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第43話 心の傷
「ん……」
深夜、喉の乾きで目が覚める。伊織はむくりと起き上がって、キッチンに向かった。
コップに水を注ぎ、煽る。夜もかなり暑くなってきた。ベッドの傍にペットボトルでも置いておいた方がいいだろうか。
「変な時間に起きちゃったなあ……」
ベッドに入っても寝られるだろうか。そう思った時、どたばたと焦った足音が聞こえた。
「?」
勢いよく扉が開いて、そこには真っ青な顔の雪翔がいた。
「雪翔くん!? どうしたの、そんなに急いで……」
「いた……」
「え?」
「起きたら……伊織さん、いなくて……どっか、行っちゃったのかって……また、どっかに……」
雪翔は震える手で伊織を抱き締める。
「俺の、手の届かないところに……二度と、会えなくなるんじゃないかって……」
「雪翔くん……」
ぐす、と鼻をすする音が聞こえる。伊織が家出をしたことは、そんなにも彼を傷つけていたのか。
「やです、伊織さん……どこにもいかないで……ずっと、ずっと傍にいて……なんでもしますから……」
「大丈夫だよ、どこにも行かないよ。だから泣かないで……」
「ひっ、う、うぅっ……! いおりさ、いおりさぁんっ……!」
「ごめんね、起きたらひとりでびっくりしたよね。大丈夫だよ、ほら一緒にベッドに戻ろう?」
伊織は雪翔を宥めながら寝室に戻る。彼にベッドに入るよう促すと、抱き寄せられてベッドの中に引きずり込まれる。
「わっ」
「伊織さん……ずっとここにいて……俺の傍から離れないで……」
「ここにいるよ。僕の居場所は……君の隣だけなんだから」
こつんと額を合わせ、大きな幼子に語りかける。なんだか昔に戻ったみたいだ。ぽんぽんと背中を叩いて、雪翔の涙を拭う。
「ずっと、ずっと一緒にいさせて。君が僕の生きる理由だから……」
「いおり、さん」
優しく唇を奪われる。頭を撫でながらそれを受け入れると、やがて雪翔は寝息を立て始めた。
「……怖かったね」
もう、二度と離れはしない。誰よりも大切な、太陽のような君。愛しい存在を抱き締めながら、伊織も夢の中に落ちていった。
「ん……」
朝、目覚めると雪翔に抱き締められていた。彼の目元はすっかり赤くなってしまっている。
「冷やさないと駄目だね……」
キッチンに向かおうとしたが、雪翔の拘束は固くて抜け出せない。
「雪翔くん、雪翔くーん」
「んん……」
「雪翔くん、キッチン行かせてー……保冷剤取ってくるだけだから……」
「ん……」
雪翔はまだ起きる様子がない。仕方がない。彼が起きるまでは腕の中に閉じ込められるようだ。
「……雪翔くん、だいすきだよ。僕は、一生君の傍にいるからね」
ちゅ、と口づけを落とすと、雪翔は眠りながらふにゃりと微笑んだ。
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