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終わらない戦い

「疑ってすまなかった」  放課後、輝と都城と一緒に担任へとカンニングの件について話しに向かった。追求されるかもしれないと覚悟していたものの、輝と都城の証言のおかげか、こうしてあっさりと謝罪をしてもらうことができた。蓮斗としてはこれで終わりだとは確信できない。きちんと犯人を見つけなければ、安心できないからだ。けれど、一先ずは疑いを晴らすことはできた。そのことに安堵する。 「そうだ安藤。先程の話を吉澤にもしてやってくれないか。今回のことをかなり気にしていたから、二人で話し合って犯人の心当たりがあればまた教えてくれ」  担任の言葉に蓮斗の心臓が嫌な音をたてた。たしかに周りから見れば、問題を解決しようとする志乃の姿は、真面目で熱心にすら見えるのかもしれない。本当は志乃が仕組んだことだとしても、それを担任が知る由もないから。  拳を握りしめかけたとき、輝の手が背をそっと撫でてくれた。そのおかげか、身体から力が抜けていく。輝も蓮斗が志乃を意識していることに気がついているのだろう。さりげない気遣いに感謝する。  話を終えて、三人で職員室を出た。都城はこれから部活があるらしく、蓮斗達とは逆方向へ駆け足で進んでいく。わざわざ蓮斗のために駆けつけてくれたのだ。今度お礼をしようと決め、その後ろ姿を見送る。姿が見えなくなると、都城が駆けていった方に背を向けて歩き出す。  しばらく進んでいると、志乃が前から歩いてきた。すごくデジャヴを感じる。けれど、今は輝が隣に居てくれるため、蓮斗は冷静な面持ちで前を見据えることができた。マダムトーリーも言っていた。敵と相対したときほど、相手の目を真っ直ぐに見なさいと。だから、蓮斗は志乃から決して目を離さない。 「やぁ、こんな所で会うとは思わなかったな」 「蓮斗の件で先生と話をしてきたんだよ」 「あぁ……。生徒会の仕事を急いで片付けていたのは彼のためだったんだね」  視線が蓮斗へと向けられる。涼しげな眼差しの奥に、敵意を含ませていることが伝わってきた。輝の前だからか本性を抑えつけているようにも見える。一歩前へと出た蓮斗は、志乃に向かって力一杯の笑顔を浮かべて見せた。 「カンニングの件は輝と友達が助けてくれたので、無実だと証明できました。でも、違うと言っても聞いてもらえなかったうえに、疑われてしまってすごくショックだったんです」  「……そうだったんだね」 「先輩も僕が犯人だと思っていましたか?」 「なにが言いたいのかな」  微かに本性を剥き出しにしながら、志乃が蓮斗に尋ねてきた。睨まれていることは伝わってくるけれど、引く気はない。 「佐々木君のことは信じて、僕のことは信じてくれなかったから悲しかったんです」  わざとらしく瞳を潤ませると、今度こそ思いっきり睨みつけられてしまった。その姿を輝もしっかりと見ている。 「どうして蓮斗を睨むんだ?まずは疑ってしまったことをしっかりと謝罪すべきじゃないか?」  助け舟を出すかのように輝が蓮斗の援護をしてくれる。手が蓮斗の腰に回される。寄り添いながら、味方だと教えてくれているような気持ちになった。その優しさに沢山の勇気をもらえる。 「輝はどうして僕じゃなくて香波君のことを信じるの!」 「蓮斗が無実だと知っているからだよ」 「っ、謝罪はしない。それにこちらには佐々木君の証言と写真もあるんだ!」  意地でも蓮斗に頭を下げたくないのだろう。必死に蓮斗の無実は晴れていないと主張する志乃のことを、輝が悲しそうに眉を垂れさせながら見ていた。 「写真は俺も確認したけれど、顔は写っていなかった。背格好だけでは誰のことなのか判断はつかないだろうね。似たような容姿の子は沢山いる。例えば、佐々木君も蓮斗とは似たような背格好だったはずだよ。もう一度しっかりと話を聞くべきだと思うな」 「それは……でもっ」  輝の言うとおりだ。蓮斗と佐々木は似たような髪色と背丈をしている。後ろ姿だけ見れば、どちらなのか判別は難しいかもしれない。今回のことは志乃が仕組んだことだ。とすれば、佐々木も狭山のように脅されている可能性が高いと蓮斗は推測した。  もしも、狭山がカンニングをしていたと過程し、志乃がその姿を写真に撮ったとする。そうすれば、脅しにもなり蓮斗を貶めるための材料も手に入って一石二鳥なのではないだろうか。  あくまでも推測の域から出ないものの、蓮斗にとっては答え合わせができたような心地だった。志乃の執着は恐ろしい。そこまでしてでも蓮斗アリステラを陥れたいのだろう。 「……僕は謝罪なんてしないからね」  口篭ったあと、絞り出すように志乃がもう一度呟いたのが耳に届いてきた。輝がなおも志乃を咎めようとしたが、それよりも先に志乃は背を向けて走り去ってしまう。 (あの背中に『僕が犯人です』っていう張り紙でも貼ってやりたいくらいだ!ばーか!ばーか!)  蓮斗は志乃の背に向かって、内心であっかんべーをしながら悪態つく。そのおかげか少しだけ心がスッキリした。 「ごめん。志乃には俺からもう一度謝るように言ってみるから」 「ううん。いいんだ。僕は無実だって証明されただけで充分。それに、輝と都城が信じてくれてるだけでお腹いっぱいだよ」 「あはは、そういう元気で前向きな蓮斗のことが本当に好きだって思うよ」 「っ、そういうのは今求めてないから!!」  突然好きだと言われて恥ずかしくなってしまった蓮斗は、プイッといつものごとくそっぽを向いてしまう。そんな蓮斗のことを抱き寄せて、輝は心底楽しそうに止まらない笑みをこぼし続けた。  その笑い声を聞いていると、蓮斗は、荒れていた大地が平坦になり太陽の日が差すような心地になる。志乃との戦いはまだ終わらないだろう。今回のことで更に恨みを買っただろうから。それでも、平気だと確信できる。蓮斗の傍には、常に輝が寄り添ってくれている。それにお守りのボールペンだってあるから。 「輝、キスしてよ」  もっと元気が欲しくて強請ってみる。そうしたら、嬉しそうに輝が蓮斗へとキスをしてくれた。そこから勇気の元が流れ込んでくる気がする。幸せいっぱいの胸のうちを、曝け出せてしまえたらいいのにと蓮斗は心から思った。

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