24 / 62

命拾いしたな!②

 職員室についた蓮斗を待ち受けていたのは、担任からの厳しい追求だった。閉鎖された男子校である三美学園では、毎年なにかしらの問題が絶えず、教師たちも神経質になっている面があるからだろう。 「これはどういうことなんだ」  担任の手元には、先程教室で見たものと同じ写真が置かれてある。この写真に写っているのが、蓮斗だと疑ってもいない様子だ。ため息をつきたいのをグッと我慢する。こういう場合は謙虚な態度を取らなければならない。アリステラのときのように、罪など犯してはいないの一点張りでは効果などないとわかっているからだ。 「僕にもわかりません……。たしかに僕はいつも成績が悪いけれど、今回は猛勉強して順位を上げることができたんです。それなのに、こんな写真が……悲しいです」  瞳を潤ませて、涙ながらに訴える。曲がりなりにも可憐な美少女のような容姿をしている蓮斗のしおらしい姿に、担任の疑いの目が少しだけ和らいだ。内心でしたり顔を浮かべながら、更に畳み掛けようとしたとき、見計らったかのように志乃と見知らない生徒が入ってきた。黒髪にあどけない顔をした小柄な男子生徒だ。 「やあ、香波君」 「……吉澤先輩がどうしてここに?」  蓮斗の質問には答えずに、担任へと視線を向ける志乃。悲しげに眉を寄せて、守ってあげたくなるような儚げな美少年のような表情を浮かべる。 「先生に伝えたいことがあって来たんです。僕も本意ではありませんが、香波君のカンニングの写真について、こちらの佐々木君が事情を知っているようだったので連れてきました」  なにが本意ではないだ。今すぐにでも志乃が企てたことだと言い触らして回りたい。けれど、教師からも一目を置かれている志乃が相手だ。蓮斗の話を信じてくれる人など居ないだろう。 「話してみなさい」  担任に促されるように佐々木が一歩前に出て口を開いた。蓮斗は警戒しながらも、自分が不利な状況であることをひしひしと肌で感じている。 「実は、テスト期間中の放課後。香波君が先生たちの居ない隙に、職員室に忍び込んでいるのを見たんです。驚いて、慌てて写真を撮りました。それはそのときの写真です」 「っ、人違いです」  思わず声を荒げた蓮斗に担任が厳しい視線を向けてきた。完全に志乃と佐々木の意見だけを信じている目だ。その嫌な視線を前世でも経験したことがあった。  人は一度そちらが正しいと信じ込むと、どれだけ弁明しても聞き入れてはくれない。信じたいことだけを信じ、ろくに調べもせずに善悪を決めてしまう。その状況にだけは陥りたくなかった。 「香波、正直に話せば停学処分だけで済むかもしれない。嘘をつくなら退学もありえるんだぞ」  担任に諭されるけれど、蓮斗はカンニングなどしていないのだ。だから、話すことなどなにもない。窮地に陥ったときこそ、冷静になりグッと顔を上げて前を見ていよう。自分に言い聞かせ、蓮斗は顔を上げた。 「……それなら、一つだけ佐々木君に尋ねたいことがあります」 「な、なに?」 「放課後っていうけれど、それは何日の何時頃だったの?」 「そ、それは……」  本当に見たのなら答えられるはずだ。けれど、佐々木は考え込むように視線を彷徨わせている。予想通りの反応に、蓮斗は少しだけ安堵した。そこまでは志乃も指示していなかったのだろう。 「僕はテスト期間が終わるまで、放課後は図書室で勉強をしていたんだ。職員室に行った覚えもない」 「で、でも!俺は本当に見たんです!」  慌てて担任へと助けを求める佐々木を蓮斗が睨む。けれど、対象的に志乃だけは相変わらずの余裕の笑みを浮かべていた。 「蓮斗君、それを証明してくれる友達や先輩は居るのかい?」 「……っ」  志乃はわかっているんだ。蓮斗が都城や輝を巻き込みたくないという気持ちを。だから、余裕の態度を崩さない。蓮斗が二人の名前を出せば、巻き込んでしまう。きっと二人なら迷惑とは思わないだろう。けれど、蓮斗は自分のことは自分で解決したいのだ。それに、輝の名前を出しても、担任が信じてくれるとは思えない。 「居ないみたいだね」 「図書委員とか、他にも人はいっぱいいただろう」 「いちいち生徒一人一人を覚えていると思うのかい?」  志乃の言うとおりだ。蓮斗が図書委員でも、覚えてなどいないだろう。担任の視線も更に厳しいものへと変化してきている。けれど、諦めてやってもいない罪を認めることは絶対にしたくない。頑固な蓮斗は、負けることも、大切な人達を巻き込む選択もできないでいた。 「はぁ……わかった。とりあえず他の先生たちとも話し合いをして今後どう対処するべきか決める。今回はいったん教室に戻れ」  担任の言葉に全身から力が抜けて、頭が真っ白になる感覚がした。無実の罪で断罪されたときのような敗北感と絶望感に襲われる。思考が回らず、小さく頷くことしかできない。そんな蓮斗の様子を見ていた志乃が一瞬嬉しそうに笑みを浮かべたのが視界に映った。

ともだちにシェアしよう!