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第34話 本当の初任給

「加古村さん、これ給与明細。今日振り込んだから確認しておいてね」  働き始めてから約一ヶ月。社長から手渡された紙には、それなりの額が書いてあった。 「わ……」 「あれ、どうしたの? 思ったより少なかった? ごめんねえ薄給で。これから上げていきたいと思ってるんだけど……」 「いえ……お金稼ぐの、初めてなので……本当に貰えるんだなあってちょっとびっくりして……」 「あ、確かに会社勤めしたことないって言ってたもんね」 「おっ、加古村さんお給料出たの?」  着替えを終えた山田がやってくる。彼女とも随分仲良くなった。 「はい、これ山田さんの給与明細」 「ありがとうございます、社長!」 「お給料……何に使えばいいのかな……」  雪翔に家賃や食費は払うものとして、他の使い方がわからない。 「旅行とか行ってみたら? 旦那とよくふたりで行くけどいいわよ〜。千葉とかだったらそこまで遠くないし」 「旅行……いいですね! 誘ってみます!」  そういえばふたりで泊まりで出かけたことはなかった。帰ったら彼に提案してみよう。 「じゃあ今日の仕事はここまでね。ふたりとも、タイムカード押し忘れないように」 「はい、お疲れ様です」 「お疲れ様ですー!」  山田と事務所を出ると、ぽつぽつと雨が降っていた。 「ありゃ降ってきたかー。加古村さん、よかったら車乗ってく?」 「え、いいんですか?」  そんな会話をしていると、遠くから傘をさした誰かがやってきた。 「伊織さん!」 「雪翔くん!? なんでここに……」 「今日、仕事早上がりにしたんですけど、雨降ってきたから迎えに来たんです」 「ありがとう……」 「加古村さん、例の恋人!? すっごいイケメンじゃない!?」 「あ、はい……雪翔くんです」 「橘雪翔です。はじめまして」 「あたし山田。加古村さんの先輩ね。よろしく!」  山田が差し出した手を雪翔は握り返す。 「山田さん、ひとつお願いがあるんですけど」 「ん? どうしたの?」 「もし、職場で伊織さんが男の人に言い寄られたりしたら助けてほしいんです。伊織さん、男に絡まれやすいんで」 「ちょ、雪翔くん!?」 「あはは、加古村さん美人だもんねえ! いいよ、乗った! 社長は愛妻家だから心配ないけど、たまに若い男の子とかバイトで入ってくるからね」 「すみません、お願いします」 「心配性のいい恋人だね、加古村さん?」 「雪翔くん、僕も一応男だから! 大丈夫だよ!」 「いーおーりーさーん? 変な男ってのはどこにでもいるんです。心配しすぎるくらいがちょうどいいんですよ」 「そうそう加古村さん、彼氏君の言うとおりだから。本当に」 「うう……」 「ほら伊織さん、転ぶと危ないから手繋ぎましょ」 「う、うん。じゃあ山田さん、お疲れ様です!」 「はーい、お疲れー」  雪翔と手を繋いで、ほんの十分の帰り道を歩く。 「雪翔くん、今日のごはんオムライスでいい?」 「やった、大盛りでお願いします!」  ひとつの傘を分け合うふたりは、まるで夫婦のようだった。

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