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第32話 運動をしよう
雪翔が休みの日、彼がリビングでダンベルを上げているのを、伊織はじっと見つめていた。
「すごいなあ……」
「へ? 何がですか?」
「雪翔くん、筋肉あってすごいなあって」
「あー……まあ、一応鍛えてるんで」
「高校、サッカー部だったっけ?」
「はい、まあその時ほど運動してないですけど、習慣にはなってますね」
「……かっこいいなあ……」
盛り上がっている筋肉を見ていると、なんだか胸がときめいてくる。
「伊織さん、筋肉フェチですよね」
「フェチって言い方、なんか変態ぽくてやだ……」
「でも俺の筋肉見ると興奮するでしょ?」
「う……」
正直、とてつもなく興奮する。だが、それを認めるのは少し恥ずかしい。
「そうだ、伊織さんも運動してみません?」
「え?」
「健康にもいいですし、どうですか?」
「……じゃあ、ちょっとだけ」
雪翔が置いたダンベルを持ち上げようとすると、伊織がそれを止めた。
「ストップ。慣れてない人がダンベル使うのは危ないんで、簡単な筋トレにしましょう。そこに膝立てて座って、腹筋使って上体起こしてみてください」
「う、うん……」
「俺が足支えてるんで。いきますよ。いーち……」
雪翔の言うとおりに座って、上体を起こそうとする。だが少し浮いただけで、全く起き上がらない。
「う、う……!」
「伊織さん? 起きれます?」
「む、むり……!」
伊織はばたりと倒れ込んだ。まさかここまで筋力がないなんて。
「はーっ……はーっ……」
「……壊滅的ですね……」
「や、やっぱり普段から運動しないとだめなのかな……走り込みとかした方がいい……?」
「なんか伊織さん、ひとりでランニングして迷子になりそうなんでやめましょう」
「僕そこまでぽんこつじゃないよ!?」
「うーん……あ、じゃあ、この動画やってみましょうか」
雪翔がそう言いながら再生したのは──。
『ラジオ体操第一ー!』
「って、なんでラジオ体操!?」
「馬鹿にならないんすよこれ。とりあえず第三までやってみてください。伊織さんにちょうどいいと思います」
「う、うん……」
伊織は動画を見ながら、ひとまずラジオ体操をやってみることにした。
そして、十分後。
「ぜーっ……はー……」
第三までやり終わった伊織は、床に倒れ込んでいた。子どもがやるものだと高をくくっていたのに、こんなに体力を使うものだったのか。
「お疲れ様です。伊織さん、水ちゃんと飲んでくださいね」
「うん……ありがと……」
雪翔が渡してくれた水を飲むと、一気に生命力が戻ってくる。
「はあ……すっごく汗かいた……」
ぱたぱたと手で風を仰いでいると、雪翔がぺろりと首筋を舐めてきた。
「ひぁっ!?」
「汗かいてる伊織さん、エロ……すっげぇグッときます」
「ちょ、雪翔くん! 汗舐めちゃだめ!」
「ね、このままふたりでシャワー浴びましょ?」
雪翔は伊織を抱き締め、キスをひとつ落とす。この後どうなるかは容易に想像できる。
「……それ、シャワーだけで終わる?」
「さあ、どうでしょうね?」
意地悪そうに笑う雪翔は、ずるい大人の顔をしていて。
「……雪翔くんのすけべ」
伊織はそう言いながら、雪翔を引っ張って風呂場に向かったのだった。
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