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第45話 怒り
ある日、掃除をしているとチャイムが鳴った。
「あ、はーい」
「僕出るよ」
ドアを開けると、そこには。
「……は? アンタまだいたの」
雪翔の友人──姫野がいた。
「姫野……さん……」
「身の程弁えろって言ったの覚えてないの? オッサン」
「っ……」
「まいいや、雪翔いる?」
「伊織さん、誰が……。! 姫野!」
「あっ雪翔〜! 遊びに来たぜ〜!」
「ッ、てめえっ!」
雪翔は姫野の可愛らしい顔を容赦なく殴った。姫野の身体が地面に叩きつけられる。
「ゆ、雪翔くん!?」
「ってぇ……何すんだよ雪翔!」
「お前……伊織さんに何言った?」
「は?」
「伊織さんが急に出て行ったの、お前が来たすぐ後だったんだよ! お前が伊織さんに何か言ったんだろ!」
雪翔は姫野の胸ぐらを掴んで、人を殺しそうな目で睨む。
「ひ……」
「雪翔くん、駄目だよ! 落ち着いて!」
「何言った? さっさと答えろ!」
「わ、若いやつに手出して恥ずかしくないのか、俺に譲ってさっさと別れろ、って……」
「それだけか?」
「身の程弁えろって……で、でも本当のことだろ!? 七歳も年下のやつと付き合うなんて、どう考えてもおかしい──」
雪翔がまた姫野の顔に拳を叩き込む。鼻からは血が出ていた。
「違う。手出されたんじゃねえ。俺が伊織さんに惚れて、手出してるんだよ。何も知らねえくせに、ぽっと出のやつが口挟むんじゃねえ」
「ゆ、雪翔……なんで……そんなやつ……」
「俺は五歳で伊織さんに惚れてんだ、お前なんて視界に入ってねえんだよ!」
「そ、んな……」
姫野は涙目になっていた。雪翔は姫野を突き飛ばし、伊織を抱き締める。
「二度と俺の前に現れるな。お前なんて友達じゃない。ただの邪魔者だ」
「……姫野、さん」
伊織はゆっくりと、決意を口にする。
「貴方の言う通り、僕はつまらない人間です。でも、雪翔くんは僕じゃないと嫌だって言ってくれたんです。だから……貴方に何と言われようとも、彼の隣にいます」
「っ……」
「じゃあな。もう顔見せんなよ」
「雪翔、待っ……!」
雪翔は容赦なく扉を閉める。あの雪翔が、優しい雪翔が、人を殴るなんて。
「ゆきと、く……」
「……すみません、怒りが、抑えられなくて」
雪翔は震えていた。伊織に縋るように、強く強く抱き締められる。
「伊織さんが、俺の全部なんです。伊織さんが傍にいてくれないと、何も意味ないんです……」
その瞳は、まるで迷子の子どものようだった。
「どこにも行かないで……傍にいさせてください……」
「……大丈夫。僕だって、もう君から離れられないから」
雪翔の頬を包んで、口づけをひとつ。一度は別れを決意したけど、やはり離れることなんてできなくて。
「僕の全部は、君のものだよ。……だから、ずっと一緒にいさせて?」
互いの体温で、想いを確かめ合う。深く、重い愛に、伊織は自分の身体を沈めていった。
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