麗ですよね」
ちゅ、ちゅ、と何度も背中に口づけが落ちる。
「ちょっと、くすぐったい……!」
振り返ると、今度は顔中に口づけが降ってくる。伊織はくすぐったさに思わず身体をよじらせた。
「あははっ、も、雪翔くっ……!」
「逃げないで。俺の愛、全部受け取ってください」
雪翔は伊織を逃がさないように、シーツの上で手を絡める。一度は離れてしまった、なによりも愛しい体温。
「……もう、逃げないよ」
ああ、雪翔が──雪翔こそが、伊織の幸せで、日常なのだ。
「雪翔くんは僕の、だもんね?」
「そうですよ。伊織さんの、俺ですから」
雪翔はくすくすと笑って、伊織の唇を優しく奪う。
──やっぱり僕、雪翔くん大好きだなあ……。
「お腹空かない? ごはん作るよ?」
「駄目です。今は俺とイチャイチャしてください」
雪翔はぎゅう、と伊織を腕の中に閉じ込める。
「朝ごはん食べないとおっきくなれないよ?」
「俺もう充分デカいですから……ちゃんと大人の男でしょ?」
「本当の大人だったら、トマトも食べられると思うけどな?」
「い……伊織さんの意地悪! 大人だって嫌いなもの一個くらいあるでしょ! それに、火通せば食えるし!」
雪翔は年の差を気にしていて、子ども扱いをすると拗ねたり、不機嫌になったりする。そこがまた愛らしくてたまらない。
「じゃあ朝ごはん、生トマトのサラダにしても食べられる?」
「…………嫌です…………ほんと、伊織さん意地悪だ……」
「ふふ、冗談だよ。雪翔くんかわいい」
あやすように背中を撫でると、雪翔は頬を膨らませながら、こつんと額を合わせてきた。
「俺は可愛いより、かっこいいって言ってほしいんです!」
「だって本当にかわいいから……」
「それ以上可愛いって言ったら、俺拗ねますからね!」
穏やかな朝が過ぎていく。ふたりを引き裂くものは何も無かった。
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