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命拾いしたな!①
今日は中間テストの結果が張り出される日だ。一応進学校と銘打っている三美学園では、テストの結果を一階にある大きな掲示板に張り出すのが恒例となっていた。珍しく都城と登校をした蓮斗は、デカデカと張り出されテスト結果を見つめながら目を疑った。
学年総合で一五位だったからだ。総人数が三百人を超えるなかで、毎回ドベ争いをしていた蓮斗は快挙ともいえる高順位に自分でも驚いていた。三度見、四度見と何度も確認する。都城は相変わらず成績が良く、三位という結果だった。
「カンニングでもしたか?」
「怒るよ!」
「冗談だって。本当にすごいじゃん。おめでとう」
「っ、ふ、ふん!僕にかかればこのくらい当たり前なんだから。褒められたって嬉しくないもん」
そんなことを言いながらも、物凄く喜んでいる蓮斗の口角は、言葉とは裏腹に思いっきり緩んでいた。優秀だったアリステラの記憶が、蓮斗の飲み込みの悪さをカバーしてくれたおかげかもしれない。それに、あれだけ皆で勉強したのだ。結果がしっかりと出たことが本当に嬉しい。
満足した蓮斗は都城と分かれて、自分の教室へと向かう。横を通り過ぎていく生徒一人一人に順位を自慢していきたいくらいだ。そんな浮かれ気分のまま教室へと辿り着く。狭山にでも自慢して、悔しがる顔でも見てやろうなどと考えながら足を踏み入れた。瞬間、クラスメイトの視線が一気に蓮斗へと突き刺さる。
妙な胸騒ぎを覚えつつも、席へと着く。そうすると、黒板の前に集まっていたクラスメイトが口々になにかを話し始めた。時々蓮斗の名前が聞こえてくる。違和感を感じて、蓮斗も黒板の方へと向かった。
「さっきから僕のことを話してるみたいだけど、なにか用でもあるわけ?」
手近なクラスメイトに声をかける。振り返った彼が蓮斗へと厳しい視線を向けてきた。狭山だ。
「香波、中間テストでカンニングしたって本当なわけ?」
「はあ?そんなわけないだろ!」
「でも、それ……」
狭山が指差した先を見ると、黒板に写真が一枚貼られているのがわかった。その下には、申し訳程度に『香波蓮斗がカンニングしていた』と書かれてある。クラスメイトの波を掻き分けて、写真を黒板から引っぺがした蓮斗は、マジマジとそれを確認する。写真に写っている生徒はたしかに背格好だけでいえば蓮斗にそっくりだ。職員室でテストの答えを見ているシーンがバッチリと写されている。本当に不自然なまでに綺麗に撮られた写真だ。けれど、顔は写っておらず、蓮斗だと言われればそう思い込んでしまう程度。証拠にはやや欠ける。
蓮斗は鼻を鳴らして笑うと、写真を狭山の手に押し付けた。
(ようやく動き出したんだね)
あきらかに志乃の仕業だろう。中間テストの結果が張り出される日に実行に移すとは思わなかった。けれど、蓮斗は案外冷静だ。狼狽えていては敵に付け込まれてしまう。それよりも、この騒ぎを収めることが先決だろう。写真が配られたのが教室だけとは限らないのだから。
「僕はカンニングなんてしてないよ。勉強した結果だし、悪いことはしていないんだから後ろめたいことなんてなにもない」
「どうだろうね。性悪なおまえならやりそうだけど」
反論してきた狭山の頬を思いっきりつねってやる。そうすると、痛みのせいで涙目になった狭山が謝罪しながら、手を離してほしいと言ってきた。素直に離してやると、また睨まれる。
「次はビンタでもしてやろうか?」
脅すと、狭山は口を閉ざして蓮斗から距離を取った。相変わらずな態度の狭山にも呆れるけれど、こんな悪質な手を打ってくる志乃にはもっと呆れる。そこまでしてでも蓮斗を追い詰めたいのだろう。アリステラのときには犯人すらわからずやられ放題だったけれど、今回は違う。弱く世間知らずのアリステラだった頃を思い浮かべて、拳を握りしめた。
──輝は僕のことを信じてくれるのかな。
蓮斗はふとそんな不安に駆られる。きっと今回の件が広まるのも時間の問題だ。自然と輝の耳にも話は届くはず。いままで成績が良かったとは到底いえない蓮斗のことを、周りは疑惑の目で見てくるだろう。そうなったとき、蓮斗の味方になってくれる人は果たしているのだろうか?
考えれば考えるほどに嫌な気分になる。手足が冷えて、冷や汗が背筋を伝った。平気だと思っていても、周りから浴びせられる非難の眼差しだけは怖い。アリステラの頃に嫌という程に味わった苦痛だ。忘れたくとも忘れられない。
『香波蓮斗は職員室に来るように』
校舎内に鳴り響く放送。それが戦いの始まりの合図のようにも聞こえた。精神を落ち着かせるように深呼吸を繰り返すと、蓮斗は真っ直ぐに顔を前へと向けて教室を出る。大丈夫。きっとどうにかなる。そう思った瞬間、蓮斗の脳内に輝の顔が浮かんで消えた。
こんなときに無性に会いたくなる。きっと、それは無意識的に発した蓮斗のSOSだったのかもしれない。
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