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肩を貸してあげる

屋上へと移動すると、並んで石床に尻をつける。壁にもたれかかりながら、青々とした空を仰いだ。もうすぐ授業が始まる時間だ。けれど、今は輝が紡ぐ言葉に耳を傾けていたかった。 「シリルがルキナと出会ったのはアリステラのデビュタントの日でね。貧乏な男爵家の令嬢にこの場は相応しくないと罵られて、いじめられていた所を助けたんだよ」  ルキナが高位貴族の令嬢にそう言われていることはアリステラも知っていた。けれど、実際に目にすることと聞くだけではわけが違う。助けたとき、お人好しな部分のあるシリルの瞳にルキナはどのように映ったのだろうか。 「大丈夫かい?と尋ねると、彼女は平気だと言って明るく笑ってみせた。その姿が、なんでも一人で背負い込んで、大丈夫だと笑うアリステラの姿に重なって見えたんだ。だからルキナを選んだのかもしれない」 「どういうこと?」 「アリステラに似ている彼女なら、同じように愛すことができるかもしれない。王族である俺はアリステラを娶れない。それなら、せめて似ているルキナを愛したかった」  最低な考えだろ、と言いながら輝は悲しげな笑みを浮かべた。蓮斗はそんな輝を笑ってやることも、怒ってやることもできない。ただ、静かに「うん、最低だね」と相槌を打つ。きっとそれで蓮斗の気持ちは伝わるから。  誰のことも恨めない。シリルを愛したアリステラの心も、運命に抗いたいけれど抗えなかったシリルのことも。そして、ルキナの行動も。 「アリステラが無実だとわかったとき、すぐに行方を探したんだ。何ヶ月も、ずっと探し続けて、見つかったときには亡くなってしまっていた。シリルはルキナを責めた。酷く罵って、怒鳴りつけて……でも、本当はアリステラが亡くなったのは自分のせいだとわかっていたんだ。突き放したのも、罰を与えたのもシリル自身だ。愛する人を信じられず傷つけた。それを認めたくなかったんだと思う。だから、全部ルキナのせいにしてしまいたかったんだ。志乃があんな風になってしまったのは、きっと俺のせいだよ」  アリステラの知るシリルは、常に公平で、曲がったことが嫌いな性格をしていた。そんな彼がルキナを強く責めた事実が信じられない。けれど、お互いに知っていることよりも知らないことのほうが多いのだ。  前世の記憶を取り戻してから、それを嫌というほどに痛感している。 「僕は前世の記憶を取り戻したときに、今度こそ平穏に生きるんだって決めたんだ。前世のときみたいに誰かに傷つけられたりするのは嫌だって思った。でも、僕だって知らないうちにシリルやルキナを傷つけていたんだと思う。だからね──」 蓮斗は隣に置かれていた輝の手に自身の手を重ねながら言葉を続けた。 「輝は自分のことをそんなに責めなくていいんだ。だって、僕達は転生してやり直す機会を貰えたんだもの。僕もやり直してる最中なんだからさ、一緒に乗り越えて行けばいい。辛いときは、仕方ないから僕の肩を貸してあげるよ」 「っ、……うん。ありがとう」  輝が蓮斗の肩に頭を傾けて寄りかかりる。頬に当たる色素の薄いサラサラの髪を撫でてやりながら、蓮斗はもう一度雲一つない晴天を瞳に映す。今はまだ心の中に暗雲が立ち込めているのかもしれない。けれど、大切な人達や自分自身の未来はこんな風に晴れやかに広がっているはずだ。  そう信じ続けて進む。うつむいてなどいられないのだから。

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