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第33話 見つけたもの
ある日、家の近くのスーパーの帰り道、張り紙があるのを見つけた。
「パート募集中……」
どうやら家事代行の会社らしい。料理・掃除が得意な人大募集とある。
家からも近いし、徒歩で通える距離だ。
「やってみたいけど……ううん……」
伊織は金を稼いだ経験がない。家事なら得意だし、電車に乗らなくていいなら働けるのかもしれない。
「雪翔くんに相談してみよう……」
伊織はその張り紙の写真を撮って、帰り道を歩き出した。
そして、雪翔が帰って夕飯が終わったタイミングで話を切り出した。
「ねえ雪翔くん、今日、こんな張り紙見つけたんだ」
「ん、なんですかこれ? パート募集中?」
「家事代行の会社なんだって。スーパーに行く途中で見つけて、徒歩で通えそうだからやってみたいなあ、って。でもそしたら、家のことする時間は減っちゃうから……」
「何言ってるんですか、気にしないでください! 伊織さんはやりたいことやったらいいんです!」
「雪翔くん……」
伊織はぽすん、と雪翔の胸に身体を預けた。
「……ありがとう、本当に」
「確かに家事代行って伊織さんにぴったりですよ、きっとうまくいきます!」
「そうだね、じゃあ明日、電話してみる」
「はい。でも無理はしないでくださいね? 約束です」
雪翔はちゅ、と伊織の額に口づける。ああ、なんて優しい子なのだろう。伊織は彼に寄り添って、そっと手を繋いだ。
それから数日後。
「じゃ加古村さん、今日からよろしくね」
「はいっ……よろしくお願いします!」
一度面接をしたら、社長にすぐに採用と言われた。会社で働くことに慣れていない伊織に、色々なことを教えて働けるようにしてくれた。
「現場では車で行くからね。僕が運転するから」
「社長も現場に行くんですか?」
「僕、現場主義だからねえ」
「おはようございまーす!」
事務所に入ってきたのは五十代くらいのふくよかな身体の五十女性だった。
「山田さんおはよう。こちら、今日から入る加古村さん」
「加古村伊織です。よ……よろしくお願いします」
「ああ、新しく採用したっていう! あたし、山田。山田由美子。よろしく! それにしてもすごい美人だね!」
「ありがとうございます……」
「さ、じゃあ早速現場に行こうか。加古村さん、仕事はやりながら教えるから、必要ならメモ取ってね」
「はい!」
仕事は実にやりやすかった。主に伊織の担当は掃除で、炊事はレシピを覚えてからでいいと言われた。窓ガラスを拭いていると、キッチンで料理をしている山田が声をかけてくる。
「加古村さんってひとり暮らしなの?」
「あ、いえ……恋人と一緒に暮らしてます」
「へえ、恋人と! いいねえ」
「ええ、すっごく優しくて、かっこよくてかわいいんです」
「あら惚気けられた。うちの旦那もいい男よ〜。あたし、旦那と旅行行くために働いてるようなもんだから」
雪翔以外の人間と会話をするなんて新鮮だ。社長も話に加わって、なごやかに話をしながら仕事を進めていった。
数時間後、仕事を終えて帰路につく。帰り道の空は、いつもより輝いて見えた。
帰ったら雪翔に何から話そう。仕事のこと、先輩のこと。
「早く帰ろうっと……」
伊織の足は、いつもより軽かった。
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