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第38話 傍にいること

 今日は雪翔とのデートの日だ。前々から『この日は絶対に空けておいてください』と言われ、朝からデートをしたいと言われていた。  朝食を食べ終わり、ふたりで家を出る。雪翔と一緒だと電車で痴漢に遭うこともないので、安心できる。  雪翔が連れて行ってくれたのは銀座だった。昔はよく親に連れられて来たものだ。 「雪翔くん、行きたいところあるの?」 「はい。服を買いたくて」 「お洋服? 珍しいね」 「はい、今日のデートはドレスコードがあるので、俺と伊織さんの分を」 「ドレスコード……?」 「まあまあ、さあ行きましょうねー」  デパートに行き、雪翔はスマートカジュアルな服を選んだ。伊織は自分の分を支払おうとしたのに、デートだからと払わせてくれなかった。 「むう、雪翔くんの頑固者」 「伊織さん、拗ねないでください」 「お昼は絶対僕が出すからね!」  雪翔との時間はあっという間だ。何時間一緒にいても飽きることがない。昼食を終え、街をぶらつき、夜に差し掛かる頃に雪翔にエスコートされてとある場所についた。 「ここ……ホテル?」 「はい、ここで夕飯にしようかなって」 「だからこの服買ったんだね、納得」  雪翔は予約をしていたらしく、窓際の景色がよく見える席に通される。 「わあ……綺麗……」 「へへ、ちょっと奮発しちゃいました」  出された料理はフレンチのコースで、どれも絶品だった。伊織では決して作れないような綺麗で洗練されたものばかりで、存分に舌鼓を打つ。  デザートのジェラートを食べ終わると、雪翔がひとつの小さな箱を取り出した。 「伊織さん、これ。いつもお世話になってる、感謝の気持ちです」 「え……」  ゆっくりと箱を開くと、そこには小さくて可愛らしい指輪がひとつ。 「本当は結婚指輪にしたかったんですけど、まだ金が貯まってなくて。それまでのつなぎってことにしてください」 「雪翔、くん……」  ぽろりと涙が零れる。こんなに、こんなに伊織を大事にしてくれるなんて。 「僕……こんなに幸せでいいの……? 僕が君にできることなんて、ほんの少ししかないのに……」 「俺は伊織さんが傍にいてくれるだけで幸せ満点なんですよ」  雪翔は幸せそうに微笑んで、指輪をはめてくれる。左手の、小指に。 「伊織さん、これからも俺と一緒にいてください」 「うん……うんっ……!」  涙を拭って、雪翔に微笑む。すると、雪翔は何かをテーブルの上に置いた。 「それで、あの……実は部屋、取っておいてあるんです」  それは、ホテルの鍵だった。つまりこれは、お誘いを受けているということで。 「……じゃあ今日はお泊まりデートってこと?」 「伊織さんが、嫌じゃなければ」 「……ふふ、じゃあお部屋行って、いっぱいいちゃいちゃしようか」  伊織の指には、そこに在ることが当たり前のように、美しい指輪が収まっていた。

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