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決意
「ふっかーーつ!」
「おー、オメデトー」
朝一番。部屋から飛び出した蓮斗はリビングで両腕を広げ伸びをしながら叫んだ。そんな蓮斗のことをエプロン姿の都城が迷惑そうな顔で眺めている。輝がお見舞いに来た日から二日。長いようで短かった休みを終えた蓮斗は、元気がとにかく有り余っていた。
「早く飯食えよ。遅刻するぞ。あと、安藤先輩に俺の連絡先渡しといて。いちいち教室に来られると目立つんだよ」
「はいはい。伝えとくよ」
輝は都城に鍵を借りたと言っていたから、そのときにプチ騒ぎでもあったのだろう。人気者と知り合いだと大変だ。他人事のように考えながら、蓮斗はテーブルに並べられている朝食を頬張る。
「おい、好き嫌いするな。野菜も食えよ」
サラダにだけ手を付けずにいると怒られてしまった。ブーッと頬を膨らませ、唇を尖らした蓮斗が渋々上に乗せられたトマトを口に放り込む。
「都城はお小言ばっかりだな~」
まるでマダムトーリーと話をしている気分だった。彼女はとても怖くて厳しい人だった。けれど、誰にも信じてもらえずドン底へと叩き落とされたアリステラに「後ろめたいことがないのであれば、堂々としていなさい。うつむいては駄目よ」と唯一声をかけてくれた人だった。
励まそうとしてくれたわけではないのかもしれない。味方になってくれたわけでもない。けれど、マダムトーリーの言葉はたしかに、アリステラのことを助けてくれた。だから、ふとした瞬間に彼女のことを思い出すと、懐かしい気持ちになるのだ。
都城も似ている。基本的にドライな態度を向けてくるけれど、友達思いで優しい。そんな都城のことが蓮斗はお気に入りだ。
「んじゃ、俺は朝練あるから行くぞ」
「はーい。行ってらっしゃい」
ウィンナーを頬張りながら見送る。
丁度朝食を食べ終えた頃、玄関の方からノック音が聴こえてきた。都城はすでに登校しているため、蓮斗が扉を開けると輝が立って居た。途端嬉しくなる。インターホンを押した主がわかった瞬間、じわりと胸の中に温かくて心地のいい風が吹いたような心地がした。
「体調はどう?」
「もうすっかり元気。歯磨きしてすぐ来るから待ってよ」
「うん。わかったよ」
微笑みを返してくれる輝に、蓮斗もニカッと笑みを返すと部屋へと引っ込む。すぐに歯磨きを終わらせて、鞄にお弁当などの荷物を詰め込むと、再び玄関扉を開いた。
「都城が連絡先交換しようって言ってたよ」
「たしかにその方が俺も助かるな」
「じゃあ、都城には僕から輝の連絡先教えておくね」
「お願いね」
チュッと蓮斗の黒髪にキスが落とされる。その瞬間、色付いた桃の花のように蓮斗は顔を真っ赤にさせ、輝を睨んだ。
「可愛い」
「突然そういうのするのやめてよね!」
「突然じゃないよ。俺はいつだって蓮斗のことを甘やかしてあげたいし、そういう可愛い顔を見つめていたい」
「うぅ~~っ、イケメンじゃなかったらときめいたりしないのに~~!」
「あはは。褒めてくれてるのかな。嬉しいな」
「ちっがーう!」
どうしたらそういう発想になるのだろうか。貶しても華麗に躱されてしまうせいでやきもきしてしまい、蓮斗は歯ぎしりする。
騒ぎながら校舎まで辿り着くと、昇降口で靴を履き替えた。輝と蓮斗の教室は離れているため、ここで別行動になってしまう。
「ねえ、輝」
「どうしたの?」
「僕、志乃と話をしてみようと思ってる。意味はわかるよね?」
「……うん。それなら、俺も一緒に行くよ」
「一緒に来てくれるの?」
「当たり前でしょ」
優しく頭を撫でてくれる手に癒やされる。同時に勇気も貰えた蓮斗は、はにかみながら輝に軽く抱きついた。普段なら人目を気にしてしまうが、今は感謝の意をこうして伝えたかった。
「やっぱり可愛い」
囁き声はあえて聞こえていないふりをする。素直に輝の言葉を受け止めたいから。
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