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僕も……②
『香波蓮斗は日直日誌を早く持ってくるように』
担任の声だ。放送された内容でようやく日直日誌の存在を思い出した蓮斗は、慌てて服を着直すと、最後の一行を高速で書く。それから、輝の方を睨んで、日誌を手に取った。ついでに軽くチョップも食らわせてやる。
「怒られたらあんたのせいだからね!!」
「そのときはウィンナーを沢山持っていくよ」
「っ、約束だから!破ったら一週間口を聞いてあげないから」
怒りながら職員室へと向かう。きっと教室の掃除は輝がしてくれるだろう。それくらいしてくれなければ割に合わないと蓮斗は思う。
職員室に着くと、担任が仕事をしながら待ってくれていた。日誌を手渡すと、少しだけ小言を浴びせられたものの、すぐに解放してくれる。
(……うぅ~、まだ身体が熱い)
慌てていたから忘れていたが、日誌を届け終えると先程触れられていたときの熱を思い出してしまう。輝に触れられること自体は嬉しい。けれど、羞恥心や緊張も毎度ハッピーセットのごとくついてくるものだから、困ってしまう。いつか慣れてしまうのかもしれない。けれど、今は慣れる気など一ミリもしなかった。
教室に戻ると、輝が蓮斗の机に手を添えて立っているのが見えた。声をかけることに躊躇してしまうような、切なげな雰囲気を醸し出している。眉を寄せて、空いている片手で顔を覆いうつむいている輝から、蓮斗は目を離せずにいた。まるで、なにかに懺悔しているようにも見えたからだ。
扉にかけていた手に力が入り、微かに扉が開く。その音で輝が蓮斗に気がついた。悲しみを纏っていたはずなのに、一瞬で雰囲気がいつもの輝へと戻る。心に引っかかる違和感に、蓮斗は口元を一文字に引き結ぶ。胸が嫌なほどにざわついていた。けれど、その原因はわからない。
「おかえり」
「う、うん。あの……」
「帰ろうか。片付けはしておいたから」
床を見ればたしかに綺麗になっている。けれど、そんなことはどうでもいい。気になるのは輝の気持ちだった。
「ねぇ、輝」
「なぁに?」
「僕も輝のことが好きだよ」
先程伝えられなかったことを口に出す。どうしてだか今すぐに気持ちを伝えないと駄目な気がしたから。輝は笑みを浮かべると、応えるようにおでこにキスを落としてくれる。そうして、いつものように蓮斗の手を引いてくれるのだ。
そう……まるで、アリステラの手を引いて駆けてくれたシリルのように。
繋いだ手を一生離したくないと感じる。けれど、ふとした瞬間に夢のように儚く解けてしまいそうで怖い。
「輝っ……」
思わず名前を呼んでしまう。アリステラがシリルを呼ぶときのように。そうすると、必ず彼は振り返って笑いながら名前を読んでくれた。
「どうしたの蓮斗?」
輝が振り返って名前を呼んでくれる。その声が鼓膜を通って、蓮斗の心へと深く届く。それ以上を知る必要はなかった。たったそれだけで、聞きたいことはすべてわかってしまったから。
「……ううん、なんでもない。そうだ!今度輝の部屋に遊びに行ってもいい?」
話題を変えるように尋ねてみる。今はまだなにも知らないふりをしよう。いつか、はっきりとこの違和感の正体を知るときが来るはずだから。
「もちろん。いつでも遊びにおいで」
「言ったからね!絶対だよ!」
念押しすると、突然輝が立ち止まって蓮斗の方を見つめてきた。それに首を傾げていると、耳元に顔が近づけられる。
「二人きりなら、覚悟しておいでよ」
「なっ!」
言っている意味をすぐに理解した蓮斗は、そのシチュエーションを想像してしまう。今日よりももっとすごいことをされるのかと思うと、到底無理な気がしてきた。片手で顔を覆い恥ずかしさに目を閉じた。瞬間輝が動いたのが感じられる。キスをされるのかもしれない。そう思い身構えるも、一向に唇が触れてくる感触はしなかった。代わりに頭を撫でられる。
目を開けると、おかしそうにクスクスと笑っている輝と目が合う。揶揄われたのだと気がついて、蓮斗は怒りと恥ずかしさに頬を膨らませた。
「最低だ!」
「ごめんね、フッ」
「笑ってるじゃないか!」
唇を尖らせてムスッとしながら、手を振り払って一人で歩き出す。その後ろをまだ笑っている輝が、小走りについてきた。廊下に賑やかな笑い声と怒り声が響く。そんなやり取りを、なんだかんだ蓮斗は楽しんでいた。
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