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気づき
教室に戻ると、嫌な視線が突き刺さる。全員が蓮斗のカンニング疑惑を真に受けているのだろう。それでも、蓮斗は落ち込んだり、うつむいたりはしなかった。堂々と自分の席に腰掛け、ゆっくりと周りを見渡す。目があったクラスメイト達が気まずそうに次々と視線をそらしていく。
「言いたいことがあるなら直接言ってくれて構わないからね。僕には後ろめたいことなんて一つもないんだからさ」
怯えている方が怪しく見えるものだ。蓮斗の言葉を受けて、クラスメイトがざわつく。そんな中、狭山が蓮斗の前へと歩いてきた。真顔のせいかなにを考えているのかはわからない。手には数枚のルーズリーフを持っている。
「本当にカンニングしてないわけ?」
「当たり前でしょ。僕は可愛くて努力家なんだ。そんなことするはずがないだろう」
「……ふーん。変わったね。前の香波みたいにめそめそしてたら腹が立ってた。まあ、今もムカつくのは変わらないけどさ」
手に持っていたルーズリーフを手元へと置いてくれる。そこには先程参加できなかった授業内容が綺麗にまとめられ綴られていた。
なにか企みでもあるのだろうか?
疑いを持った蓮斗は訝しげに狭山へと視線を投げかける。
「別になにも企んでなんていない。どうせ今回のことにはあの人が関わってるんだろうし」
後半の言葉は蓮斗にだけ聞こえるほどの小さな声で呟かれる。そこでようやく気がついた。狭山は志乃に命令されていじめをしていたことを気にしていたのだと。カンニング騒ぎを耳にした狭山は、まず初めに志乃の顔を思い浮かべたのではないだろうか。だからきっと、このルーズリーフは謝罪の意味も込められているのだろう。
今更こんなことをされても許す気にはなれない。ただ、狭山も志乃に従うのは不本意だったのかもしれないと思うと、責める気にもなれなかった。
「弱みは見せないほうがいいよ。僕は煙草を吸ってるところを見られてしまってさ。自分でも馬鹿なことしてたと思う」
耳元に顔を近づけながら狭山が警告してくれる。本当に馬鹿だと思いつつも、その警告はありがたく心の中にしまうことにした。
「ありがたく受け取っておくよ」
ルーズリーフを手に取り伝えると、狭山は席へと戻っていく。几帳面にまとめられたルーズリーフの内容を見つめながら、蓮斗は自分の力だけではできることの限界があるのだと、実感させられた。
(折れるしかないか……)
誰も巻き込みたくはなかった。なにもかも一人で背負い、一人で解決しようと決めていた。自分のために平穏な生活を手に入れたいと願っていたけれど、相手がここまで周りを巻き込むというのなら、蓮斗は大切な人たちと自分のために戦いたい。
だから、意地を張り、一人で解決する選択は諦めよう。そもそも単純なことだったのだ。このルーズリーフのように、自身では知らないことや解決できないことを誰かが補ってくれる。それがどれだけ力になるのかを、前世からずっと独りぼっちで生きてきた蓮斗には理解するのが難しかった。
でも、今なら……。頼れる人がいる今の現状なら、きっと大丈夫。輝と都城にすべて話そう。信じてもらえないかもしれない。とても怖い。それでも、蓮斗は二人のことを信頼している。だから、伝えよう。助けを求めることは恥ずかしいことではないのだから。
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